カルシウムの結合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/06 17:25 UTC 版)
「EGF様ドメイン」の記事における「カルシウムの結合」の解説
カルシウム結合性のEGF様ドメイン(cbEGFドメイン)はマルファン症候群や血友病Bなどの疾患に重大な影響を与えており、最も豊富に存在する細胞外カルシウム結合ドメインの1つである。重要なことに、cbEGFドメインは血液凝固カスケードのさまざまなタンパク質に特異的機能を付与している。そうした凝固因子の例としては、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、そしてそのコファクターであるプロテインS(英語版)が挙げられる。 cbEGFドメインは典型的には45アミノ酸からなり、2つの逆平行βシートからなる構造をとる。この配列内のいくつかのシステイン残基はジスルフィド結合を形成する。 cbEGFドメインと他のEGF様ドメインとの構造的差異は大きなものではないが、その名称が示す通り、cbEGFドメインは1つのカルシウムイオンを結合する。カルシウムに対する結合親和性には大きな差異が存在し、多くの場合隣接するドメインにも依存している。カルシウム結合のコンセンサスモチーフはAsp-Leu/Ile-Asp-Gln-Cysである。カルシウムの配位は特殊な翻訳後修飾との強い相関がみられる。アスパラギンまたはアスパラギン酸はβ-ヒドロキシル化され、エリスロ-β-ヒドロキシアスパラギン(Hyn)またはエリスロ-β-ヒドロキシアスパラギン酸(Hya)が生じる。Hyaは第IX因子、第X因子、プロテインCのN末端のcbEGFモジュールにみられる。Hyn修飾はHyaよりも広くみられるようであり、細胞外マトリックスタンパク質であるフィブリリン1(英語版)に生じることが示されている。どちらの修飾もジオキシゲナーゼ(英語版)であるAsp/Asn-β-ヒドロキシラーゼ(英語版)によって触媒され、真核生物のEGFドメイン特有のものである。 cbEGFドメインにはさらなる翻訳後修飾も報告されている。第VII因子と第IX因子の最初の2つのシステインの間のセリン残基には、O-結合型二糖または三糖の形でグリコシル化が行われている可能性がある。第VII因子のSer60にはO-結合型フコースがみられる。 多くの場合、複数のcbEGFドメインは1つまたは2つのアミノ酸によって連結されてより大きなリピート配列を形成しており、こうしたドメインはcbEGFモジュールとも呼ばれることもある。血液凝固カスケードの因子では、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインCは2つのタンデムなcbEGFモジュールを持つのに対し、プロテインSは4つのモジュールを持つ。フィブリリン1とフィブリリン2には43個ものモジュールが見つかっている。第VII因子、第IX因子、第X因子には、2つのcbEGFドメインのN末端側にγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)を含むモジュール(Glaモジュール(英語版))が存在している。In vitroでの研究では、第X因子から単離されたGla-cbEGFタンデム断片とカルシウムとの結合のKdは0.1 mMであることが明らかにされており、それに対し血漿中の遊離カルシウム濃度は1.2 mMである。Glaモジュールが存在しない場合、cbEGFモジュールのカルシウムとのKdは2.2 mMとなる。そのため、Glaモジュールの存在はカルシウムに対する親和性を20倍高めていることになる。同様に、Glaモジュールとセリンプロテアーゼモジュールの活性もcbEGFモジュールの影響を受ける。カルシウムが存在しない場合、GlaモジュールとEGFモジュールはきわめて可動性が高い。しかし、cbEGFモジュールがカルシウムと結合すると、cbEGFモジュールは新たなコンフォメーションをとって隣接するGlaモジュールを特定の位置に固定するため、Glaモジュールの動きは大幅に制限される。このようにカルシウムの配位はコンフォメーション変化を誘導し、酵素活性を調節している可能性がある。 カルシウムの配位の欠陥は重大な疾患を引き起こす。第IX因子へのカルシウムの配位の欠陥は、血友病Bの発症に寄与する。この遺伝疾患の影響を受ける人は出血を起こしやすい傾向があり、その結果命に関わる状況が引き起こされる可能性がある。血友病Bの原因は第IX因子の活性の低下または欠乏である。カルシウムに対する親和性を低下させる第IX因子の点変異は、この出血性疾患に関係していると考えられている。分子的観点からは、血友病はGlaモジュールを効率的に局在させる能力の欠陥のために引き起こされる。完全に機能的な第IX因子では、Glaモジュールの局在はcbEGFモジュールにカルシウムが配位した後に起こる現象であるため、カルシウム配位の欠陥は第IX因子の生物学的機能を損なうと考えられている。同様の問題はGlu78Lys変異を持つ血友病患者でも見られる。1番目ののcEGFモジュールに位置するGlu78は2番目のcEGFモジュールに位置するArg94と接触し、それによって双方のモジュールは整列するため、この変異によって2つのcbEGFモジュール間の相互作用は妨げられる。このように、ドメイン間相互作用(部分的にはカルシウムの配位によって促進される)は血液凝固カスケードに関与するタンパク質の触媒活性に重要である。
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