エチゼンクラゲ エチゼンクラゲの概要

エチゼンクラゲ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/05/13 03:45 UTC 版)

エチゼンクラゲ
Nemopilema nomurai1.jpg
エチゼンクラゲ(海遊館にて)
分類
: 動物界 Animalia
: 刺胞動物門 Cnidaria
: 鉢虫綱 Scyphozoa
: 根口クラゲ目 Rhizostomeae
: ビゼンクラゲ科 Rhizostomidae
: エチゼンクラゲ属 Nemopilema
: エチゼンクラゲ N. nomurai
学名
Nemopilema nomurai
(Kishinouye, 1922)
和名
エチゼンクラゲ(越前水母、越前海月)
英名
Nomura's jellyfish
触手

東シナ海、黄海、渤海から日本海にかけて分布する。ときに大量発生すると漁網を破るなどの被害を与えることがある。

大型の根口クラゲ類は分厚く歯ごたえのよい間充ゲル(中膠)組織を持ち、ビゼンクラゲなどとともに古くから中華料理などの食材として利用されてきた。日本での食用クラゲは産出地域の旧国名ごとに和名がつけられており、ビゼンクラゲ(岡山県備前国)、ヒゼンクラゲ(佐賀県肥前国)と命名されている。

エチゼンクラゲには日本で食用加工の歴史がなく、出現も福井県越前国)に限らず日本海沿岸全域にわたるものであるが、1921年12月に福井県水産試験場から当時の農商務省岸上鎌吉博士の元へ標本が届けられて、初めて他とは違う種類であることがわかったことと、ビゼンクラゲに似ていることから、この名がつけられた。学名のnomuraiは、当時の福井県水産試験場長・野村貫一の姓から取られた[1]

本来の繁殖地は黄海および渤海であると考えられており、ここから個体群の一部が海流に乗って日本海に流入する。対馬海流に乗り津軽海峡から太平洋に流入したり、豊後水道付近でも確認された例がある[2]

生態

生態について現時点で知られていることは少ない。生活史は既に知られている他の根口クラゲ類と同様である。エサは主に小型の動物性プランクトンと考えられている。最近の研究で天敵としてアジカワハギがあげられる。特にカワハギは集団でエチゼンクラゲを襲うことが判明し、石川県のカワハギ漁の漁師がエチゼンクラゲをカワハギ漁の餌として実験して効果が確認されている。

漁業

渤海黄海では漁獲され、食用に加工されている。ビゼンクラゲに比べて歯ごたえ等が悪く、価格が安い。傘の部分は表面がざらざらしている上に肉が薄い。口腕の部分はほとんど利用されることはない。

近年、中国から日本に輸入されるクラゲのかなりの部分をエチゼンクラゲが占めるようになった。加工の仕方によっては刺身のような食感が得られるため、日本国内でもその特性に合った利用法を追求しようという動きが広がっている。鶴岡市立加茂水族館では常時エチゼンクラゲ料理を提供している。

エチゼンクラゲの体内には豊富なムチンが含まれており、これを化粧品再生医療に利用しようという研究もなされている[3]

愛媛大学農学部にて保水性の高いエチゼンクラゲを天然肥料として研究開発、山林などの緑化で実証実験をしている[4]

大量発生による被害

近年、日本沿岸で大発生を繰り返しており、巨大な群が漁網に充満するなど、底曵き網や定置網といった、クラゲ漁を目的としない漁業を著しく妨害している。また、エチゼンクラゲの毒により、このクラゲと一緒に捕らえられた本来の漁獲の目的となる魚介類の商品価値を下げてしまう被害も出ている。1958年、エチゼンクラゲが津軽海峡まで漂い、時節柄浮遊機雷と誤認されて青函連絡船が運行停止になったことがあった[5]。 また、クラゲの大量発生により発電所での電力供給が制限される事態が頻繁に起きている[6][7]。古くからクラゲ漁を行っていない地域では、販路の確保や将来の漁獲の安定の見込みもないままにクラゲ漁用の漁具や加工設備を膨大な投資を行って整備するわけにもいかず、苦慮している。

大量発生の原因として、産卵地である黄海沿岸の開発進行による富栄養化地球温暖化による海水温上昇、日本近海の沿岸開発による自然海岸の喪失でクラゲに適した環境になった、などの説が挙げられている。特に三峡ダムなどの開発が原因ではないかという仮説が立てられており、国立環境研究所などが検証を始めている[8]。また、魚類の乱獲によって動物性プランクトンが余ってしまい、それをエサとするエチゼンクラゲが大量発生、さらにはエチゼンクラゲの高密度個体群によって魚の卵や稚魚が食害されて、さらに魚類が減るという悪循環のメカニズムになっているのではないかとの指摘がある[9]。いずれも仮説の域を出ておらず、今後の研究の進展が待たれる。

なお、福井県では「エチゼンクラゲ」の名称が報道される度に福井県産の海産物のイメージダウンになることを危惧して「大型クラゲ」などと言い換えをするように報道各社に要望している[10]

一方、エチゼンクラゲの大発生に伴って、エチゼンクラゲを餌として好むカワハギ類やオサガメなども繁殖する。2009年から2010年にかけてのウマヅラハギの豊漁はエチゼンクラゲの大発生によるものと見られている[11]


  1. ^ 岸上鎌吉 「エチゼンクラゲ」『動物學雜誌』34巻、343-346頁、1922年。
  2. ^ 独立行政法人水産総合研究センター 日本海区水産研究所 「大型クラゲ関連情報
  3. ^ 独立行政法人理化学研究所プレスリリース クラゲから採取したムチン、関節治療への応用で動物実験に成功
  4. ^ TBS夢の扉+“海の厄介者” 巨大クラゲで地球を救う! 〜クラゲの保水力で山林の荒地を緑化する『夢の肥料』開発
  5. ^ 小川元「大型クラゲの来遊について (PDF) 」『岩手県水産技術センター平成15年度水産試験研究成果等報告会講要』、15-16頁、2004年。
  6. ^ 「プレスリリース」関西電力『火力発電所におけるクラゲ大量発生による出力抑制について
  7. ^ 「ニュースアンカー」関西テレビ報道 『発電所にクラゲ大発生のワケ』
  8. ^ 毎日新聞 2006年6月10日夕刊 エチゼンクラゲ:中国の三峡ダム開発→東シナ海環境変化→大発生 仮説検証へ
  9. ^ 『図解 最新・地球の真実』宝島社、124-127頁、2008年
  10. ^ 大阪読売新聞2005年10月21日夕刊 18ページ「エチゼンクラゲやめて 福井県、大型クラゲに呼び換え訴え」
  11. ^ 毎日新聞2010年1月4日 ウマヅラハギ:餌のエチゼンクラゲ追って?やってきた 大漁にホクホク--福井


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