ふとん
『蒲団』(田山花袋) 竹中時雄は、女学生芳子が去った後(*→〔教え子〕5)、彼女の部屋へ入って、蒲団と夜着を押入れから引き出す。女の懐かしい油の匂いと汗のにおいが、時雄の胸をときめかした。夜着の天鵞絨(ビロード)の襟に顔を近づけて、心ゆくまで女の匂いを嗅いだ。性慾と悲哀と絶望が、時雄の胸を襲った。時雄は蒲団を敷き、夜着をかけ、天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
*女の移り香がしみついた薄衣→〔衣服〕7の『源氏物語』「空蝉」。
★2.蒲団から声がする。
『鳥取の蒲団のはなし』(小泉八雲『知られざる日本の面影』) 鳥取の宿屋が、古手屋から1枚の掛蒲団を買った。夜になると蒲団から「あにさん寒かろう」「お前寒かろう」と声がするので、客は気味悪がった。かつてその蒲団には、両親を亡くした貧しい兄弟が寝て、「あにさん寒かろう」「お前寒かろう」といたわり合っていたが、家主が蒲団を取り上げ、雪の日に兄弟は凍死したのだった。
『えんどう豆の上に寝たお姫様』(アンデルセン) 嵐の晩に城を訪れたお姫様のために、妃がベッドをしつらえる。ベッドに1粒のえんどう豆を置き、上に20枚の敷き布団と20枚の羽布団を重ねて、その上に寝かせるが、翌朝お姫様は、「堅いものの上に寝たので身体中に跡がついた」と言う。この繊細さこそ真のお姫様の証拠であり、彼女はこの城の王子の妻となる。
『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第8話 バラモンの3兄弟が、プラセーナジット王に拝謁する(*→〔識別力〕1)。王は寝台の上に7枚の布団を敷き重ねたベッドを用意し、バラモンの末弟がそこに寝る。末弟はわき腹に苦痛を訴えて起き上がり、見ると何かがくいこんだ赤い痕跡がある。王が調べさせると、布団の一番下、寝台の木の表面に毛があった。
『ヰタ・セクスアリス』(森鴎外) 「僕(哲学者・金井湛)」は14歳の時、悪い事を覚えた。西洋の寄宿舎には、青年の生徒にこれをさせない用心に、両手を被布団(きぶとん。=掛布団)の上に出して寝ろという規則があって、舎監が夜見廻(まわ)る時、その手に気をつけることになっている。「僕」はそれを試みたが、人が言うほど愉快でないし、頭痛や動悸がする。「僕」はそれからは、めったにそんな事をしたことはない。
『肉蒲団』(李漁) 「世間第一の才子」になろうと志す未央生(びおうせい)は、自分にふさわしい「天下第一の佳人」を娶りたい、と願う。孤峯和尚が出家を勧めるが、未央生は聞き入れないので、和尚は「それならば佳人を娶って、肉蒲団の上で悟りを開くが良かろう」と言う。未央生は佳人を求めて、女性遍歴を始める〔*ここでいう蒲団は、蒲(がま)の葉で編んだ円座。僧が坐禅を組む時に用いる敷物〕→〔去勢〕1。
★6.いくら年齢の離れた男女でも、一つの蒲団に寝れば、ただではすまない。
『真景累ケ淵』(三遊亭円朝) 富本の師匠・豊志賀(お志賀)の家には、年若い新吉が住み込んで(*→〔金貸し〕2a)、いろいろな手伝いをしていた。11月20日、霙(みぞれ)の降る晩、豊志賀は、2階の新吉に「お前も寒いだろうから、下へ降りて、私の蒲団の中へお入り」と言う。豊志賀は39歳、新吉は21歳で、親子ほども年が離れていたが、その晩から2人は愛人関係になってしまった。
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