八王子スーパー強盗殺人事件 犯人像

八王子スーパー強盗殺人事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/03 16:44 UTC 版)

犯人像

特別捜査本部の現場検証の結果、実行犯がスーパー事務所内に残した遺留品および遺留物により、以下の事実が判明した。

  • 犯人の足跡は、事務所内で約10個採取され、実行犯は1人と断定された。靴のサイズは26センチメートルと判明した。足跡の付着物からは、微細な鉄粉と粘土コケが採取された。鉄粉は溶接の際に飛散したと見られ、実行犯は溶接作業に従事していたか、鉄工所などに出入りしていた可能性があると見られている。靴底は広島県のゴムメーカー製で、運動靴など約30種類で使用されていた。多摩地区では、パルコ吉祥寺店、調布店などで、10,000円から15,000円で販売されていた。
  • 被害者に対して至近距離から発砲し、3人とも脳幹が確実に撃ち抜かれていたことから「銃の扱いに詳しく、撃ち慣れている人物」と推測されている。また何の躊躇いもなく人間の頭部に向かって銃撃し、急所を撃ち抜き確実に殺害するという犯行手口は、一般の人間には難しいとされ、ヒットマンなどの殺害に手慣れた人物の犯行である可能性も考えられている。犯行に使用されたフィリピン製の拳銃スカイヤーズビンガム38口径は、米コルト社製拳銃の模造品として知られ、性能が低く、粗悪で命中率が低い銃である。この点からも、犯人は「銃の取り扱いに極めて詳しく、知識もある」人物だと推測される。
  • 被害者を縛るために使った粘着テープには、犯人のものとみられる指紋の一部が付着していた。事務所内の机には手袋痕もあるため、「犯人が粘着テープを使う際に手袋を脱いで素手で扱った」可能性がある。また粘着テープには、被害者と異なるミトコンドリアDNAが検出されており、犯人のミトコンドリアDNAとされている。

犯人に関する報道

週刊文春2001年11月22日号の報道

「犯人の実名を挙げた、暴力団関係者の手紙が存在する」と報じた。この手紙は、別件で拘置されていた暴力団関係者が、別の拘置所の知人に宛てたものである。自身が事件の一部に関与したことを示唆し「実行犯として、元自衛官の実名を挙げていた」とされる。

産経新聞、日本テレビ等の報道(2003年)

2002年(平成14年)に愛知県にて銀行強盗未遂で現行犯逮捕された70代(報道当時)の男が、事件に関与しているのではないか?」との報道が行われた。その理由としては、

  1. 「この男が、大阪厚生信用金庫深江支店で起こしたとされる強盗未遂事件(1997年)」で使用された銃弾の線条痕が、本件の現場で発見された銃弾のものと酷似している。
  2. 事件当時、男が八王子周辺に居住していた。

しかし、それ以上の証拠や具体的な関与は不明で、逮捕に至っていない。

  • この男は、拳銃を使用した銀行強盗や、現金輸送車襲撃事件を繰り返していたとされる。
  • 26歳の頃には、銀行強盗を企てた。同じ年に、職務質問してきた警察官を射殺し無期懲役判決が下った。しかし、仮出所中に凶悪な事件を繰り返していたとされる。
  • この男は、本件の4か月前に発生した警察庁長官狙撃事件でも名前が挙がった。『新潮45』2004年4月号および5月号に寄せた手記では、長官狙撃犯を自称する一方、ナンペイ事件への関与は全面否定している。
  • 2007年7月、大阪地方裁判所は「男の実名を挙げ、殺人鬼と決め付けた週刊新潮」に対し、「記事には真実と信じる相当な理由はない」として名誉毀損を認定し、賠償金80万円の支払いを命じている。

中国の元日本人死刑囚の証言

2009年(平成21年)夏ごろに覚醒剤所持の罪で逮捕起訴され、すでに中国で死刑が確定していた日本人男性死刑囚が「八王子の事件に関する情報を知っている」と中国公安当局に証言したことが報じられ、9月に日本の捜査当局は捜査員を中国に派遣し、この日本人死刑囚に面会して事情を聴いた[12]。日本では9都県で資産家宅を狙った計17件の強盗事件(被害額は約6億円)を犯した「日中混成強盗団」のリーダー格でもあった日本人死刑囚は、警視庁の事情聴取に「日本で強盗団に加わっていた中国人の男が実行犯を知っているかもしれない。日本で一緒に強盗団にいた時に八王子の事件が話題に上った際、その詳細を知っていた」と証言した。この日本人死刑囚は、中国・大連刑務所にて2010年4月9日午前9時(日本時間同10時)、死刑が執行された。

カナダ在住の中国人

捜査本部は、前述の元日本人死刑囚が言及した中国人の男の素性を突き止めた。この中国人の男は福建省出身で[13]、1994年4月に日本不法滞在により摘発されて本国に強制送還されたが、同年夏ごろに日本へ密入国した[14]。この男は日本国内で活動する中国人強盗グループのメンバーの一人で、日本人男性名義のパスポートを不正に使用して2002年4月に日本を不法に出国したとされ、2006年10月に難民としてカナダに移住した[12]。その後にカナダの永住権を取得してトロントで妻子とともに在住し、食料品店で勤務していた[12]。また、この中国人の男については、警察が別の事件で摘発した「日中混成強盗団」のメンバーが聴取時に語ったところによると「この男が八王子事件の前に、スーパーの現金保管状況などの内部情報を別の中国人に流した」と証言している。

日本政府パスポートを不正使用した旅券法違反容疑で逮捕状を取ってカナダ政府に身柄の引き渡しを請求した[15]。これに対し、2012年9月10日に地元裁判所は身柄の引き渡しに応じる決定をおこなった[15]。男の弁護人は決定を不服として控訴したが[16]、控訴裁判所も2013年9月に、引き渡しを認める判断を行った[13]。なお、この身柄引き渡しに関連して、日本の司法当局がカナダの司法当局に対し、「旅券法違反容疑以外で男を拘束したり、起訴して裁判にかけたりしない」「日本での刑事手続終了後に中国に引き渡さない」などと確約したことが報道されている[13]。それにより、2013年11月に中国人の男はカナダから日本へ身柄が移送され、逮捕された[17]。同年12月5日に旅券法違反で起訴されたが、八王子事件に関する供述は得られていないまま、2014年9月18日に懲役2年・執行猶予5年の有罪判決が下され[18]、9月19日にカナダに強制送還された。

指紋がほぼ一致している日本人

2015年(平成27年)2月「約10年前に死亡した日本人男性の指紋と、犯人のものと思われる指紋がほぼ一致していたことが判明」という記事をメディアが報じた[19]

捜査機関は特殊な薬品を使って、ガムテープの粘着面から犯人のものと思われる指紋の一部を採取することに成功した[19]。警視庁が保管する1000万人以上の指紋データベースと照合したところ、8点の特徴点の一致を確認した[19]。8点が一致する確率は「1億人に1人」と言われていて[20]、一般的には同一人物だと考えて差し支えないという。しかしながら、警察や司法当局が同一人物と断定出来る基準として定めている「12点」には足らないため、完全に一致した証拠として採用することはできず、被疑者だと断定するには至らなかった[21]

この日本人男性は元運送業関係者で、指紋を照合した2015年時点から遡って約10年前に60代で病死していた[22]。この男性については、事件が起こる1か月ほど前に男性の子息が交通事故を起こして被害者から多額の損害賠償金を請求されていて、その支払いに困っていたという情報があったことから既に捜査線上に浮上していた。またこの男性は、事件発生当時は多摩地域に住んでおり[20][22]、現場で目撃された車種と同じ白いセダンタイプの車を所有していたため、参考人として事情聴取もされていた。

この男性の指紋の記録は、前歴者らの指紋を集めた警察庁のデータベースに残っていたもので[20]、指紋は本事件の発生する2年前に盆栽の窃盗容疑で逮捕された際に採取されたという[23]

一方で、当時の勤務先に残っていたタイムカードの記録により、事件が起きた時間帯のアリバイが成立する可能性が高い点や、親族から採取したDNAの鑑定不一致などから実行犯ではないとの見方も強まっている。警視庁は男性が触れたガムテープを周辺の人物が使用した可能性などを視野に入れ、捜査を継続している[24]

現場周辺にいた身元不明の人物

事件から23年目を迎えた2018年7月、警視庁は新たに閉店間際のスーパーナンペイで買い物をした若いカップルについての情報を公開した。カップルは事件当日の20時56分頃、焼きそば果物お好み焼きなどを購入したうえで、スーパーの駐車場に向かい白色セダンに乗車して立ち去った。2人の身元は判明していない。警視庁はこのカップルが犯人を目撃している可能性があるとして、行方を捜すと共に2人の特徴をHPに公開し情報提供を求めている[1][25]

同日、警視庁は「事件前に現場事務所に出入りしていた女性」についての情報も公開した。事務所の灰皿に口紅が付着した吸い殻が残されており、従業員や出入り業者のものとは一致しない女性のDNA型が検出された。この人物についても身元が分かっておらず、警視庁は一般からの情報提供を呼びかけている[1]

線条痕が酷似した拳銃を所持していた暴力団組員の男

2009年8月に暴力団組員の男の自宅から押収された拳銃と線条痕が酷似していたことが、2020年7月に報道された[26]。男は覚醒剤取締法違反などで2020年時点でも服役中であるが、2009年当時に「拳銃は2009年5月頃に手に入れた。購入先は言えない」と供述している。警視庁は男が事件に関与した可能性は低いとみているが、この拳銃が事件に使われた疑いがあるため、交友関係等を調べている。

その他

この事件が発生した年はオウム真理教による事件が多発しており、オウム真理教が関与説も浮上しているが解明できていない。また、事件の4ヶ月前に発生した未解決事件である警察庁長官狙撃事件にも関与説が浮上している。


注釈

  1. ^ 捜査特別報奨金対象事件の中では大坂正明(2017年6月7日逮捕)・平田信(2012年1月1日逮捕)・菊地直子(同年6月3日逮捕)・高橋克也(同年6月15日逮捕)の指名手配犯4人に関する事件は本事件よりも発生時期が古い事件である。
  2. ^ ナンペイ大和田店の売場には、4台の防犯カメラがあったが、事務所内で映像を映すのみで録画はしていなかった。
  3. ^ この日は不審者や不審車両が数多く目撃されていたが、人物の特定には至っていない。犯行直後に「現場近くに停車し、近くの交差点を走り去る、白色の乗用車」が目撃されているが、犯行に関与したか否かも含めて人物および車の特定には結びついていない。
  4. ^ 「レジを閉めたあと、売上金をむき出しのまま、暗い駐車場を通り、事務所まで運んでいた」ことは、普段から従業員に不安視されていた。

出典

  1. ^ a b c 警視庁. “大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件”. https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/jiken_jiko/ichiran/ichiran_10/hachioji.html 2015年12月22日閲覧。 
  2. ^ “「ナンペイ」事件から21年 情報提供求め捜査続く”. テレビ朝日. (2016年7月30日). https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000080284.html 2021年2月18日閲覧。 
  3. ^ 一橋 2011, pp. 91–92
  4. ^ 一橋 2011, pp. 96–97
  5. ^ 一橋 2011, p. 95
  6. ^ 一橋 2011, p. 97
  7. ^ a b 一橋 2011, p. 99
  8. ^ 産経新聞 2013, p. 2
  9. ^ 毎日新聞 2005年7月30日 東京夕刊
  10. ^ 一橋 2011, p. 98
  11. ^ a b c d "激動!世紀の大事件Ⅴ". 報道スクープSP. 27 December 2017. フジテレビ
  12. ^ a b c 産経新聞 2013, p. 3
  13. ^ a b c “八王子スーパー射殺 中国人引き渡し支持、カナダ控訴審”. 日本経済新聞. 共同通信社. (2013年9月24日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400R_U3A920C1CC0000/ 2021年2月18日閲覧。 
  14. ^ 産経新聞 2014, p. 4
  15. ^ a b “カナダ、身柄引き渡し認める 八王子事件の真相把握か”. 共同通信. (2012年9月11日). オリジナルの2015年9月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150923140324/http://www.47news.jp/CN/201209/CN2012091001002229.html 2021年2月18日閲覧。 
  16. ^ “中国人の男が控訴、カナダ 身柄引き渡し決定に”. 千葉日報. 共同通信社. (2012年9月12日). https://www.chibanippo.co.jp/newspack/20120912/100466 2021年2月18日閲覧。 
  17. ^ 産経新聞 2013, p. 1
  18. ^ 産経新聞 2014, p. 1
  19. ^ a b c 松本, 惇 (2015年2月18日). “ナンペイ事件:粘着テープから指紋 10年前死亡の男か”. 毎日新聞. オリジナルの2015年3月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150313195740/http://mainichi.jp/select/news/20150218k0000e040231000c.html 2021年2月18日閲覧。 
  20. ^ a b c “数年前病死男性と指紋特徴一致 八王子スーパー射殺事件”. 朝日新聞. (2015年2月18日). オリジナルの2015年2月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150218095225/https://www.asahi.com/articles/ASH2L43LFH2LUTIL00F.html 2021年2月19日閲覧。 
  21. ^ “【八王子スーパー強殺20年】指紋男性、拳銃と接点浮上 知人「いつでも用意できる」”. 産経新聞: p. 2. (2015年7月30日). https://www.sankei.com/article/20150730-ORCEI4L7UFPHPI77QCYIJUD4KQ/2/ 2021年2月18日閲覧。 
  22. ^ a b “ナンペイ事件 指紋“一致”の男とは? 背景は?”. テレビ朝日. (2015年2月18日). https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000044733.html 2021年2月18日閲覧。 
  23. ^ “スーパーナンペイ強盗殺人事件発生20年なぜ急展開 技術進歩と保管状況”. 夕刊フジ: p. 2. (2015年2月20日). https://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150220/dms1502201528020-n2.htm 2021年2月19日閲覧。 
  24. ^ “指紋酷似の男性にアリバイか 八王子の女性3人射殺事件”. 共同通信. (2015年2月20日) 
  25. ^ “犯人のスニーカーか、レプリカ公開 八王子ナンペイ事件”. 朝日新聞. (2018年7月17日). https://www.asahi.com/articles/ASL7K3SPRL7KUTIL00Z.html 2021年2月19日閲覧。 
  26. ^ “ナンペイ事件の拳銃と線条痕似た銃押収…11年前、組員宅で”. 読売新聞. (2020年7月21日). オリジナルの2020年7月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200722120702/https://www.yomiuri.co.jp/national/20200721-OYT1T50194/ 2021年2月19日閲覧。 
  27. ^ “後輩8割が「事件知ってる」 八王子3人射殺から15年”. 共同通信. (2010年9月18日). オリジナルの2015年9月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150923141710/http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010091801000160.html 2015年3月4日閲覧。 
  28. ^ “一人ひとりの個性を活かす「桜空祭」(桜美林中学校)”. 朝日新聞. (2009年11月12日). http://www.asahi.com/edu/student/netty/TKY200911120256.html 2015年3月4日閲覧。 
  29. ^ 大切な人を失わないために…八王子スーパー射殺事件から15年 STOP GUN ラジオシンポジウム”. 文化放送 (2010年). 2021年5月12日閲覧。






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