ニュートンによる理論化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/30 06:21 UTC 版)
音速値を初めて理論的に導き出したのはアイザック・ニュートンである。ニュートンは、音は空気の細かな粒子が押しつぶされたり膨らんだり繰り返すことで伝わってゆくと考えた。その上で、1687年に出された著書『プリンキピア』第2篇第8章の中で、次のように記している。 命題48・定理38 脈動が弾性的な流体中を伝えられてゆくそれぞれの速度は、流体の弾性力がそれの圧縮され方に比例すると仮定するかぎりにおいて、(流体の)弾性力の比の平方根と(流体の)密度の逆比の平方根との積の比にある。 ここでいう「弾性力」とは、現代でいう体積弾性率 K [N/m2] を意味する。したがって、速度を v [m/s]、密度を ρ [kg/m3] とおくと、上記のニュートンの定理は v = K ρ {\displaystyle v={\sqrt {\frac {K}{\rho }}}} と表すことができる。 体積弾性率 K とは、圧力 P が dP だけ変化したときの、物体の体積 V の変化率 dV/V との関係式における比例定数のことであるため、 d P = − K d V V {\displaystyle dP=-K{\frac {dV}{V}}} すなわち、 K = − V d P d V {\displaystyle K=-V{\frac {dP}{dV}}} と定義される。これに加えて、ρV=一定(気体の質量は変化しない)の式を使うと、 v = d P d ρ {\displaystyle v={\sqrt {\frac {dP}{d\rho }}}} と表せる。そして、ボイルの法則( PV = 一定)が成り立つとき、k は圧力 P に等しくなり、音速は v = P ρ {\displaystyle v={\sqrt {\frac {P}{\rho }}}} と表すことができる。 ニュートンは、自らが導いた定理と、空気・雨水・水銀の比重、さらに振り子を振ったときの周期を利用して、実際に音速を計算した。そして、音は1秒間に968フィート(295メートル)進むという結果を得た。これはニュートン自身が測定した値である866~1272フィート(263~388メートル)の範囲内であった。 ところが、『プリンキピア』出版後の1698年にウォーカによって測定された音速値は、ニュートンの理論値と異なっていた。王立協会は理論値と測定値のずれを解消させるため、音速の再測定に取り掛かった。この測定はジョン・フラムスティードとエドモンド・ハレーの手でおこなわれ、1708年、ダーハムによって協会に報告された。その値は毎秒1071パリフィート(348メートル)で、ニュートンの理論値よりも大きい値であった。 その後ニュートンは1713年に出された『プリンキピア』第2版で、音速の理論値に修正を加えた。まず、初版では1:850としていた空気と雨水の比重を1:870と修正して、この計算で求められる音速値を毎秒979フィート(298メートル)とした。その上で、実際の音速はこの数値に加えて「空気の固体粒子の粗さ」を考慮に入れなければならないと述べた。 これは次のような理屈によるものだと考えられている。ニュートンの理論によれば、音は空間内にある空気の固体粒子の膨張・収縮が他の粒子に順々に伝わってゆくことで広がる。しかし仮に、一定の空間内に粒子がすき間なくぎっしり詰まっていたとすると、その空間の内部にある粒子は膨張・収縮の運動をすることができない。そのためこの場合は、端にある粒子が動いたとすると、空間内のすべての粒子が、膨張・収縮を経ることなく同時に動くことになるため、端にある粒子の運動がもう一端の粒子に瞬時に伝わることになる。そのように考えると、音速値は、先ほどの979フィートの他に、音が瞬時に伝わる分、すなわち固体粒子の直径分を加えなければならない。 ニュートンは固体粒子の直径:粒子間の距離を1:8ないし1:9と計算し、その結果として、音速は毎秒1088フィートになるとした。 そしてさらにニュートンは、大気中の蒸気についての補正も必要だと考えた。大気中には蒸気が含まれているが、これは音の伝達にはほとんど関与しない。そのため音の運動は、蒸気以外の「真の空気」のみを通って伝えられてゆくので、蒸気の分だけ音の伝達距離が延び、音速は速くなることになる。ニュートンはこの補正を加え、音速の理論値は毎秒1142フィート(348メートル)であると結論づけた。一方で実験値については、毎秒1070パリフィート(1142フィート)であることが確かめられていると記した。この実験値はフラムスティードとハレーによって測定された値を採用したと考えられている。
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