エチゼンクラゲ エチゼンクラゲの概要

エチゼンクラゲ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/29 22:34 UTC 版)

エチゼンクラゲ
Nemopilema nomurai1.jpg
エチゼンクラゲ(海遊館にて)
分類
: 動物界 Animalia
: 刺胞動物門 Cnidaria
: 鉢虫綱 Scyphozoa
: 根口クラゲ目 Rhizostomeae
: ビゼンクラゲ科 Rhizostomidae
: エチゼンクラゲ属 Nemopilema
: エチゼンクラゲ N. nomurai
学名
Nemopilema nomurai
(Kishinouye, 1922)
和名
エチゼンクラゲ(越前水母、越前海月)
英名
Nomura's jellyfish
触手

概要

大型のクラゲの1種で、傘の直径 2 m・湿重量 150 kgに達するものもある。体色には灰色・褐色・薄桃色などの変異があり、人が刺されたという報告はほとんどされていないが、最近の研究では毒性が高めであることがわかった。

東シナ海黄海渤海から日本海にかけて分布する。ときに大量発生し、漁網を破るなどの被害を与えることがある。

大型の根口クラゲ類は分厚く歯ごたえのよい間充ゲル(中膠)組織を持ち、ビゼンクラゲなどとともに古くから中華料理などの食材として利用されてきた。日本で食用として利用されているクラゲ類ひには産出地域の旧国名ごとに和名が与えられており、ビゼンクラゲ(岡山県備前国)、ヒゼンクラゲ(佐賀県肥前国)と命名されている。

エチゼンクラゲには日本での食用加工の歴史がなく、出現海域も特に福井県越前国)に限定されることなく日本海沿岸全域にわたるものであるが、1921年12月に福井県水産試験場から当時の農商務省岸上鎌吉博士の元へ標本が届けられて、初めて他とは違う種類であることがわかったことと、ビゼンクラゲに似ていることから、この名がつけられた。種小名nomurai は、当時の福井県水産試験場長・野村貫一の姓から取られた[1]

本来の繁殖地は黄海および渤海であると考えられており、ここから個体群の一部が海流に乗って日本海に流入する。対馬海流に乗って津軽海峡から太平洋に流入したり、豊後水道付近でも確認された例がある[2]

生態

これまであまり生態が知られておらず、人間にとって、水産業に被害を与えるだけの迷惑ものだと長らく考えられていたが、2000年代以降の研究で、エチゼンクラゲが地球で果たしている役割が明らかになっている。生活史は既に知られている他の根口クラゲ類と同様である。エサは主に小型の動物性プランクトンと考えられており、毒を持つ触手で捕まえて食べる。ただし毒が弱く、魚の皮膚で防御されてしまうため、魚は捕まえられない。人間が刺されると、皮膚がかゆくなったり腫れたりするので触らない方が良い。

エチゼンクラゲは体がベタベタしており、弱って泳げなくなると体の表面に細かいごみがまとわりつき、重くなって沈んでしまう。このような形で、地球の生物地球化学的循環(生物循環)に寄与している。

エチゼンクラゲにはしばしば魚が寄りついているが、相利共生ではなく一方的な寄生だと考えられている。京大フィールド研の2007年の研究では、エチゼンクラゲの約95%に魚が寄りついており、大部分がマアジの稚魚である[3]。毒のある触手の間をアジが隠れ家として利用しており、同時にエチゼンクラゲが集めたプランクトンを横取りしている(アジはクラゲを食べないようだ)。このような形で、アジはエチゼンクラゲとともに成長しながら旅をしていると考えられている。

またイボダイは隠れ家として利用しながら同時にエチゼンクラゲを捕食している。傘が破られると海底に沈んでしまい、貝・ヒトデ・カニなど海底の動物たちの餌食となる。このような形で、エチゼンクラゲが海底の食物連鎖に寄与する点も大きく、例えば、福井県では高級食材の「エチゼンガニ」として知られるズワイガニもエチゼンクラゲを捕食している[4]

天敵としてカワハギ類があげられる。特にウマヅラハギは集団でエチゼンクラゲを襲うことが判明し、石川県のカワハギ漁の漁師がエチゼンクラゲをウマヅラハギ漁の餌として実験して効果が確認されている(当地ではカワハギというとウマヅラハギのことであり、ウマヅラというとウスバハギのことである)。カワハギ類やキタマクラなどフグ類の魚が、弱ったり死んだエチゼンクラゲの傘を食べている事例が目撃されているが、ウマヅラハギは元気なエチゼンクラゲを生きたまま毒のある触手ごと食べてしまう。

定期的に大発生したり、激減したりするが、理由がよく解っていない。2009年は大発生して日本各地で漁業に大きな被害を与えたが、2010年度はその千分の一に激減した[5]

漁業

人間とのサイズの比較
天敵のウマヅラハギ。エチゼンクラゲを集団で襲い、2メートルあるクラゲを1時間ほどで食べてしまう

渤海黄海では漁獲され、食用に加工されている。ビゼンクラゲに比べて歯ごたえ等が悪く、価格が安い。主に食用とする傘の部分は表面がざらざらしている上に肉が薄い。口腕の部分はほとんど利用されることはない。品質が低いため、多くは中華料理店などの業務用ではなく加工用に回され、日本のスーパーで「塩くらげ」や「中華くらげ」などの商品名で販売されている惣菜用クラゲの多くはエチゼンクラゲである。

以前は低級なエチゼンクラゲを中国国内用に、高級なビゼンクラゲを日本への輸出用にしていたが、近年は中国国内の活況でビゼンクラゲの需要が伸びているのと、日本の景気悪化もあって、中国から日本に輸入されるクラゲのかなりの部分をエチゼンクラゲが占めるようになった[6]

日本では京都府や福井県などにいくつかの加工業者があるが、ほとんど漁獲されていない。エチゼンクラゲは大きくて重くて労力がかかる割に価格が安く、人件費を考えると海外産と比べて割に合わないためである。日本は主に東南アジア産の「塩くらげ」を年7000トンから10000トン規模で輸入しており、国内でのクラゲの需要は十分満たされている。日本でもクラゲが漁獲されてベトナムや中国向けに輸出されているが(実はクラゲを最も多用するのは中華料理よりもベトナム料理である)、エチゼンクラゲではなく高級な有明クラゲ(有明海で採れるビゼンクラゲのブランド。ビゼンクラゲとは別の種と言う説もある)が主である。そのため、魚と一緒に漁獲されたエチゼンクラゲは野積みして放置されるか(エチゼンクラゲは97%が水なので、そのうち腐って液化して無くなる。最も安価な処分方法だが、場所を取る上に、くさい)、産業廃棄物として処理される(破砕するとそのまま下水に流せる)。

加工の仕方によっては刺身のような食感が得られるため、日本国内でもその特性に合った利用法を追求しようという動きが広がっている。鶴岡市立加茂水族館では常時エチゼンクラゲ料理を提供している。福井県等特に多く見られる地域では細かくしてアイスクリームに入れ、エチゼンクラゲアイスとして販売されることもある。

エチゼンクラゲの体内には豊富なムチンが含まれており、これを化粧品再生医療に利用しようという研究もなされている[7]

愛媛大学農学部にて保水性の高いエチゼンクラゲを天然肥料として研究開発、山林などの緑化で実証実験をしている[8]

鳥取県にはエチゼンクラゲを利用してウマヅラハギを専用に捕獲する「カワハギ網」というものがある。網の中央の餌袋にエチゼンクラゲを括り付けて海底に設置すると、ウマヅラハギが集団で網の中にやってくるので、これを捕獲する。一般的なオキアミよりも食いつきが良い上に、エサ代がただである。


  1. ^ 岸上鎌吉 「エチゼンクラゲ」『動物學雜誌』34巻、343-346頁、1922年。
  2. ^ 独立行政法人水産総合研究センター 日本海区水産研究所 「大型クラゲ関連情報
  3. ^ クラゲと魚のつながりをフィールドからさぐる – 京大フィールド研
  4. ^ エチゼンクラゲとズワイガニ 兵庫県立農林水産技術総合センター 但馬水産技術センター
  5. ^ エチゼンクラゲ激減、昨年の千分の一に 東シナ海で調査 朝日新聞
  6. ^ 食用クラゲは6種類/エチゼンクラゲ/くらげ普及協会 くらげ普及協会
  7. ^ 独立行政法人理化学研究所プレスリリース クラゲから採取したムチン、関節治療への応用で動物実験に成功
  8. ^ TBS夢の扉+“海の厄介者” 巨大クラゲで地球を救う! 〜クラゲの保水力で山林の荒地を緑化する『夢の肥料』開発
  9. ^ 小川元「大型クラゲの来遊について (PDF) 」『岩手県水産技術センター平成15年度水産試験研究成果等報告会講要』、15-16頁、2004年。
  10. ^ 「プレスリリース」関西電力『火力発電所におけるクラゲ大量発生による出力抑制について
  11. ^ 「ニュースアンカー」関西テレビ報道 『発電所にクラゲ大発生のワケ』
  12. ^ 毎日新聞 2006年6月10日夕刊 エチゼンクラゲ:中国の三峡ダム開発→東シナ海環境変化→大発生 仮説検証へ
  13. ^ 『図解 最新・地球の真実』宝島社、124-127頁、2008年
  14. ^ 大阪読売新聞2005年10月21日夕刊 18ページ「エチゼンクラゲやめて 福井県、大型クラゲに呼び換え訴え」
  15. ^ 毎日新聞2010年1月4日 ウマヅラハギ:餌のエチゼンクラゲ追って?やってきた 大漁にホクホク--福井


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