猛禽図目貫
江戸後期 金無垢地容彫 表左右;31ミリ 裏左右;30.5ミリ 『日本刀金工名作集』所載 佐藤寒山博士箱書 「出来見事也」 |
横谷系にあって、精巧緻密な彫り口と写実的で正確な構成の作品を専らとし、しかも豪奢で華麗な趣が充満する題材を描き表わし、江戸後期の金工界に特異な芸術分野を開拓した石黒家。同家初代政常の高弟石黒政明は文化十年の生まれで定吉と称す。政常の下職として技術を会得し、業成って後は、一門中では政美と並ぶ名人として世に知られる。神田松下町に独立開業以降は、家伝の細密な彫り口になる花鳥の図柄を得意として作品多く、政親・守明・吉明などの巧者を育成している。政明の生まれた文化文政頃は、一時停滞していた芸術文化が飛躍的に発展した時代でもある。この特色ある時代を構築した円山応挙・長沢蘆雪・伊藤若沖・喜多川歌麿・司馬江漢等々の絵師の作風に影響を受けた金工も多く、政常や政明もまた、応挙の持つ写実性と豪華さを金工上に表現したが、金工の立体芸術は他の芸術とは異なり、明らかに独歩の道を進んだのであった。掲載の目貫は、花鳥図の中でも石黒派が最も得意とした猛禽図を題に採り、一切の背景を省略し、主題のみを金無垢地に容彫表現した精密で迫力ある作品。金無垢地は荘厳な色合いを呈して眩く、量感のある容彫によって品格高く造り込まれ、繊細な毛彫りと片切彫によって羽根毛は柔らかみを持ちながらも強靱な趣に仕上げられ、窪んだ眼窩に見開いた目玉と嘴も鋭い切り口で実体的。顔の細部も微細な毛彫りで表情豊かに彫り表わされている。 |
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