エルサレム (聖歌)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 07:09 UTC 版)
Jerusalem | |
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エルサレム(ジェルサレム) | |
和訳例:エルサレム | |
![]() ブレイクによる彩色がなされた「ミルトン」の序詞の表紙。 | |
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別名 |
And did those feet in ancient time (古代あの足が) |
作詞 | ウィリアム・ブレイク(1804年から1811年) |
作曲 | チャールズ・ヒューバート・パリー(1916年) |
「エルサレム」(英語: Jerusalem)は、18世紀イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩『ミルトン』(Milton)の序詩に、同国の作曲家サー・チャールズ・ヒューバート・パリーが1916年に曲をつけたオルガン伴奏による合唱曲。後にエドワード・エルガーによって編曲され管弦楽伴奏版も作られた。毎年夏に開催されている「プロムス」の最終夜において国歌『国王陛下万歳』、エルガーの『希望と栄光の国』と共に必ず演奏される。更にはラグビーやクリケットでのイングランド代表が国歌として使用しているなど、イギリス国内では様々な場面において特別な扱いを受けている歌である。労働党大会では『赤旗の歌』とともに必ず合唱され、他方では極右政党の党歌にもなっている。
原詩のタイトルは "And did those feet in ancient time"(古代あの足が)だが、一般に「エルサレム」の名で知られる。
ブレイクが『ミルトン』のあとに書いた『エルサレム』(Jerusalem)というタイトルの長い預言詩とは別の詩である。
この曲が作られた背景には、第一次世界大戦中、イギリス国民の愛国心を高揚させる音楽が必要とされたという事情がある。しかし、この曲を大英帝国の戦争賛美の目的に利用しようとした者たちの意図とは異なり、ブレイクの詩が語っているものは、あらゆる権威や権力に屈することのない自由な精神活動を続けていくことの決意宣言である。この歌は英国における婦人参政権運動を鼓舞し、作曲者のパリー自身もこの曲を英国婦人会連盟[1]に贈ったことから[2]、同連盟の連盟歌となっている。
パリーがこの曲を作るに至ったのは、桂冠詩人であるロバート・ブリッジズの提案による[3]。国難に際しても歌われる曲である[4]。
詩
- 和訳はwikipedia編集者による[5]。
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解説

この詩は「神の聖なる子羊」(the holy Lamb of God)イエス・キリストが古代イングランドに来たという伝説をふまえたものだが、そうした古代の伝説そのものより、暗い否定的な現状(「雲に覆われた丘」(our clouded hills)、「闇のサタンの工場」(dark Satanic Mills))と闘おうとする意志(「ぼくは精神の闘いから一歩も引く気はない」(I will not cease from Mental Fight))にこの詩の強調点があると考えられる。
この詩が収められている『ミルトン』の序の部分でブレイクは、「肉の戦い」(Corporeal War)と「精神の闘い」(Mental War)とを対比させ、「軍隊、法廷、大学」に潜伏し「精神の闘いを挫折させ、できることなら永久に肉の戦いを長引かせようとする」(who would if they could, for ever depress Mental & prolong Corporeal War)者たちを告発しており、そこでの主張を「ぼくは精神の闘いから一歩も引く気はない」(I will not cease from Mental Fight)という詩の表現に反映させている。
また「闇のサタンの工場」(dark Satanic Mills)は、18世紀後半からの産業革命により英国に出現しはじめた工場群を指すと一般には解釈されているが、「帝国はもはや存在していない」(Empire is no more)(『天国と地獄の結婚』および『アメリカ ひとつの預言』)「すべての宗教はひとつである」(All Religions are One)(『すべての宗教はひとつである』)のような預言的言葉を残したブレイクの眼には、工場だけではなく、大英帝国という国家システムとそれを支えるさまざまな出張所(軍、法廷、大学、教会など)が、人間の血と汗を葡萄の汁のように搾り取る「闇のサタンの工場」のごときものに見えていたかも知れない。
編曲作品
- エドワード・エルガー - オルガン伴奏の原曲を管弦楽伴奏に編曲。BBCプロムスではこの版が演奏されている。
- エマーソン・レイク・アンド・パーマー - アルバム『恐怖の頭脳改革』の1曲目に、プログレッシブ・ロックにアレンジされた同曲が収録された。
- ヴァンゲリス - 映画『炎のランナー』のサウンドトラックで、シンセサイザーと合唱を基本としたアレンジがなされた(この映画の原題"Chariots of Fire"は、詩の中にある"Chariot of fire"に由来する)。同名サウンドトラック・アルバムの6曲目(LPではA面の最後)に収録されている。
- リック・ウェイクマン - ソロ・アルバムにピアノ・ソロで収録している。
- 2012年ロンドンオリンピックの開会式では、『スコットランドの花』『ダニー・ボーイ』『天国のパン』を間にはさみ、少年のソロで歌唱された。
- マーク・スチュワート&マフィア - アルバム『臆病者と20倍楽しむ方法 "Learning to Cope with Cowardice" 』にレゲエ/ダブの手法を用いてカヴァーされた同曲が収録された。
- The JAMs(The KLF)- シングル「It's Grim Up North」のタイトル曲の最後に、同曲をサンプリングして使用。
脚注
- ^ Why was Jerusalem chosen as the WI’s anthem?
- ^ ‘Jerusalem’ and the Women’s Institute
- ^ "Rule Britannia and other music from Last Night of the Proms" NAXOS 8.553981のライナーノート
- ^ 山内久明, グレアム・ロー編著(1999) 『Voices from Britain』(放送大学教材)放送大学教育振興会
- ^ 邦訳について安藤潔「ブレイクの名詩再読」(関東学院大学人文学会紀要137号、2017)P.15、PDF-P.3[1]も参照されたし。
外部リンク
「エルサレム (聖歌)」の例文・使い方・用例・文例
- エルサレムへの巡礼者
- 十字軍戦士はエルサレムを征服したが、また失った。
- 手始めは、三大宗教の聖地、エルサレムを訪れることだった。
- ヨハネの証言はこうである。ユダヤ人達が祭司とレビ人をエルサレムからヨハネのもとに遣わして、あなたは誰ですかと尋ねさせた。
- ユダヤ人の過越の祭りが近づき、イエスはエルサレムに上がられた。
- ローマ支配下のエルサレム.
- 天上の都, 天国 《エルサレム》.
- エルサレムには、特徴的な中東の花がある−カーティス・ウィルキー
- 1145年から1147年までの十字軍で、十字軍の内部争いによって失敗に終わり、それによって1187年にエルサレムを失うことになった
- コンスタンティノープルの戦いに気を取られ、エルサレムを取り戻すことができなかった1202年から1204年までの十字軍
- 1244年エルサレム喪失の後、1248年に始まった十字軍で1249年に敗北した
- エルサレムの神聖な土
- ユダヤ人の崇拝のための主要な中心部として機能したエルサレムの3つの連続した寺院のいずれか
- コンスタンティノープル、アンチオケ、アレキサンドリア、モスクワまたはエルサレムに拠点を置いた東カトリック教徒のいずれの信念と習慣
- バビロニアのバビロンの捕囚の後、エルサレムでユダヤ人の法律と崇拝を再構成する紀元前5世紀のラビの努力について書かれている旧約聖書本
- 紀元前444年の私がリーダーになったアルタクセルクセスの法廷のバビロニアのCaptivityの後にエルサレムを再建しているユダヤ人の職員をどのようにかに言う旧約聖書の本
- 紀元前586年にエルサレムの破壊の後、ユダの荒涼を嘆いている旧約聖書
- エルサレムとユダの失脚と彼らのその後の復活に関するエゼキエルの予言を含む旧約聖書
- エルサレムの破壊を予兆したミカの予言を語る旧約聖書
- 人生における突然の転機(エルサレムからダマスカスまでのクリスチャンの逮捕の路上での使徒パウロの突然の転向と似ている)
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