『エルナーニ』の位置付け
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/08 08:23 UTC 版)
「エルナーニ」の記事における「『エルナーニ』の位置付け」の解説
『エルナーニ』はドラマ的にはまったく非現実的なオペラである。スペインからフランスの地を横断しはるばるアーヘンまで、発見もされずに移動する反乱者一味、前触れもなく突如変心し慈悲を垂れるカルロ、自分の結婚の祝宴で角笛が鳴ったからといって自害するエルナーニ、年甲斐もない嫉妬に狂う老人シルヴァ。これらに少しでも現実味を与えようと、現代の演出家はいずれも苦労している。口さがないオペラ愛好者は『エルナーニ』をヴェルディの「三大荒唐無稽オペラ」の一つと揶揄したりもする(他の2つは、『イル・トロヴァトーレ』と『運命の力』で、3作ともスペインを舞台としているのが興味深い)。もっとも、これら3作の荒唐無稽さはヴェルディの咎というより、原作戯曲のそれに起因するところが大きい。 一方、この『エルナーニ』は、興行師にあてがわれた台本にただ曲を付けるのではなく、ヴェルディ自らが題材選定に関与し得たはじめてのオペラであった。ピアーヴェが台本作家としては経験不足であり、かつ温和従順な性格だったこともここでは幸いして、ヴェルディはその力強いが長大な戯曲に、ある部分は大胆なカットを行い、またある部分は忠実に従い、意のままの作曲を行うことができた。ドラマ全体を貫く独特の力強さ、リズム感、ないし切れ味はそこから生まれた。この『エルナーニ』の成功の後、ヴェルディはオペラ作曲において自ら題材と台本作家を選ぶことに固執しているのも当然だろう。 構成の面では、ヴェルディがこの作品に至って主役声域の配置――すなわちヒーローとしてのテノール、そのライヴァルであるバリトン、その両者に想われるヒロインのソプラノという組合せ――に一定のパターンを確立した、ということも特筆されるべきだろう。このパターンは後の『レニャーノの戦い』、『イル・トロヴァトーレ』、『仮面舞踏会』そして『運命の力』に至るまでの多くのオペラで踏襲されることになる。特に、主人公エルナーニはヴェルディの書いた初めてのドラマティック・テノール向けの役であるし、またここでのドン・カルロはバリトンとしてはテッシトゥーラ(作品内での音域)がやや高目の、いわゆる「ヴェルディ・バリトン」のキャラクターをヴェルディがはじめて確立したものとみることができる点で注目に値する。
※この「『エルナーニ』の位置付け」の解説は、「エルナーニ」の解説の一部です。
「『エルナーニ』の位置付け」を含む「エルナーニ」の記事については、「エルナーニ」の概要を参照ください。
- 『エルナーニ』の位置付けのページへのリンク