ドイツでの基礎研究成果
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「ステンレス鋼の歴史」の記事における「ドイツでの基礎研究成果」の解説
一方、ドイツでは、グスタフ・タンマン(ドイツ語版)が合金の状態図の研究を進めていた。タンマンは、よく使われていた金属20種類について組成を変えながら組み合わせて1900個もの試料を作製して、合金状態図の全貌を大まかながら明らかにした人物である。1907年、タンマンは初の鉄・クロム系二元状態図を報告した。この状態図は間違いや不完全な点を含んでいたが、初の鉄・クロム系二元状態図として価値あるものであった。 タンマンの鉄・クロム系二元状態図の発表は、アーヘン工科大学の教授であったヴィルヘルム・ボルヒャース(ドイツ語版)を触発した。1908年、ボルヒャースは、研究生であったフィリップ・モンナルツに、タンマンの結果の追試と無炭素のクロム・鉄合金の耐酸性と機械的性質の研究を進めさせた。モンナルツは、クロム含有量 3.8 % から 98.2 % までの試料を用意した。炭素量は、現在からの推定で 0.03 % 以下であった。タンマンの結果を追試後、モンナルツは塩酸、硫酸、硝酸、混酸、水道水、大気といった環境下で試料の耐食性を試験した。 モンナルツの研究成果は、彼の学位論文 "Beitrag zum Studium der Eisen-Chromlegierungen unter besonderer Beriicksichtigung der Saurebestandigkeit"(参考訳:クロム・鉄合金における特に耐酸性に注目した研究への寄与) としてまとめられ、1911年に大学へ提出された。この論文でモンナルツは、次のような、現在でも通用する卓越した知見を述べている: クロム・鉄合金の耐食性の向上は、不働態現象によって起こること 不働態の強さはクロム含有量に比例すること 不働態は酸化性雰囲気で形成されるが、還元性雰囲気では破壊されること クロム含有量 12 % 以下になると、クロム・鉄合金の耐食性は落ち出し、この現象は硝酸、水、大気中で特に顕著であること 合金中の炭素はクロム炭化物を形成すること 形成されたクロム炭化物は硬さを向上させるが、耐酸性を悪化させること 含有されている炭素は、チタン、バナジウム、モリブデン、タングステンのような炭化物生成元素を少量添加すれば、耐食性を悪化させないように安定化できること モリブデンの添加は、耐食性向上に特に有効であること モンナルツの研究成果の驚くべき点は、ステンレス鋼自体の発見に留まらず、ステンレス鋼がなぜ耐酸性を持つのかという原理の発見にも及んでいる点である。この画期的な研究成果は、1911年の3月と4月の2回に分けて学術雑誌にも掲載され、大きな反響があった。ハドフィールドから広まった高クロム鋼の耐食性に関する誤解は払拭され、ステンレス鋼の時代の幕開けとなった。
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