マグマ (数学)
代数的構造 |
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抽象代数学におけるマグマ(英: magma)または亜群(あぐん、groupoid)とは、一つの集合と、その集合上に閉じて定義された一つの二項演算で構成される組(代数的構造)である。
このような構造に「マグマ」という呼称を導入したのはニコラ・ブルバキである。旧来はオイステイン・オアによる用語で亜群(groupoid)と呼ばれていたもので、現在でもしばしばそのように呼ばれる。(ただし、圏論において、「亜群(groupoid)」と呼ばれる全く別の概念もある。)
群に似た構造 | ||||
全域性 | 結合性 | 単位的 | 可逆的 | |
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群 | Yes | Yes | Yes | Yes |
モノイド | Yes | Yes | Yes | No |
半群 | Yes | Yes | No | No |
ループ | Yes | No | Yes | Yes |
準群 | Yes | No | No | Yes |
マグマ | Yes | No | No | No |
亜群 | No | Yes | Yes | Yes |
圏 | No | Yes | Yes | No |
定義
マグマ (M, μ) とは、集合 M と、M 上での閉性(M の元 a, b のどの組み合わせについても、μ(a, b) がまた M の元であること)を満たす二項演算 μ を、組として考えたものである。二項演算 μ は、集合 M 上での閉性のほかに公理を課されない。
演算が明らかで紛れのおそれが無いときは、演算の記号を落として台集合の記号のみによってマグマ M などとも表す。しばしば二項演算 μ はマグマ M における乗法とも呼ばれ、このときの演算結果 μ(a, b) は a と b との積という[* 1]。また、誤解のおそれが無いならば積 μ(a, b) は演算記号を省略してしばしば ab と書かれる。演算記号が省略されている場合に、マグマが台集合と演算の対であることを明示するにはプレースホルダを用いて (M, ·) のように書かれる。
演算 μ が偏演算(局所演算、部分演算)ならば、(M, μ) を局所マグマ(偏マグマ)という[* 2]。
部分マグマ
マグマ (M, μ) の台集合 M の部分集合 N が μ とマグマを成すならば、マグマ (N, μ) を (M, μ) の部分マグマ(submagma)という。
マグマ準同型
ふたつのマグマ (M, μ), (N, ν) の間の準同型写像(magma morphism/homomorphism)またはマグマ準同型とは写像 f: M → N であって、
自由対象 - 集合 S から任意のマグマ M への写像 f: S → M が与えられたとき、f は S 上の自由マグマ FS から M へのマグマ準同型
マグマから群へ:
各頂点は各矢印は- マグマ (magma)
- 準群 (quasigroup)
- 半群 (semigroup)
- ループ (loop)
- モノイド (monoid)
- 群 (group)
可除性も可逆性も消約性の成立を含意することに注意。- 可除性 (divisibility)
- 結合性 (associativity)
- 単位元をもつ (identity)
- 可逆性 (invertibility)
一般には、マグマをそのままマグマとして調べるということはまずあり得ず、代わりに(部分的なクラスに分けるために)マグマの二項演算に適当な公理を課した、いくつかの別な種類の代数系として調べることになる。よく知られたクラスの、特別な名前が付いている代数系としては
- 準群: 空でないマグマで除法が常にできるもの。
- ループ: 単位元を持つ準群。単位的準群。
- 半群: 演算が結合的なマグマ。
- モノイド: 単位元をもつ半群。単位的半群。
- 群: 逆元を持つモノイド。
- アーベル群: 演算が可換な群。
といったようなものを挙げることができる。もちろん、特別な呼び方はなくとも、可換マグマや可換モノイドといったような代数系のクラスもしばしば扱われる。
更なる定義
マグマ M が、[* 3]
- 単位的(unital)であるとは、それが単位元を持つときにいう。
- 中可換(medial)であるとは、恒等式 (xy)(uz) = (xu)(yz) を満たすときにいう。
- 左半中可換(left semimedial)であるとは、恒等式 (xx)(yz) = (xy)(xz) を満たすときにいう。
- 右半中可換(right semimedial)であるとは、恒等式 (yz)(xx) = (yx)(zx) が満たされるときにいう。
- 半中可換(semimedial)であるとは、左中可換かつ右中可換であるときにいう。
- 左分配的(left distributive)であるとは、恒等式 x(yz) = (xy)(xz) を満たすときにいう。
- 右分配的(right distributive)であるとは、恒等式 (yz)x = (yx)(zx) が満足されるときにいう。
- 両側分配的(autodistributive)であるとは、左分配的かつ右分配的であるときにいう。
- 可換(commutative)であるとは、xy = yx なる恒等式が成立するときにいう。
- 冪等(idempotent)であるとは、xx = x が恒等的に成り立つときに言う。
- 単冪(unipotent)であるとは、恒等的に xx = yy となるときにいう。
- 零冪(zeropotent)であるとは、恒等式 (xx)y = y(xx) = xx が成立するときにいう。
- 左交代的(left-alternative)であるとは、恒等式 (xx)y = x(xy) が成立するときにいう。
- 右交代的(right-alternative)であるとは、恒等式 y(xx) = (yx)x が成立するときにいう。
- 交代的(alternative)であるとは、左交代的かつ右交代的であるときにいう。
- 冪結合的(power-associative)であるとは、その任意の元の生成する部分マグマが必ず結合的となるときにいう。
- 左消約的(left-cancellative)であるとは、等式 xy = xz から常に y = z が帰結できるときにいう。
- 右消約的(right-cancellative)であるとは、等式 yx = zx から y = z が常に帰結されるときにいう。
- 消約的(cancellative)であるとは、それが左消約的かつ右消約的となるときにいう。
- 半群(semigroup)または結合的(associative)であるとは、x(yz) = (xy)z が恒等式であるときにいう。
- 左零付き半群(semigroup with left zeros)であるとは、x = xy を恒等的に満足する元 x が存在するときにいう。
- 右零付き半群(semigroup with right zeros)であるとは、x = yx が恒等的に成立するような元 x がとれるときにいう。
- 零半群 semigroup with zero multiplication, null semigroup であるとは、恒等式 xy = uv を満たすときにいう。
- left unar であるとは、恒等式 xy = xz が満足されるときにいう。
- right unar であるとは、yx = zx なる恒等式が成立するときにいう。
- trimedial であるとは、その任意の三元(必ずしも相異なる必要はない)が生成する部分マグマが中可換であるときにいう。
- entropic であるとは、ある中可換消約マグマの準同型像となっているときにいう。
一般化
多項群を見よ。
関連項目
- マグマ圏
- マグマ対象
- 普遍代数学
- Magma (数式処理システム)
- 可換マグマ
- 代数的構造
注記
参考文献
- M. Hazewinkel (2001), “Magma”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
- M. Hazewinkel (2001), “Free magma”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
- Weisstein, Eric W. "Groupoid". mathworld.wolfram.com (英語).
- 田村孝行『半群論』共立出版、1972年。
外部リンク
- magma in nLab
- 代数系への入門 (PDF): 広島大学 2004-2009各年度代数学講義用レジュメ、松本研究室
- 『数学ガール』ミルカさんとコンボリューション (PDF): 結城浩著、物語形式の数学読物のシリーズの一作。括弧のつけ方がテーマの回。とくに3節と7節およびあとがき。
- 集合 S から任意のマグマ M への写像 f: S → M が与えられたとき、f は S 上の自由マグマ FS から M へのマグマ準同型
「マグマ (代数学)」の例文・使い方・用例・文例
- 玄武岩マグマは流動的である
- 火成岩は、凝結によって溶かされた状態から形成される岩である;特に融解したマグマから
- 石英安山岩性のマグマは非常に粘着質である
- 急速に冷える成分から成るマグマ
- その溶解した形体(マグマとして)で火山から噴出する岩
- 溶けたマグマが固まってできた岩石
- 珍しい要素が豊富なマグマの結晶化から生じている極めてきめの粗い花崗岩からなる火成岩の形
- 地下深層のマグマが地表に噴出し,積み重なってできた山
- マグマの活動によって生ずること
- マグマの作用によって起る地球の活動
- マグマの活動に関連して生成される鉱床
- マグマから結晶して生じた鉱物
- 貫入したマグマが固結してできた岩石
- 玄武岩と同じ組成をもつマグマ
- 地球のマグマを源とする,処女水という水
- マグマの貫入により生じる変成作用で生じた鉱物
- 接触変成岩というマグマの貫入による変成作用により生じた岩石
- マグマが外部の岩石を溶かしてマグマの中に取り込む作用
- 高温のマグマが水海に触れ,水が急に気化して爆発する現象
- フォッサマグマという,日本の中部地方をほぼ南北に横切る地質構造線
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