チェーホフのかもめ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 00:40 UTC 版)
「チャイカ」(かもめ)といって思い当たるものの筆頭に上げられるのは、まずロシアの作家アントン・チェーホフの戯曲『かもめ』であろう。これは湖畔のとある田舎の物語で、文学や舞台における「新しい形式」を求める青年の挫折、彼の恋する相手や大女優である母親との軋轢、都会からやってきた流行作家やこの田舎のほかの住人らの生活・人生を描く。初演は、役者や観客の不理解から一時チェーホフに「もう二度と戯曲は書くまい」と決心させたほどの失敗に終わったが、モスクワ芸術座での2度目の公演は大成功を収め、チェーホフにのちに「4大戯曲」と呼ばれることになる『ワーニャ伯父さん』、『三人姉妹』、『桜の園』を書かせることとなった。また、モスクワ芸術座は「かもめ」のエンブレムを劇団のシンボルに採用している。 『かもめ』には「4幕の喜劇」という副題が付けられているが、内容は一般に「コメディー」から想像されるもの若干異とはなる。一見「悲劇」と名付けられそうなこの戯曲に敢えて「喜劇」と銘打ったことから、チェーホフがそのような本人たちにとってはとても喜劇的とはいえない人生を、客観視してひとつの「喜劇」として描いたと評される。 なお、『かもめ』の初期の日本語訳では「海の鴎」(注:原文正字)という訳語が使用されているが、чайка には英語の seagull のように「海」という意味が特に含まれているわけではないので、敢えて「海の」と形容する必要はない。また、一見「陸の鴎」のように思われる里山にいるカモメも、季節によって海から川沿いに移動しているだけであったりするので、「海の鴎」という訳語はあまり意味がない。また、戯曲の舞台はあくまで「湖の畔」であるので、そこに飛び交うカモメが「海の鴎」であるというのは描写的におかしく、また実物のカモメとシンボルとしての「かもめ」を「鴎」、「海の鴎」と訳し分けてしまっているとすれば、それはナンセンスである。現代では、一部の例外を除いてたんに「かもめ」と訳されている。
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