発明 発明の概要

発明

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/22 01:44 UTC 版)

概要

人類はその歴史上、様々な道具を作り、自然法則を発見し、またそれらを組み合わせてさらに有用な機械器具材料素材などを作り出すことで、総体として生活を豊かにしてきた。そうした新しい発明品や工夫はしばしば発明・考案者や発明品の製造者・供給者に富をもたらした。発明の内容が明らかになった場合、その模倣によって利益を得るものが現れる場合もある。模倣を恐れて有益な発明を一部の者だけの秘密にすることにより、社会的には損失を招くおそれもあった。

そのため、近代では社会に有用な発明をなした場合、それを公開することと引き換えに、発明を使用あるいは他の者に使用させたりする独占的な権利を発明者に与えることによって、発明者個人(あるいは法人)と社会の利益とのバランスをとるような制度が、ある時[いつ?]を境に、次第に広まってきた。

発明の歴史は「人と裁判と金の歴史」といわれる。発明者が誰なのかをめぐり争いがあり、開発費・特許料で莫大なお金が動くからである。また、発明に至るまでには先人による「技術の連続性」と他者による「同時進行の開発」が避けられない。結果として、発明者といえる人が複数存在する場合もある[2]

なお、「発明」の語は史記漢書後漢書にも見られるものの、漢語としては発見と同旨であったとされている[3]。近現代の発明の意味で用いられるようになった初期の例はオランダ風説書の添付文書である別段風説書(Apart Nieuws)などにみられる(弘化4(1847)年6月26日付風説書)[3]

発明のプロセス

発明は創造過程である。開かれた、好奇心溢れる心が既知のものの向こうを見通すことを可能にする。新たな可能性、新たなつながり、新たな関係を見出すことで発明へのひらめきが生まれる。創意に富んだ思考は、普通なら組み合わせようとは考えない異なる分野の要素や概念を結合することがよくある。発明家は明確に区別されている分野の境界線をまたぐことがある。ある分野での考え方や手法や道具立てを、想像もしていなかった異なる分野に適用する。

遊び・好奇心

遊びから発明が生まれることもある。砂場や実験や想像で遊ぶといった幼年期の好奇心は、人の遊びの才能を発達させる。発明家は興味ある対象で遊び探究する必要性を感じ、その内的衝動が斬新な創造をもたらすことになる[4]。「私は1日たりとも労働したことがなかった。全てが楽しかったからだ」とはトーマス・エジソンの言葉である。発明はまた、執念ともいえる。

想像・夢

発明とは、改めて見直すことである。発明家は新たなアイデア想像し、心の中でそれを見る。意識が主題や課題からそれたとき、何か別のことに気をそらされたとき、あるいはくつろいだり眠ったりしているときに新たなアイデアが生じることがある。独創的アイデアは一瞬にして生じることがある。いわゆる「Eureka!」の瞬間である。例えば、アルベルト・アインシュタイン一般相対性理論を完成させようと何年も働いた後、突然奇妙なを見て結論に至ったという[5]。偶然の発明というものもあり、例えばポリテトラフルオロエチレン(テフロン)の場合は偶然だった(と云うよりもそれ迄見過ごされて来ていた事実の新発見でもあった。)。

洞察・直観

発明には洞察という要素も必須である。その始まりは疑問や直観ということもある。あるいは、何らかの異常や偶然の結果が有益であるとか新たな道を拓くものだと認識することが始まりとなることもある。例えば、通常の数千倍の触媒を偶然加えたことから奇妙な金属色のプラスチックができ、その金属的特性を研究し始めたことから、電気伝導性のあるプラスチックや光を発するプラスチックを発明することになった。この発明により2000年のノーベル化学賞が授与され、照明や表示装置など様々な分野で利用されている(導電性高分子有機エレクトロルミネッセンスを参照)[6]

インスピレーション、忍耐・情熱

発明とは、結果がわからないまま行う調査・探究でもある。成功することもあれば失敗に終わることもある。インスピレーションから始まった発明という行為は、たとえ最初のアイデアが完璧であっても、発展させる必要があるということが多い。多くの発明家は自分のアイデアを信じ、何度失敗しても諦めない忍耐力や自信や情熱を持っていた。エジソンは期待通りの結果をうまなかった実験をする度に「よかった、成功するのはこの組み合わせではない、という知識がひとつ増えた」とポジティブにとらえ、実験を忍耐づよく続けた。

予想外の出来事や失敗からの学び

期待外・予想外のことが起きた時(多くの人が"失敗"と捉えるようなことが起きた時に)に、ただ落胆するだけでなく、そこから新しいこと(自分がまだ知らなかった法則や例外的法則や裏技 等々)を学ぶことができる人はそれを発明に使うことができる(セレンディピティ)。

定番的改良法による発明 vs 新分野

何かをより「効果的にする」「効率的にする」「使いやすくする」「機能を加える」「長持ちするように改良する」「安価にする」「エコなものにする」「軽量化する」「人間工学的設計にする」「構造を改良する」などといった発明もある[7]。それらとは対照的にインターネット電子メール電話機電灯といった従来存在しなかった全く新しい発明もある。「必要は発明の母」といわれるが、逆に発明によって新たな需要が生まれることもある。エジソンが蓄音機を発明する以前、誰もそれを「必要」とは思っていなかった。需要は後から生まれたのである。同様に電話や航空機が発明される前にそれらを想像できた人はほとんどいないが、今ではそれらなしでは社会が成り立たなくなっている[8]

発明のアイデアは紙やコンピュータ上で練られ、試行錯誤しながらモデル構築や実験を繰り返し、改良を重ねて行く。パブロ・ピカソジョルジュ・ブラックの対話がキュビスムを産んだように、複数の人間の協力によって生まれた発明も多い。ブレインストーミングで新たなアイデアが生まれることもある。このような協調的創造プロセスは設計者や建築者や科学者がよく利用する。特許には複数の発明者が記されていることも珍しくない。現代は離れた場所の人々が協調することがかつてないほど容易になっている。発明家の多くはその発明プロセスをノートや写真で記録していることが多く、レオナルド・ダ・ヴィンチトーマス・ジェファーソン、アルベルト・アインシュタインの手稿が有名である[9]。発明のプロセスにおいて、初期のアイデアから変化することもある。より単純化してより実用的にする場合もあるし、全く異なる別の何かに変貌することもある。1つの発明から別の発明が派生することもある。これに関連してアメリカ合衆国では、継続的出願という独特の制度を採用している[10]

発明とその利用は、実用上の重要性に影響されることもある。中にはその発明が最も有効に働く順序で発明されなかったものもある。例えば、パラシュート航空機より前に発明された[11]。発明された当時には製造コストが高すぎた発明や実用化には何らかの技術革新を必要とした発明もある[12]。そういった障害は経済発展や科学技術の進歩によって解消されてきた。しかし例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの数々の発明のように、単なるアイデアだけの発明が実用化されるのに何世紀もかかる場合もあった[13]。単なるアイデアだけで実装されたことがない発明でも特許で保護を受けることができる[14]

1つの発明が様々な用途に利用されることもあり、全く異なる用途で使用される場合や時代と共に用途が変化する場合もある。ある発明を発展させたバージョンはオリジナルの発明者が想像もしていなかった用途に使われることもある[15][16][17][18]。例えば合成樹脂の用途や種類は今も急激に拡大している[19][20][21]

法律上の発明

各国において、発明は特許による保護の対象である。しかしながら、発明の定義を法律の条文で明らかにしている国は少ない。多くの国において、発明の定義は、法律の条文ではなく判例と学説によって与えられている。

以下のものが特許法上の発明として特許を受けることができるか否か、が法律上の問題となる。

日本

日本は発明の定義を法律の条文で与える数少ない国の一つである。日本の特許法では、発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されている(特許法2条1項)。

しかし、この定義は,単に一般用語の「技術(的思想)」を特許法で「発明」という、と言い換えたに過ぎない。肝心の「技術」の定義が抜け落ちている。そのため、特許法2条1項で発明を定義しているにも拘わらず、法律上の発明の項で述べたような,特許が受けられる発明か否かが問題として未解決である。

日本の特許法における発明の定義は、1959年の特許法全面改正の時に設けられた。ドイツ法学ヨセフ・コーラーの定義を参考にしたものと言われている。

発明は、前記したように,物の発明と方法の発明の二つに大別され、方法の発明は、物を生産する方法の発明とそれ以外の方法の発明(いわゆる単純方法の発明)とに分類される(特許法2条3項各号、4項)。

発明と同様な概念として、考案がある。実用新案法第2条1項において、考案は「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されている。実用新案法においては、特許ほど、高度な発明である必要がなく、短ライフサイクルである小発明を保護したものである。実用新案法の場合、特許法と異なり、方法の考案や物質(医薬品など)の考案は、保護対象とならない。

発明について、要式行為たる特許出願(特許法36条)に基づき、特許庁が登録要件を満たすか否かを審査して特許査定(特許法51条、164条)をなすと、設定の登録(特許法66条)により独占排他権たる特許権が発生する(特許法68条)。

韓国

韓国もまた、発明の定義を法律の条文で与える数少ない国の一つである。韓国の特許法では、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作として高度であるもの」(自然法則을 이용한 技術的 思想의 創作으로서 高度한 것)と定義されている(特許法第2条)。

台湾

台湾中華民国)の特許法でも、発明の定義が条文に規定されている。台湾の特許法において発明とは、「自然法則を利用する技術思想の創作」(利用自然法則之技術思想之創作)を意味する(專利法第21條)。


  1. ^ Artificial Mythologies: A Guide to Cultural Invention by Craig J. Saper (1997); Review of Artificial Mythologies. A Guide to Cultural Invention, Kirsten Ostherr (1998)
  2. ^ 参考文献:志村幸雄『誰が本当の発明者か』講談社
  3. ^ a b 小林 聡「江戸時代における発明・創作と権利保護」 パテント2008 Vol.61 No.5、2020年6月10日閲覧。
  4. ^ The Lemelson Center's website, Invention at Play: Inventors' Stories, http://www.inventionatplay.org/inventors_main.html ; and Juice: The Creative Fuel That Drives World-Class Inventors (2004), p.14-15 by Evan I. Schwartz.
  5. ^ Einstein: A Life by Denis Brian p.159 (1996)
  6. ^ Nobelprize.org, The Nobel Prize in Chemistry 2000
  7. ^ 特許を検索すれば無数の実例が容易に見つかる。例えば http://patft.uspto.gov/netahtml/PTO/search-bool.html
  8. ^ Forks, Phonographs, and Hot Air Balloons: A Field Guide to Inventive Thinking p. 8 (1992), by Robert J. Weber, also from Juice: The Creative Fuel That Drives World-Class Inventors, p. 13 (2004) by Evan I. Schwartz
  9. ^ The Inventor's Notebook by Fred Grissom and David Pressman (2005); Leonardo da Vinci: Artist, Scientist, Inventor by Simona Cremante (2005), http://memory.loc.gov/ammem/collections/jefferson_papers/; http://www.alberteinstein.info/about/
  10. ^ http://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/documents/0200_201_08.htm
  11. ^ White, Lynn: The Invention of the Parachute, Technology and Culture, Vol. 9, No. 3, (Jul., 1968), pp. 462-467
  12. ^ See US Patent #5,461,114 and D11,023 as well as Leonardo da Vinci: Artist, Scientist, Inventor by Simona Cremante (2005)
  13. ^ a b Leonardo da Vinci: Artist, Scientist, Inventor by Simona Cremante (2005)
  14. ^ Patent It Yourself by David Pressman (2000), particularly section 9/2, as a specific example refer to 1879, F. Auguste Bartholdi U.S. Patent D11,023
  15. ^ Invention at Play: Inventors' Stories at the Smithsonian Institution's Lemelson Center for Invention and Innovation
  16. ^ Juice: The Creative Fuel That Drives World-Class Inventors (2004) by Evan I. Schwartz (download an interview with this author about his book at http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=4244179)
  17. ^ Notebooks of the Mind: Explorations of Thinking (1985) by Vera John-Steiner
  18. ^ American Heritage.com article "How Did the Heroic Inventors Do It?" by Thomas P. Hughes
  19. ^ History of Plastics and Plastic Packaging Products — Polyethylene, Polypropylene, and More
  20. ^ Detailed Guide To All Plastics Processes, British Plastics Federation
  21. ^ Plastics Historical Society
  22. ^ Finding quotations was never this easy
  23. ^ http://www.encyclopedia.com/topic/Eadweard_Muybridge.aspx#1E1-Muybridg, and see http://www.britannica.com/EBchecked/topic/399928/Eadweard-Muybridge
  24. ^ Picasso and the Invention of Cubism by Pepe Karmel (2003)
  25. ^ 1879, F. Auguste Bartholdi U.S. Patent D11,023
  26. ^ a b c d e Patenting Art and Entertainment by Gregory Aharonian and Richard Stim
  27. ^ http://www.timelineindex.com/content/view/1477
  28. ^ The History of the Tuba
  29. ^ http://120years.net/machines/moog/
  30. ^ http://www.boston.com/news/globe/living/articles/2007/05/26/newman_says_hes_done_with_acting/ Newman says he's done with acting
  31. ^ Creating Minds: An Anatomy of Creativity Seen Through the Lives of Freud, Einstein, Picasso, Stravinsky, Eliot, Graham, and Gandhi by Howard Gardner (1993)
  32. ^ Inventors Assistance League
  33. ^ License Your Invention by Richard Stim (2002)
  34. ^ InventorSpot
  35. ^ United Inventors Association
  36. ^ The Inventor's Bible: How to Market and License Your Brilliant Ideas by Ronald Louis Docie (2004)
  37. ^ Diffusion of Innovations, 5th Edition by Everett Rogers (2003)
  38. ^ Les lois de l'imitation Gabriel Tarde (1890)


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