見直しの必要性の論拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 14:57 UTC 版)
「道路特定財源制度」の記事における「見直しの必要性の論拠」の解説
以下、論拠を掲げるが、多様な立場からの主張を併記しているので、全てが首尾一貫したものではないことに注意。 「流用」への批判 近年、使途を拡大しているが、そもそも道路の整備という「特定」の目的のために道路使用者から預かっているお金であり、利用者の利便性向上に資する目的に使われないのであれば、一般財源化(総合財源化)や減税・廃止なりすべきという主張である。 「暫定税率」への批判 「流用」するほど財源が余っているのなら、まず本則税率に戻すのが筋との主張もある。高度成長時代にできた「暫定」をいつまでも引きずるのは好ましくないとの筋論である。一方、暫定という形をとるのをやめ本則を引き上げるべきとの意見もある。 重税感 自動車使用者からは、既に自動車の社会的費用以上の負担をしており重税であり、また自動車取得税は消費税との二重課税(タックス・オン・タックス)ではないかとの主張もある。しかし、現在道路整備に充てられる予算は道路特定財源による税収を大きく上回っており、相応の負担をしてはいないともいえる。 ガソリン税の負担の「重さ」については、一般に欧州諸国より軽いが、米国よりは重い。これは自動車に対する社会的姿勢の現れともいえる。 なお道路特定財源ではないが、財産税的性格が強い自動車税・軽自動車税についても、既に多数の家庭が持つ状況であれば負担の軽減が必要ではないかとの主張も自動車関係団体等からはある。 地方への税源移譲拡大論(国の道路予算を減らして地方自治体に振り向けるべきとの主張) 国費ベースで道路特定財源に余剰も生じている一方で、地方自治体の道路整備では約45%が一般財源(都道府県や市町村の税金や国からの地方交付税)から支出されている。すなわち、自動車を直接利用しない一般市民であっても道路整備や自動車ユーザーの利便性向上のために多くの税を負担していることを意味する。 これは国の道路建設で多くのムダな道路を生みだしている一方、一般市民に密接な生活道路の改善に遅れを生みだしている(野田国義議員などが指摘している)。 なお、道路特定財源が「余ってはいない」というのは現在の状況であり、将来に向かって道路の必要性自体やコスト削減努力等の議論を行っていく必要性を否定するものではないことに留意する必要があるとの見解がある。 今後、高度経済成長期に建設された橋梁等の劣化が頻発し、道路メンテナンス予算が膨れ上がることが懸念されている。関係者からは、道路メンテナンス業務について、民間委託の拡大や指定管理者制度の導入によりコストを削減するという提案が出されているとの報道もあり、道路特定財源制度のあり方と合わせて、国民的議論を行っていく必要があるとの見解がある。 また、バイパス道路の新道を建設する際の問題点として、新道ができても新道と並行する旧道が、その沿線に住宅や企業などがあるために廃道にすることができず(一度新規に道路を造ってしまうと廃道・道路撤去することが困難)、結局新道と旧道の両方に道路メンテナンス費用が発生してしまうことが問題視されている。 費用削減と並行して、道路の建設・維持管理等関係会社と公務員等の間で起こる談合や汚職の撲滅も重要である(談合・汚職事件がなければ低コストで建設・維持管理ができた道路も少なくない)。 環境対策の視点欠落 自動車は地球温暖化の原因となる温室効果ガス(自動車の排出単位輸送量あたりの二酸化炭素排出量は鉄道や飛行機より多い)をはじめ大気汚染や酸性雨騒音公害など深刻な環境問題を発生させており、一部は環境対策に充当すべきではないかとの議論がある(財源を目的としていた環境税化)。 ただし、温室効果ガスについては排出する主体全てに課税すべきであり、既に徴税の仕組みが確立しており、徴収しやすい自動車を狙い撃ちにするような制度は不公平であるとの反論もある。また、道路建設は同時に自然を破壊することにもなり、自然を破壊してまで道路を建設した結果、道路の利便性が増せば、自動車の利用を促進し、温室効果ガスの発生につながることから、本末転倒ではないかとの指摘もある。 環境対策であれば道路ではなく、モーダルシフトを促進させることに財源を使うべきとの議論もある。また、課税して価格が上昇することによる消費抑制効果は、広い意味ではピグー税と同じ効果がある。ただし、自動車に対して環境と批判する割りに、鉄道や航空機に対する批判がないのは二枚舌だと批判される。現実的に鉄道や航空機では行き先が限定されている。またナフサ免税、A重油免税も整合性を欠くと批判がある。 固定化批判、特別会計の仕組みそのものの見直し論 税収があるからといって、それを聖域視し、特別会計を作って国が統制し、国の決めた規則で地方に配分するという中央集権的な仕組みは問題であるとの論である。これは地方への移譲論に結びつく。 しかし、最近、一般財源化を閣議決定しても、日本国政府は従来と同程度に道路整備の予算確保を主張しているので、そもそも一般財源化時の、財政の硬直化が理由になるのか、さらに同じ特別会計制度に関し、外国為替資金特別会計などの余剰を取り崩して一般財源に組み入れるべきではないなどの、同時に存廃について矛盾した主張がなされたりと議論は混迷を深め、特別会計・特定財源批判自体、疑問視されてきている。 交通事情の加味 鉄道など公共交通機関が整備され、自宅周辺にそれの乗降場所(バス停留所・鉄道駅・港湾・空港など)があり、深夜帯を除き、常に公共交通機関が運行していて、公共交通機関の運賃が安く本数も充実しているため、自動車を保有する必要が薄い都市部と、自宅周辺に公共交通機関の乗降所が無い場合や、深夜帯以外でも公共交通機関の運行していない時間帯があり、公共交通機関の運賃が高額で本数も少ないために、公共交通機関の利用が困難・不可で自動車を保有して移動するしかない地方との交通格差も問題になっている。 現実的に、自動車を使わざるを得ない地方の交通事情も加味する必要がある。 公共交通機関を含めた自動車との役割分担論 新しい道路が整備されると当初は交通量も少ないが、次第に交通量が増えて混雑し始めることが多い。そもそも道路は作れば作るだけ自動車交通需要を誘発することが確認されており、永遠に作り続けなければならないという矛盾をはらんでいるという指摘もある[誰?]。 むしろ、環境保護の観点も加味して、公共交通機関及び自宅から途中でそれに乗り換えるためのパークアンドライドを充実すべきであり、自宅で個人が所有する自家用自動車は、自宅周辺に公共交通機関の無い場合、またはそれが無い時間帯のみに使うべきだという論もある。 例えば、フランス・ドイツ・アメリカ等で見られる制度を導入すべきという議論がある。都市部における公共交通の積極的な設置による乗り換えへの推進(渋滞の解消)と、地方部におけるシビルミニマム(社会資本などについての最低基準)な公共交通機関の維持、両方から必要だと指摘されている。 要するに、自動車と公共交通機関との望ましい市場分担を模索すべきであり、日本の現況は特に地方部において自動車に偏しているという指摘である。また、過度な自動車網整備偏重は、環境面からモーダルシフトに逆行する動きだとして批判する声もある。 マスメディアの道路建設以外への利用の批判がエスカレートしており、東京メトロ副都心線の地下鉄建設に利用されていることすら「鉄道建設に流用」と批判の対象となっており(本来は、地下鉄の上を走る明治通りの渋滞緩和策として建設)、更には鉄道の連続立体交差化事業まで批判される事態となっている。 道路整備は本当に地方活性化になるのか 道路族議員や地方自治体は道路整備を地方の景気活性化の切り札と見ており、道路特定財源の死守を訴えている。 ただし、道路整備をすることと、その効果である景気活性化の議論と、特定財源制度の制度自体を混同して、議論することに、注意をしなければならない。仮に高速道路が開通して大型のショッピングセンターやロードサイド店舗が進出しても、恩恵を受けるのは東京の大企業で、地場産業が恩恵を受けることは少ない。 またショッピングセンター進出により、買い物客がそこに流れ、地場のデパート・スーパーは閉店になり、地方都市の中心部は更に寂れると言った弊害を起こしている。実際1990年代前半からのバブル崩壊による不況により、景気活性化策として公共工事が推し進められ、高速道路建設や一般道路改良が飛躍的に進んだ。 しかし、その結果はモータリゼーションに対応した郊外型ロードサイド店舗が各地に進出する一方、地方都市商店街はシャッター通りと言われるほど、ますます寂れてしまった。また、交通が便利になったことによって通勤・通学・買物等が大都市圏に移行し、地方都市がますます衰退するストロー効果の問題も顕著に現れるようになった。 その一方で、道路整備によるモータリゼーションの過度の進展による公共交通機関の更なる衰退。2005年3月限りでのと鉄道穴水-蛸島の廃止が決定した時、石川県知事は「道路整備の進展が、皮肉なことにのと鉄道を廃止に追い込んだ」(2004年2月4日付け北國新聞記事)と述べたが、過去の鉄道廃線の例を出すまでもなく、モータリゼーションの進展が、公共交通機関を衰退させるという主張もあるが、科学的検証が必要である。のと鉄道の廃止に関しては廃止が本当に正しかったのか、と後悔の声が元沿線住民から上がっている(→のと鉄道能登線参照のこと)。
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