不育症、流産の治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 07:45 UTC 版)
「抗リン脂質抗体症候群」の記事における「不育症、流産の治療」の解説
自己免疫によるものとしては血液凝固異常をきたす抗リン脂質抗体症候群(APS)が有名である。不育症の患者の場合は以前に自己免疫疾患の基準を満たさなかったとしても20%の頻度で自己抗体が陽性になることが知られており特に重要視されているのが抗リン脂質抗体である。抗リン脂質抗体としてはループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン・β2GPI複合体抗体、抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体、抗フォスファチジルセリン(CL)抗体(抗プロトロンビン抗体)、抗アネキシンV抗体などが知られている。ループスアンチコアグラントは生体外ではリン脂質依存性のaPTTの延長を示すが生体内では血栓症を引き起こすことが知られている。抗カルジオリピン・β2GPI複合体抗体は抗カルジオリピン抗体のうち血栓症の病的意義が明らかになっている抗体である。抗PE抗体と同様にキニノーゲンに結合する。抗CL抗体はプロトロンビンに結合する。2006年度のAPS分類基準では不育症を認めた場合は比較的容易にAPSと診断されることに注意が必要である。APSによる不育症の治療としては低用量アスピリン療法(LDA)、ヘパリン療法、両者の併用療法、免疫グロブリン静注が知られている。十分なエビデンスは2008年現在存在しないがヘパリン・アスピリン併用療法が一般的である。LDAの投与量は40〜100mgである。これは脳血管障害といった病的血管に対しての投与量よりもさらに少量でよいという考え方があるからである。アスピリンの投与に関しては投与期間に関してはコンセンサスを得られていない。妊娠前から投与することもあるし、妊娠が判明してから投与することもある。36週までで投与を中止することが多いがこれは流産、死産のリスクのためであり、催奇形性はない。他のNSAIDs同様に動脈管早期閉鎖などが関与していると考えられている。ヘパリンに関しては教育入院の後、ヘパリンカルシウム(カプロシン)5000単位の12時間ごとの皮下注を行うことが多い。よりリスクが低いと考えられている低分子ヘパリンの皮下注用製剤としてはエノキサバリンが認可される見込みがある。なおこれら血栓症の治療薬は分娩後も継続するのが一般的である。帝王切開では12時間後より、経腟分娩では6時間後より使用を再開し、6〜8週間にワーファリンに切り替える。アスピリンは継続することが多い。ワーファリンは催奇形性があることから妊娠中は用いたくない薬の一つである。ステロイド剤もリスク減少が報告されるが、ステロイド剤自体も胎児リスクを有する薬剤である点に留意すべきである。その他、血栓性の不育症を起こすものはループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体といった免疫学的な異常によって引き起こされる凝固異常の他、第XII因子、プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンIIIの欠乏なども血栓症による胎盤機能不全による不育症を起こすことが知られている。第XII因子は肺塞栓症の原因としてもよく知られている。通常は50%以下で不足と考えるが60%程度でも注意が必要である。プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンIIIの欠乏は頻度としては非常に少ない。
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