ニューコープとそれ以降
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 04:42 UTC 版)
1969年、ニューコープは両生類の初期胞胚の動物極側、外胚葉になるべき部分(アニマルキャップとも呼ばれる)と、植物極側の内胚葉になるべき部分を切り出し、これらを接触させて培養する実験を行った。これらの部分は単独で培養した場合、前者は表皮的な細胞に、後者は内胚葉性の細胞を生じる。つまり、中胚葉は生じない。ところが、両者を接触させて培養した場合、その間に筋肉や血管など中胚葉性の細胞を生じた。これは明らかに誘導が存在したことを示すものである。さらに、中胚葉性の細胞は動物極側の細胞から形成されたことが確認されたため、内胚葉側が誘導をしているものと判断された。中胚葉誘導は胚誘導の最初の段階にあたり、桑実胚から初期の胞胚の時期に起こる。 さらに、動物極側の細胞に対して、植物極側の腹側と背側の細胞群を分けて接触させた場合、背側の植物極細胞と接触させたものでは背側の中胚葉が、腹側のものでは腹側の中胚葉が誘導されることが判明した。中胚葉の背側には形成体になる領域が含まれており、このことから、植物極側の背側には形成体の誘導に関わる特別な部分があると考えられるようになり、これはニューコープセンターと呼ばれる。なおこのような研究は、主にアフリカツメガエルを使って行われた。 これを受けてこの現象の原因物質探しが行われ、動物の幾つかの成分や抽出物でその活性があるものが発見された。他方、この時期より後、1980年代中頃より、培養細胞に於いて細胞の増殖や分化を調節する細胞増殖因子と呼ばれるタンパク質群が発見され始めていた。1978年にイギリスのスラックはそのようなほ乳類の細胞増殖因子の一つ、FGF(繊維芽細胞増殖因子)にこの活性があることを発見した。この物質はその濃度に応じて低濃度で腹側の中胚葉、高濃度で筋肉を作らせることが出来、これはモルフォゲンとして想定された性質にかなう。だが、脊索を誘導することは出来なかった。 浅島誠はほ乳類の細胞培養の上澄みからアクチビンという、TGF-βファミリーという細胞増殖因子の一つを発見し、これが強い中胚葉誘導の活性を持ち、濃度を上げると脊索や形成体も誘導されることを示した。それまでに知られていた中胚葉誘導因子にも、全てアクチビンが含まれていた。アクチビンは卵巣のろ胞で合成され、卵黄と共に卵細胞に送り込まれる。しかし、アクチビンの働きだけではこの現象は説明出来ず、さらにいくつもの因子が働いて起きるものであることが明らかにされている。それらはβ-カテニンが卵割の進行に連れて背側に局在するようになること、それがシャモア遺伝子の発現を促すこと、また卵が成熟する間に植物極側にVegTという遺伝子のmRNAが集まること、これによってノーダルなどのタンパク質が作られ、それらが誘因因子として働くことなどが知られている。
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