ホッジ構造の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/10 16:13 UTC 版)
ウェイト n の純粋ホッジ構造 (n ∈ Z)(pure Hodge structure with weight n) とは、有限生成アーベル群Hzとその複素化 H の複素線型空間としての直和分解を与えるような複素部分空間の族Hp,q (p+q=n) であって、Hp,q の複素共役は Hq,p であるという性質を満たすもののことである。 H := H Z ⊗ Z C = ⨁ p + q = n H p , q , {\displaystyle H:=H_{\mathbf {Z} }\otimes _{\mathbf {Z} }{\mathbf {C} }=\bigoplus \nolimits _{p+q=n}H^{p,q},} H p , q ¯ = H q , p . {\displaystyle {\overline {H^{p,q}}}=H^{q,p}.} これと同値な定義は、H の直和分解をホッジフィルトレーション(Hodge filtration)に置き換えることにより得られる。ホッジフィルトレーションとは、複素線形空間H の有限な減少フィルトレーション(英語版) FpH (p ∈ Z) で、条件 ∀ p , q : p + q = n + 1 , F p H ∩ F q H ¯ = 0 and F p H ⊕ F q H ¯ = H . {\displaystyle \forall p,q\ :\ p+q=n+1,\ \ F^{p}H\cap {\overline {F^{q}H}}=0\ \ {\text{and}}\ \ F^{p}H\oplus {\overline {F^{q}H}}=H.} を満たすもののことである。これら2つの関係は次の2つの条件で与えられる。 H p , q = F p H ∩ F q H ¯ {\displaystyle H^{p,q}=F^{p}H\cap {\overline {F^{q}H}}} F p H = ⨁ i ≥ p H i , n − i {\displaystyle F^{p}H=\bigoplus \nolimits _{i\geq p}H^{i,n-i}} 例えば、X をコンパクトなケーラー多様体とし、HZ = Hn(X,Z) を X のn 次整数係数特異コホモロジー群とすると、H=HZ ⊗C は、複素係数のn次コホモロジー群となり、ホッジ理論から上記のような H の直和分解が得られ、これらのデータからウェイト n の純粋ホッジ構造が定まる。また、この場合の対応するホッジフィルトレーションを、ホッジ・ド・ラームスペクトル系列(英語版)(Hodge-de Rham spectral sequence)から得ることもできる。 代数幾何学への応用としては、複素射影多様体の周期の分類を考えることができる。すべての HZ のウェイト n のホッジ構造の集合はあまりに大きすぎるが、リーマン双線型写像を使い、それを最終的には小さくし扱いやすくすることができる。この場合の双線型写像をホッジ・リーマンの双線型写像という。ウェイト n の偏極ホッジ構造はホッジ構造 (HZ, H p,q) と HZ 上の非退化整数双線型形式 Q の2つからなる(偏極)。偏極とは H の線型性での拡張であり、次の3つの条件を満たすものを言う。 Q ( φ , ψ ) = ( − 1 ) n Q ( ψ , φ ) ; Q ( φ , ψ ) = 0 for φ ∈ H p , q , ψ ∈ H p ′ , q ′ , p ≠ q ′ ; i p − q Q ( φ , φ ¯ ) > 0 for φ ∈ H p , q , φ ≠ 0. {\displaystyle {\begin{aligned}Q(\varphi ,\psi )&=(-1)^{n}Q(\psi ,\varphi );\\Q(\varphi ,\psi )&=0&&{\text{ for }}\varphi \in H^{p,q},\psi \in H^{p',q'},p\neq q';\\i^{p-q}Q\left(\varphi ,{\bar {\varphi }}\right)&>0&&{\text{ for }}\varphi \in H^{p,q},\ \varphi \neq 0.\end{aligned}}} ホッジフィルトレーションでは、これらの条件は次を意味する。 Q ( F p , F n − p + 1 ) = 0 , Q ( C φ , φ ¯ ) > 0 for φ ≠ 0 , {\displaystyle {\begin{aligned}Q\left(F^{p},F^{n-p+1}\right)&=0,\\Q\left(C\varphi ,{\bar {\varphi }}\right)&>0&&{\text{ for }}\varphi \neq 0,\end{aligned}}} ここに C は、H 上のヴェイユ作用素で Hp,q 上の C=i p-q で与えられる。 もう一つのホッジ構造の定義は、複素ベクトル空間の上の Z-次数と周回群(circle group)U(1)の作用との間の同値性から定義することができる。この定義では、複素数 C* の乗法群の作用は、2-次元の実代数的トーラスとみなすことができ、H の上に与えられる。 この作用は、実数 a が an として作用するという性質を持つ。部分空間 Hp,q は、z ∈ C* が z p z ¯ q {\displaystyle z^{p}{\overline {z}}^{q}} による乗法として作用する部分空間となる。
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