新しい歴史教科書をつくる会
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概要
発足
湾岸戦争以前までは日本共産党員であった藤岡信勝は、冷戦終結後の新しい日本近代史観確立の必要性を感じ、保守論客に転身。自身の歴史検証法を「自由主義史観」と名付けた。
1996年1月15日、藤岡が代表を務める「自由主義史観研究会」は、産経新聞のオピニオン面に「教科書が教えない歴史」の連載をスタート[3][4][5]。
同年6月27日、文部省は翌年度用中学校社会科教科書の検定結果を公表。従軍慰安婦について記述した7冊すべてが合格した[4]。翌28日から、「従軍」慰安婦や南京大虐殺などを教科書に載せるのは「反日的・自虐的・暗黒的」だとして、削除を求める抗議活動が行われた[2]。8月10日、藤岡は、自由主義史観研究会との共著名義で、『教科書が教えない歴史』(発行:産経新聞ニュースサービス、発売:扶桑社)を出版した。同月、小林よしのりは『SAPIO』連載の「新・ゴーマニズム宣言」で、元従軍慰安婦の証言やメディアの報道内容に疑問を提起した[4]。9月7日、「日本を守る国民会議」は教科書改革キャンペーンを開始し、教科書会社の社長名・住所・電話・FAXを公開した[2]。
同年12月2日、藤岡、西尾幹二、小林らは「新しい歴史教科書をつくる会」(略称:つくる会)の結成記者会見を赤坂東急ホテルで開催。西尾は「この度、検定を通過した7社の中学教科書は、証拠不十分のまま従軍慰安婦の強制連行説をいっせいに採用した。安易な自己悪逆史観のたどりついた一つの帰結だ」との声明を発表した。声明文には藤岡、西尾、小林、坂本多加雄、高橋史朗、深田祐介、山本夏彦、阿川佐和子、林真理子の計9人が呼びかけ人として名を連ねた[6][7][8]。会見時の賛同者は78人であった[9][注 1]。
1997年1月21日、つくる会メンバーの西尾ら7人は小杉隆文部大臣に面会。教科書の慰安婦関連の記述は検定基準に違反しているとして、削除を要求したが、小杉は「元従軍慰安婦のことは内閣外政審議室の調査で明らかになっている。義務教育に取り入れるのは妥当」と述べ、要求を拒否した[3]。同年1月30日、つくる会は結成総会をもって正式に発足した[1][2][9]。
発足から約1か月後の2月27日、自民党の国会議員を中心に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が設立された。会長には中川昭一、事務局長には安倍晋三、幹事長には衛藤晟一が就いた[11]。衆参あわせて62人が参加し、運動を大きく後押しすることとなった[4][12]。また、つくる会には多くの著名人が賛意を表し、同年6月6日時点の賛同者は204人を数えた[注 2]。1999年9月には会員が1万人を超え、全都道府県に48の支部組織(東京都は2つ)をつくり、その当時、年間1億3千万円以上の予算で活動していた[2]。
従来の教科書に対する批判
つくる会は、既存の歴史教科書(特に中学校社会科の歴史的分野の教科用図書)は、必要以上に日本を貶める自虐史観に毒されていると批判し、それに代わる「“東京裁判史観”や“社会主義幻想史観”を克服し、その双方の呪縛から解放されたという自由主義史観に基づく、子供たちが日本人としての自信と責任を持つことのできるような教科書」の作成と普及を目的として結成され運営されている[要出典]。
つくる会の教科書は中学歴史用の歴史分野と公民分野のものが2001年版と2005年版が出版(いずれも扶桑社刊)されたほか、2009年版、2011年版は自由社から出版された。本部のほか全国各地に地方支部が設置[14]されている。つくる会の執筆した『新しい歴史教科書』は、2001年に初版が出された。文部科学省によって137か所の検定意見が付けられたが、同時に執筆した『新しい公民教科書』とともに、ほかの出版社の歴史教科書と同様に教科用図書検定に合格している。
組織
つくる会は、日本全国から集まる会費と関連本の印税収入を財源として活動している。
2000年4月4日、つくる会は日本会議と共同して、多くの右派組織を結集し、「教科書改善連絡協議会」(略称:改善協)を設立した。会長は三浦朱門、副会長は亀井正夫、石井公一郎が就いた。つくる会は「日本会議国会議員懇談会」や「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」と結びつき、教育委員会や地方議会に圧力をかける運動を展開するが、「改善協」はこの運動の主要な担い手となった[2][15]。
2007年5月31日、7代目会長に藤岡信勝が就任した[16]。つくる会の地方支部のほか、地元財界や旧軍関係者による採択支援運動が行われている。平沼赳夫や萩生田光一など会の主張と同じくする保守政治家から強く支持されている[17]。
保守の政治家のほか、ブログや掲示板等のネットにおいても支持している者の姿がよく見られ、ネットで論じられていたことから誕生したとも言われる山野車輪著の『マンガ 嫌韓流』は、その思想的背景にはつくる会の影響が強いと主張する者もいる[18]。
つくる会として、アメリカ合衆国下院が日本政府に対し従軍慰安婦問題への謝罪を迫ったアメリカ合衆国下院121号決議に対して、民主党の慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会とともに強い反発を表明[19]しているほか、沖縄地上戦に関する歴史教科書問題についても批判的な立場[20]を取っているが、そのなかで「沖縄戦の犠牲に対する感謝と共感の念をはぐくむよう記述すること」という教科書改善の会(つくる会の運動から離れた有志による同様の社会運動団体)の要望を、日本の歴史教科書を「自虐的」たらしめた「近隣諸国条項」と同様に「沖縄条項」を取り入れるものであるとして批判している。
主な主張
新しい歴史教科書をつくる会は、中学校社会科の歴史的分野における教科書そのものや、つくる会が執筆した『新しい歴史教科書』を取り巻く環境について主に次のような主張をしている(この主張に対する反対意見・賛成意見などについては、後述の不採択活動、世間の評価を参照)。
まず1997年に発表された趣意書で、次のように主張している[21]
- 日本の戦後の歴史教育は、日本人が受けつぐべき文化と伝統を忘れ、日本人の誇りを失わせるものであった。特に近現代史では、日本人は子々孫々まで謝罪し続けることを運命づけられた罪人の如くにあつかわれている。
- 冷戦終結後は自虐的傾向が強まり、現行の歴史教科書は従軍慰安婦のような旧敵国のプロパガンダを事実として記述している。
- つくる会は、世界史的視野の中で、日本国と日本人の自画像を、品格とバランスをもって活写することで、祖先の活躍に心踊らせ、失敗の歴史にも目を向け、その苦楽を追体験できる、日本人の物語を語りあえる教科書をつくる。
- 子供たちが、日本人としての自信と責任を持ち、世界の平和と繁栄に献身できるようになる。
2005年5月10日に、つくる会が外国特派員協会で開催された記者会見において『新しい歴史教科書』の近現代史の英訳版を配布するとともに、欧米のプレスとの質疑応答で次のように主張した[22]:
- 『従軍慰安婦や強制連行、南京事件を削除し、創氏改名を正当化することが正しい教科書なのか』の質問に対しては、『1996年以前の韓国の教科書にも従軍慰安婦は記述されていなかった。また2005年4月12日付の朝日新聞の記事によると、全社の教科書が従軍慰安婦を削除している。それは証拠によってサポートされていない』と回答した。ただし他の問については回答を避けた。なお、扶桑社版「新しい歴史教科書」には南京事件に関する記述がある。(ただし、平成26年度検定の自由社版で消去)
- 扶桑社の教科書が学校で使われないのは、日本にある2大教職員組合がマルクス・レーニン主義を信奉しているため、国民との意識に大きなギャップがあるにもかかわらず、(教科書)採択に大きな影響力を持っているためである。
- 『日本軍の虐殺や強制連行や南京事件を書いていない。日本は戦前に戻るのではないかと心配になる』との指摘に対しては『町村外務大臣(当時)も検定を合格した教科書の中で、戦争を美化している教科書はないと言っている』として、『歴史の事実が明らかになればそのような誤解もとける』と主張していた。
つくる会の教科書について、以下の事柄を主張している。
- 近代日本を悪逆非道に描き出す「自虐史観」を克服し、次世代の子供たちに誇りある日本の歴史の真の姿を伝えるべきである。この教科書は「階級闘争史観」や「自虐史観」の拘束から自由になり、世界史的視野のなかで日本国と日本人の自画像を品格とバランスをもって論述している。そのため面白く、通読に耐える唯一の歴史教科書である[16]。
注釈
- ^ 1996年12月2日の記者会見の時点の賛同者は78人。会田雄次、阿川弘之、石堂淑朗、伊藤隆、大宅映子、小田晋、河盛好蔵、川勝平太、北方謙三、木村治美、日下公人、草柳大蔵、小島直記、小室直樹、佐々淳行、佐藤愛子、佐藤誠三郎、田久保忠衛、竹内義和、芳賀徹、長谷川慶太郎、秦郁彦、馬場のぼる、林健太郎、藤本義一、村上兵衛、屋山太郎、石井公一郎、鈴木三郎助、種子島経、山本卓眞などが名を連ねた[10]。
- ^ 1997年6月6日時点の賛同者は204人。今井通子、入江隆則、上田篤、内村剛介、漆邦臣、江藤淳、賀来龍三郎、加藤芳郎、亀井正夫、川上哲治、岸田秀、久保芳和、境川尚、志賀学、白井浩司、清家清、高崎一郎、辻村明、遠山一行、常盤新平、豊田有恒、濤川栄太、西岡力、西部邁、林四郎、半村良、福田繁雄、藤原弘達、古山高麗雄、梁瀬次郎らが新しく加わった[13]。
- ^ 当初ネット上では採択反対派が白表紙本を盗難したという主張(内容に対する反論をしていたため)をしていた[要出典]。
- ^ 中国流の共産主義・毛沢東思想を称揚する著書も出版しているXは、筑波大学を卒業後に同大助手を経た後、韓国・霊山大学の講師に就任し、そこで韓国内で活動する北朝鮮工作員にスカウトされたという[41][42][43]。
- ^ 産経新聞2005年7月19日の報道では、大洗町の教育委員長と教育長が、「つくる会」教科書採用を却下した地区教科書採択協議会の決定に反発して、再協議を要求したうえ容れられない場合は決定とは別に町独自の判断で購入・使用する予定であるとした。ただし教育長は「そのような議論はしていないし、独自購入は教科書の無償配布を定めた特別措置法に違反する」と否定しており、実際に町独自で使われることもなかったので、産経の報道自体が捏造の疑いがあると批判する記事が読売新聞2005年7月25日の紙面に掲載された。
- ^ 旧大日本帝国陸軍の将校たちの親睦機関の偕行社の月刊誌「偕行」(1985年3月号)において、雑誌編集部は南京虐殺が事実であるとして、「中国人民に深くわびるしかない。まことに相すまぬ」と謝罪している。ここまでひどい!「つくる会」歴史・公民教科書―女性蔑視・歴史歪曲・国家主義批判(明石出版)引用。
出典
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- ^ この企画連載には住田良能が関わった
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