マルクス死後の出版と影響
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「経済学批判要綱」の記事における「マルクス死後の出版と影響」の解説
マルクスの死後、ソビエト連邦において全連邦共産党(ボ)中央委員会付属マルクス=エンゲルス=レーニン研究所がこれらの諸草稿を「経済学批判要綱」と名付けて、1939年および1941年に2分冊として出版した。この2分冊は1953年に写真複製版・合本で東ドイツのディーツ出版社から出版され、巷間に知られることによりこの名前が定着する。それ以来、マルクスの初期の著作である「経済学・哲学草稿」(1843-45年、「パリ・ノート」の一部)・「ドイツ・イデオロギー」(1845-46年)・「共産党宣言」(1848年)と、主著である『資本論』(1867年)を媒介する文献として多くの研究・議論が行われている。 この草稿が学者・思想家に与えた影響は非常に大きい。フランスの哲学者のルイ・アルチュセールは草稿と『資本論』を比較するなかで、マルクスの諸著作を全体として首尾一貫したものとみなすのではなく、マルクスの思想に価値形態論の「断絶」を見出した。それはマルクス・レーニン主義を含む従来の様々なマルクス解釈を批判するものであった。また、イギリスの文化理論研究者のスチュアート・ホールは草稿の「序文」に特に注目し、いくつものゼミナールを持つとともに、論文「マルクスの理論ノート――「1857年の序文」を読む」(Stuart Hall, Marx’s Notes on Method: A ‘Reading’ of the ‘1857 Introduction’, Cultural Studies Vol.17 No.2, pp.113–149, 2003)へと結実するなど、カルチュラル・スタディーズにも大きな影響を与えた。この他、アントニオ・ネグリのように『資本論』よりも重要視する思想家も存在している。 「序説」については、この草稿の議論の見通しや方法が書かれているため、『経済学批判』の付録として出版され、重視される場合が多い。例えば、ソ連共産党マルクス=レーニン主義研究所とドイツ社会主義統一党マルクス=レーニン主義研究所が制作した、Marx-Engels Werke (日本語訳:大月書店版『マルクス=エンゲルス全集』)では、『経済学批判』と同じ巻(第13巻)の付録として収録されている。日本語訳でも、岩波文庫版および国民文庫版で付録として「序説」が収録されている(#日本語訳も参照のこと)。 草稿の一部である「資本制生産に先行する諸形態」(独: Formen, die der kapitalistischen Produktion vorhergehen、「諸形態」とも略される)は、『経済学批判』序言で示される史的唯物論の定式の元となった文章であり、歴史学を中心に特に注目された。ソ連では1939年にロシア語訳され、国際的に行われていたアジア的生産様式に関する議論に影響を与えた。イギリスの歴史学者のエリック・ホブズボームは、「諸形態」を英訳して長文の解説論文を執筆し、資本主義以前の歴史の発展段階は単線的なものではなく、複数のタイプが存在することを主張した。
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