ふたつのアプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 23:33 UTC 版)
超準解析には2つの非常に異なったアプローチがある:ひとつは意味論的あるいはモデル論的アプローチであり、もうひとつは構文論的アプローチ(公理論的アプローチ)である。これらのアプローチはどちらも、解析学以外にも、数論、代数やトポロジーを含む、他の数学の領域に適用される。 ロビンソンによる超準解析の元々の定式化は「意味論的アプローチ」のカテゴリーに分類される。彼が一連の論文で行ったように、これは理論のモデル(とくに飽和モデル)の研究に基づく。ロビンソンの仕事が最初に現れてから、Elias Zakonは上部構造と呼ばれる純粋に集合論的な対象を用いたより単純な意味論的アプローチを開発した。このアプローチでは、「理論のモデル」は集合 S {\displaystyle S} の「上部構造」 V ( S ) {\displaystyle V(S)} と呼ばれる対象で置き換えられる。上部構造 V ( S ) {\displaystyle V(S)} に超冪構成を適用することで、写像 ∗ : V ( S ) → ∗ V ( S ) {\displaystyle \ast :V(S)\to {}^{\ast }V(S)} を伴い移行原理を満たす別の対象 ∗ V ( S ) {\displaystyle {}^{\ast }V(S)} を構成することができる。写像 ∗ {\displaystyle \ast } は V ( S ) {\displaystyle V(S)} と ∗ V ( S ) {\displaystyle {}^{\ast }V(S)} の形式的性質を関連付ける。さらに、飽和性のより簡素な形である可算飽和性を考えることもできる。この簡素化されたアプローチはモデル理論やロジックの専門家ではない数学者が超準解析を使用する場合により適している。なぜなら、可算飽和性を満たすモデルは前述したフレシェ超フィルターによる超冪によって構成でき、各々の超準的対象は「標準的対象の可算列の同値類」という具体的な描像を持つからである。(一方、より飽和性の高いモデルの構成には、善良超フィルターや初等鎖の極限など、より高度な集合論的・モデル論的な道具立てを必要とする。) 「構文論的アプローチ」は数理論理学とモデル理論に関して遥かに少ない理解と使用を要する。このアプローチは1970年代半ばに数学者エドワード・ネルソン(英語版)によって開発せられた。ネルソンは内的集合論(英語版)(IST)と彼が呼ぶ完全に公理的な超準解析の定式化を導入した。ISTは二項帰属関係 ∈ {\displaystyle \in } に関するツェルメロ=フレンケル集合論(ZFC)に新しい単項述語「標準的」を追加する。この新しい述語は、集合論的宇宙の要素達に適用可能なものであって、それに関する推論の為の幾つかの公理を伴う。この方向からのアプローチはフルバチェック(英語版)らによって進展された。 構文論的な超準解析は数学者が通常当たり前と考える集合構成原理(形式的には内包原理として知られる)の適用において細心の注意を要する。ネルソンが指摘するように、IST内の推論における誤りは「非合法な集合構成」によるものである。例えば、ちょうど標準的自然数からなる集合はISTにおいては存在しない(ここで「標準的」は新たに導入した述語の意味に解する)。非合法な集合構成を回避するために、部分集合の定義(内包性公理の適用)にはZFCの論理式だけを使用しなければならない。 構文論的アプローチの別の例としてはヴォピェンカによって導入された代替集合論(英語版)がある。これはZF公理系よりもより超準解析と両立的な集合論的公理を探るものである。 その他の構文論的アプローチとして α {\displaystyle \alpha } と呼ばれる特殊な定数記号(これはある固定した無限大超自然数と思える)を公理的に導入する Alpha Theory がある。
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