アラビア・イスラム世界
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アラビア語を公用語とする巨大なイスラム帝国は、ビザンツ帝国からきた非正統派キリスト教徒や知識人を迎え入れていた地域に成立したことから、これらの人々がもたらした古代末期ヘレニズム世界の知的遺産を受け継ぐことになった。イスラム世界のキミアを中心とする化学的な知識は、基本的にギリシア・エジプト期の大都市アレクサンドリアで花開いた文化の遺産である。また、キミアの伝統で強調された不老長寿の薬「エリクシル」 elixir という概念は、中国起源であるといわれている。イスラム世界は、隣接する諸文明からさまざまな古代の伝統や概念を収集・吸収・保存した点が、その大きな特徴といえるだろう。 イスラム世界における初期のキミア文献の大多数は、プラトンやアリストテレスといった古代ギリシアの有名な人物に帰された贋作である。なかでもヘルメスは重要な地位を占めた。アレクサンドリアの時代からヘルメス・メルクリウスは、あらゆる学問の神とされたから、彼らが自らの技芸の正統性と高貴さを示すためには格好のシンボルだったといえる。とくに重要なのは、『エメラルド板』 Tabula smaragdina と呼ばれる10数行からなる寓意的な詩句である。 イスラム世界におけるキミアの黄金時代には、有名なジャービル・イブン・ハイヤーンに帰せられる巨大な文書群が姿を現した。これらは複数の人物によって数世代にわたって書かれたものであり、偉大なるジャービルの名を冠されただけというのが真相である。もっとも古いとされる『慈悲の書』は9世紀後半に書かれたと考えられている。10世紀後半には、文書群の全体像ができあがっていたとみられる。 医学者・哲学者アヴィセンナは、金属変成の可能性そのものは否定する。しばしば彼に帰される『キミアの魂についての書』 De anima in arte alchemiae は偽書であることが確認されている。
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