トロヤ群と小惑星帯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/10 07:06 UTC 版)
木星と土星が 2:1 の共鳴を通過した後、両者の重力的な影響によってトロヤ群の共軌道領域を不安定化する。これにより木星と海王星のラグランジュ点 L4 と L5 に存在していたトロヤ群小惑星が失われ、外側の微惑星円盤からやってきた新しい天体がトロヤ群小惑星として捕獲される。トロヤ群の共軌道領域にいる天体は軌道要素の秤動を起こし、L4 か L5 点に対して周期的な運動をする。木星と土星の軌道が共鳴の位置関係に近いが共鳴は起こしていない時、トロヤ群天体の近日点に対する木星が土星を追い越す地点はゆっくりと循環する。この循環の周期がトロヤ群天体の秤動の周期と共鳴を起こすようになると、トロヤ群天体の秤動の振幅はそれらがラグランジュ点周辺からの脱出を招くまで増大する場合がある。この状態になるとトロヤ群の共軌道領域は「力学的に開かれた状態」となり、天体はこの領域から脱出することも進入することも出来るようになる。初期に存在したトロヤ群天体はこの領域から脱出し、散乱された微惑星円盤からやってきた多数の天体の一部が一時的にこの領域に留まることになる。木星と土星の軌道が離れた後にトロヤ群領域は「力学的に閉じた状態」となり、トロヤ群領域にいる微惑星は捕獲され、多くは現在までこの領域に残っていると考えられる。捕獲されたトロヤ群天体の軌道傾斜角の分散は大きな値を示す。この原因についてはこれまでは理解が進んでいなかったが、トロヤ群天体が巨大惑星と何度も遭遇をした結果だと考えられる。シミュレーションでのトロヤ群天体の秤動角と軌道離心率も木星のトロヤ群天体の軌道の観測結果と一致する。ニースモデルにおけるこの機構は海王星のトロヤ群でも同じように発生する。 木星が内側へ移動するにつれ、多数の微惑星が木星との平均運動共鳴に捕獲されたと考えられる。これらのうち木星との 3:2 の軌道共鳴にとどまっているものはヒルダ群として知られている。その他の天体の軌道離心率はそれらが共鳴に入っている間に減衰し、木星の移動に伴って共鳴の位置が内側に移動するにつれ、2.6 au 以遠の距離で小惑星帯の外側の安定な軌道上に脱出したと考えられる。これらの共鳴に捕獲された天体は衝突による侵食を受けて小さい破片を生成し、これらはヤルコフスキー効果によって軌道が変化して不安定な共鳴軌道に入る。また小さい粒子にはポインティング・ロバートソン効果が働き、粒子は太陽の方向へ向かって落下する。ニースモデルでは、これらの過程によって初期に小惑星帯に存在した天体のうち質量にして 90% が失われたとされている。この侵食 (erosion) による天体のサイズ頻度分布のシミュレーションの結果は、観測と非常によく一致する。このことは、全てがD型小惑星からなる木星のトロヤ群、ヒルダ群、および小惑星帯外側のいくつかの小惑星群は、この捕獲と侵食の過程を経験した微惑星の残骸であることを示唆している。また、準惑星のケレスもこの過程で捕獲されたことが示唆されている。ただし、最近になって軌道長半径が 2.5 au 未満のD型小惑星が数個発見されており、これはオリジナルのニースモデルでの捕獲が発生する位置よりも内側である。
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