二成分の反応拡散方程式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/18 16:20 UTC 版)
「反応拡散系」の記事における「二成分の反応拡散方程式」の解説
二成分の系は、一成分の系と比較してより幅広い現象を許すものである。アラン・チューリングによって初めて提唱されたある重要なアイデアに、局所的な系においては安定であっても拡散の存在する状況では不安定となる状態というものがある。拡散は一般的には安定化効果と関連するものであるので、一聴するとこのアイデアは直感に反するもののようでもある。 しかしながら、線型化安定性解析によって、一般的な二成分系 ( ∂ t u ∂ t v ) = ( D u 0 0 D v ) ( ∂ x x u ∂ x x v ) + ( F ( u , v ) G ( u , v ) ) {\displaystyle \left({\begin{array}{c}\partial _{t}u\\\partial _{t}v\end{array}}\right)=\left({\begin{array}{cc}D_{u}&0\\0&D_{v}\end{array}}\right)\left({\begin{array}{c}\partial _{xx}u\\\partial _{xx}v\end{array}}\right)+\left({\begin{array}{c}F(u,v)\\G(u,v)\end{array}}\right)} を線型化するとき、定常同次解の平面波摂動 q ~ k ( x , t ) = ( u ~ ( t ) v ~ ( t ) ) e i k ⋅ x {\displaystyle {\tilde {\boldsymbol {q}}}_{\boldsymbol {k}}({\boldsymbol {x}},t)=\left({\begin{array}{c}{\tilde {u}}(t)\\{\tilde {v}}(t)\end{array}}\right)e^{i{\boldsymbol {k}}\cdot {\boldsymbol {x}}}} は次を満たすことが分かる。 ( ∂ t u ~ k ( t ) ∂ t v ~ k ( t ) ) = − k 2 ( D u u ~ k ( t ) D v v ~ k ( t ) ) + R ′ ( u ~ k ( t ) v ~ k ( t ) ) . {\displaystyle \left({\begin{array}{c}\partial _{t}{\tilde {u}}_{\boldsymbol {k}}(t)\\\partial _{t}{\tilde {v}}_{\boldsymbol {k}}(t)\end{array}}\right)=-k^{2}\left({\begin{array}{c}D_{u}{\tilde {u}}_{\boldsymbol {k}}(t)\\D_{v}{\tilde {v}}_{\boldsymbol {k}}(t)\end{array}}\right)+{\boldsymbol {R}}^{\prime }\left({\begin{array}{c}{\tilde {u}}_{\boldsymbol {k}}(t)\\{\tilde {v}}_{\boldsymbol {k}}(t)\end{array}}\right).} チューリングのアイデアは、反応函数のヤコビアン R' の符号によって特徴付けられた系の四つの同値類においてのみ、理解されるものである。特に、有限の波ベクトル k が最も不安定なものであると仮定されたとき、そのヤコビアンは符号 ( + − + − ) , ( + + − − ) , ( − + − + ) , ( − − + + ) {\displaystyle \left({\begin{array}{cc}+&-\\+&-\end{array}}\right),\quad \left({\begin{array}{cc}+&+\\-&-\end{array}}\right),\quad \left({\begin{array}{cc}-&+\\-&+\end{array}}\right),\quad \left({\begin{array}{cc}-&-\\+&+\end{array}}\right)} を備えるものでなければならない。この系の類は、その第一の描写にちなみ活性因子・抑制因子系(activator-inhibitor system)と呼ばれる。すなわち、基底状態の近くではある成分は両成分の生産を促進するが、一方で別の成分はそれらの成長を阻害している。その最も傑出した代表例は、フィッツフュー=南雲方程式 ∂ t u = d u 2 ∇ 2 u + f ( u ) − σ v , τ ∂ t v = d v 2 ∇ 2 v + u − v {\displaystyle {\begin{aligned}\partial _{t}u&=d_{u}^{2}\,\nabla ^{2}u+f(u)-\sigma v,\\\tau \partial _{t}v&=d_{v}^{2}\,\nabla ^{2}v+u-v\end{aligned}}} である。ここで ƒ(u) = λu − u3 − κ は活動電位がどのように神経を移動するかを表している 。また du、dv、τ、σ および λ は正定数である。 活性因子・抑制因子系にパラメータの変化が施されたとき、均質な基底状態が安定であるような条件から、それが線型不安定であるような条件へと移ることがある。その対応する分岐は、支配的な波数 k = 0 を備える大域的な振動均質状態へのホップ分岐であるか、支配的な有限の波数を備える大域的なパターン状態へのチューリング分岐のいずれかであり得る。空間二次元における後者の分岐は、通常、ストライプや六角形のパターンを導くものである。 亜臨界チューリング分岐:フィッツフュー=南雲型の二成分反応拡散系におけるノイズの多い初期状態からの六角形パターンの形成。 t = 0のノイズの多い初期状態。 t = 10の系状態。 t = 100のほとんど収束した状態。 フィッツフュー=南雲の例に対し、そのチューリング分岐およびホップ分岐のための線型安定領域の境界を作る中立安定曲線は、次式で与えられる。 q n H ( k ) : 1 τ + ( d u 2 + 1 τ d v 2 ) k 2 = f ′ ( u h ) , q n T ( k ) : κ 1 + d v 2 k 2 + d u 2 k 2 = f ′ ( u h ) . {\displaystyle {\begin{aligned}q_{\text{n}}^{H}(k):&{}\quad {\frac {1}{\tau }}+(d_{u}^{2}+{\frac {1}{\tau }}d_{v}^{2})k^{2}&=f^{\prime }(u_{h}),\\[6pt]q_{\text{n}}^{T}(k):&{}\quad {\frac {\kappa }{1+d_{v}^{2}k^{2}}}+d_{u}^{2}k^{2}&=f^{\prime }(u_{h}).\end{aligned}}} 分岐が亜臨界であるなら、基底状態とパターンが共存するようなヒステリシスな領域において、しばしば局所的な構造(散逸ソリトン(英語版))が観測される。その他、頻繁に現れる構造としては、パルス列(周期進行波としても知られる)、螺旋波、ターゲットパターンがある。それら三つの解のタイプは、局所的なダイナミクスが安定なリミットサイクルを備えるような二成分(あるいはより多くの成分)の反応拡散方程式の、一般的な構造である。 フィッツフュー=南雲型の二成分の拡散反応系に現れる他のパターン。 回転する螺旋。 ターゲットパターン。 定常的な局所化されたパルス(散逸ソリトン)。
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