乗員の死因と死亡時刻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 06:44 UTC 版)
「チャレンジャー号爆発事故」の記事における「乗員の死因と死亡時刻」の解説
シャトルは3Gまでの負荷に耐えられるように設計されており、さらに1.5G分の安全係数が組み込まれていた。特に乗員室は、強化アルミニウムを使用していることとその設計から、シャトルの中でも大変頑丈な区画である。機体が分解していく間、乗員室はまるごと分離し、ゆっくりと砲外弾道に転がり込んだ。NASAは分離の際にかかった負荷を12Gから20Gの間と推定した。しかしながら、2秒以内には既に4Gを下回っており、10秒以内には乗員室は自由落下していた。この段階でかかった負荷では大きな負傷の原因になったとは考えにくい。 分解直後、少なくとも一部の飛行士は生存しまだ意識があったものと考えられる。というのはフライト・デッキにある4個の個人用空気供給パック(PEAP)のうち3個が作動状態になっていたからである。調査官が空気の残量を調べたところ、機体が分解した後の飛翔経路に要した2分45秒分の予想消費量とおおむね整合していた。 残骸の分析において、調査官たちはマイケル・スミス飛行士の右手側パネルにある電力系統のスイッチのうちのいくつかが、通常の打ち上げ用位置から動かされていることを発見した。これらのスイッチはレバー・ロックで防護されており、別の位置に動かすためにはいったんバネの力に逆らって外向けに引っ張らなければならないようになっていた。後の試験では爆発や海面との衝突で生じた力ではスイッチは動かないことが確認されたことから、スイッチを動かしたのはスミス飛行士であり、乗員室が軌道船の他の部分から分離した後で何とか操縦室の電力を取り戻そうと試みたのだろうと推定される。 飛行士たちが機体の分解後も長時間意識があったのかは不明であり、主に乗員室の与圧が維持されていたかどうかに依存する。もし維持されていなければ、あの高度では意識を保っていられるのは数秒間しかない。個人用空気供給パックは与圧されていない空気を供給するだけだったので、乗員の意識を保つ役には立たなかっただろう。乗員室が海面に衝突した時の速度は約333km/h、制動力は200Gを大きく上回ったと推定され、乗員区画の構造的強度限界や乗員の生存可能レベルをはるかに超えていた。 「スコビー船長は生き残るためにあらゆる努力をした。彼は落下する間ずっと翼も持たずにあの船を飛ばしていた…彼らは生きていたんだ」 — NASA主任調査官ロバート・オーバーマイヤー 1986年7月28日、宇宙飛行士出身でありNASAの宇宙飛行準管理官を務めるリチャード・H・トゥルーリー海軍少将は、ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターの医科学専門家ジョセフ・P・カーウィン(英語版)によるチャレンジャー号事故における乗員の死因に関する調査報告書を発表した。カーウィン博士はスカイラブ2号に搭乗したことのあるベテランで、事故から間もなく調査を委任された。彼の報告によれば: .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}死因は特定できない。乗員区画が海面に激突した際の衝撃が非常に激しかったため、シャトルが分解した直後の数秒間に生じた被害の証拠は覆い隠されてしまった。我々の最終的な結論は以下の通り:チャレンジャーの乗員の死因は特定できない。 機体が分解した際に乗員が受けた衝撃では、恐らく死亡や重傷には至らなかった。 確実ではないが、飛行士たちは、機体が分解してから数秒以内に乗員区画の減圧により意識を失った可能性がある。 これに対してNASAの主任調査官であるロバート・オーバーマイヤー(英語版)など一部の専門家は、全員とは言わずともほとんどの乗員は海面に激突するまでの落下中ずっと生存し意識があっただろうと信じている。
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