音速
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/12 23:55 UTC 版)
音速(おんそく、英: speed of sound)とは、音が物質(媒質)中を伝わる速さのこと。
概説
- 固体・液体・気体と音速
物質自体が振動することで伝わるため、物質の種類により決まる物性値の1種(弾性波伝播速度)である。
音速は、特に物質の相変化による影響を大きく受け、同じ物質では、固体が最大(つまり固体中の音速が最も速く)、次いで液体、気体の順となる(つまり気体中の音速が最も遅い)。またその物質の状態(温度、密度、圧力)によっても変化し、温度は気体では正の影響を、固体では負の影響を与える。
気相中を音が伝わる場合、おおむね分子量が小さい物質ほど速い傾向を示す。たとえば、媒質が空気(平均分子量29)のときよりヘリウム(分子量4)のときの方が音速は約3倍大きく、吸入してしゃべるとかん高い声になる現象(ドナルドダック効果)が知られている(ただし、100%のヘリウムを吸入すると、窒息して危険なので、必ず空気と同等の酸素含有ヘリウム混合ガスを使用すること)。
なお、媒質中を伝わる振動の成分は、気体と液体では縦波(疎密波)だけであり進行方向と波が同じ方向になる。いっぽう固体中では横波(ねじれ波)が遅れて伝わる。これは地震波と同様であり、録音した自分の声が違って聞こえる、骨伝導による聴覚への影響の一因でもある。
21世紀の科学技術では音速を超える速度まで物体を加速することが容易になってきており、音速の壁問題などもあるため大きな基準とされる。かつてはさまざまな乗り物で音速を超える速度の最高記録へチャレンジされていたが、その過程ではさまざまな死亡事故が発生してきた。近年では記録のインフレと安全面への配慮から、同様の研究は少なくなってきた。
空気中の音速

日常生活上での音速というのは空気中の音速であり、近似的に温度のみの一次式で表すことができ、1気圧の乾燥空気では次の式が常用されている。
つまり1気圧で0℃のとき音速は毎秒331.5メートルであり、温度が1℃上がるごとに音速は0.61 m/s速くなる。 なお上の式は、気体中の音速の式の摂氏0度での接線をとった近似式である。
多くの分野で音速についていうとき、常温として15℃を採用することが一般的であり、その場合 340.5(m/s)となる。それで一般に、音速を15℃で秒速340mとしている[1][2]。高校の物理の教科書や試験問題などでも「音速を340 m/sとする」という文章が添えられていることが一般的である[3]。
空気中の音速を直感的にとらえやすい現象として、雷や打ち上げ花火の発光から爆音が届くまでの時間差や、山間部で山彦が発生し音が反響して聞こえるものがある。
マッハ、標準大気中の音速の「km/h」表示
音速の倍数がマッハ数である。 速度単位の「マッハ」は気圧や気温に影響される。このため、超音速機のスペックを表す場合などは、標準大気中の音速 1,225 km/h が便宜上使われている。
なお、英語の sonic(ソニック)は「音の」「音波の」から転じて、音のように速い=「音速の」という意味を表すが、本来は音速そのものを指す言葉ではない。
海水中の音速
海水中の音速の具体値は 1513 m/s といわれている。つまり、1秒でおよそ1.5km先に伝わる。
より正確には、海水中の音速は水温・圧力・塩分濃度により変化し、次式で近似される[4]。
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マラン・メルセンヌ 1627年、フランシス・ベーコンは著書『森の森』の中で、音速を測定する方法について書いた。寺院の尖塔にろうそくを持った人を立たせ、ろうそくの前にヴェールを置く。そして、鐘を打つと同時にヴェールを取り除かせる。観測する人は尖塔から1マイル離れた野原にいて、ろうそくの光が見えた時間と鐘の音が聴こえた時間の差を、自分の脈拍を使って測る[19][20]。
ただしベーコンは自分ではこの方法を試していない[19]。音速を初めて測定した人物として名前が挙げられるのは、ピエール・ガッサンディあるいはマラン・メルセンヌである。
ガッサンディは1635年、大砲の音を利用して、音速を毎秒478メートルと計算した。またガッサンディは、古代から伝えられていた「高い音は速く伝わる」という説を否定し、音速は音の高低や強弱によらず一定であり、また風速にも影響されないと主張した(ただし音速が風に影響されないというのは現代から見ると誤り)[21][注釈 1]。
メルセンヌは音響学に関する書『普遍的和声』(1636,1637)を著し、その中で、砲声を利用して音速を求める測定について記した。これはベーコンが提唱したのと同じ測定法である。メルセンヌはこの測定法によって、音は空気中を毎秒230トアズ(448メートル)の速さで伝わり、その速さは音の種類や風向きなどに依存しないという結果を得た[22][23]。メルセンヌはこの結果から、音波が地球を一周するのにかかる時間を21時間5(2/3)分と計算して、最後の審判の日に天使が吹き鳴らすトランペットの音は「約10時間以内に地球上のいたるところで聞きとられるであろう」と記した[24]。
メルセンヌはさらに、自らが音を発して、その音が壁に反射して返ってくるまでの時間を計るという方法も試みている。この測定では、音の速さは毎秒162トアズ(316メートル)という結果を得た[25]。砲声での測定と異なる値となったが、メルセンヌは最終的に、砲声の実験で得た毎秒230トアズのほうを音速値として採用している[26]。
科学アカデミーにおける音速測定
1657年、ガリレオ・ガリレイの弟子たちによって、フィレンツェに最初の科学アカデミー「アカデミア・デル・チメント」が設立された[27]。このアカデミーでは様々な実験がなされたが、その1つに音速の測定があった。
音速研究に取り組んだのはヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニとジョヴァンニ・ボレリで、実験自体はアカデミーが正式に設立される前の1656年におこなわれている。測定方法は銃声が聴こえるまでの時間を振り子を使って求めるというもので、測定により、振り子が15.5回振動する間に、音は1.2マイル(3600ブラッチア)進むという結果が残されている。振り子の長さや周期が書かれていないためこの数値だけでは音速は分からないが、別の実験で使われていた振り子の周期などから判断して、このとき得られた音速値は毎秒361メートルと推定されている[28][29]。
デル・チメント設立後、パリの科学アカデミーやロンドンの王立協会が設立され、そこでも音速の値が測定された。パリ科学アカデミーの音速実験は、1677年にジョヴァンニ・カッシーニ、クリスティアーン・ホイヘンス、ジャン・ピカール、オーレ・レーマーらによって砲声を使っておこなわれ、毎秒1097パリフィート(356メートル)と測定された[30](王立協会の測定については後述)。
ニュートンによる理論化
アイザック・ニュートン 音速値を初めて理論的に導き出したのはアイザック・ニュートンである。ニュートンは、音は空気の細かな粒子が押しつぶされたり膨らんだり繰り返すことで伝わってゆくと考えた。その上で、1687年に出された著書『プリンキピア』第2篇第8章の中で、次のように記している。
命題48・定理38 脈動が弾性的な流体中を伝えられてゆくそれぞれの速度は、流体の弾性力がそれの圧縮され方に比例すると仮定するかぎりにおいて、(流体の)弾性力の比の平方根と(流体の)密度の逆比の平方根との積の比にある。[31]ここでいう「弾性力」とは、現代でいう体積弾性率 K [N/m2] を意味する。したがって、速度を v [m/s]、密度を ρ [kg/m3] とおくと、上記のニュートンの定理は
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ジャン=バティスト・ビオ 1802年、ジャン=バティスト・ビオは、空気は急激に圧縮させると温度が上がり、膨張させると温度が下がることにふれた上で、音の伝播について次のように述べた。
音の伝播における空気の膨張と収縮の繰り返しは、それをこうむる粒子中に、我々が上でその存在を理解した温度変化と類似の同程度のごく小さな温度変化を必然的に引き起こす。そしてこの変化はその弾性に影響を及ぼす。その結果、空気の弾性がその密度に比例するという法則が成り立つのは、この流体が再び静止した上で体積変化をこうむる以前の温度を回復してからに限られる。濃縮と希薄化が短い間隔で繰り返される運動状態にあっては、相応する温度変化を考慮しなければならなくなる。[50]音は空気の膨張・収縮によって伝わるとすると、その際に空気の温度は変化することになる。ニュートンは音の伝播を等温変化(ボイルの法則が成り立つ)として計算したが、音速を正しく求めるならば、温度変化も考えなければならない。ビオはラグランジュの手法を使って、弾性力が密度の1+α乗に比例すると考え、このとき音速は、これまでの理論値の
ピエール=シモン・ラプラス ピエール=シモン・ラプラスも、ビオと同じように空気の圧縮にともなう熱を考慮に入れるべきだと考え、そして、この空気の圧縮・膨張は、現在の用語でいう断熱変化であると考えた[53]。
この理論によると、ビオが述べたように弾性力は密度の 1+α 乗に比例し、その 1+α の値は、空気の定積モル比熱
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音速と同じ種類の言葉
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