狂犬病
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狂犬病 | |
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狂犬病に罹患した犬(狂騒状態後の麻痺期) | |
概要 | |
診療科 | 感染症 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | A82 |
DiseasesDB | 11148 |
MedlinePlus | 001334 |
eMedicine | med/1374 eerg/493 ped/1974 |
Patient UK | 狂犬病 |
MeSH | D011818 |
狂犬病 | |
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別称 | Rabies |
概要 | |
診療科 | 感染症、神経科 |
症状 | 発熱、恐風、恐水、不安感、興奮、精神錯乱など |
原因 | 狂犬病ウイルス |
治療 | 狂犬病ウイルスに感染した疑いがある場合、狂犬病ワクチンを至急接種。 |
予後 | 一度発症してしまうと致死率ほぼ100% |
分類および外部参照情報 | |
Patient UK | 狂犬病 |
概要
毎年世界中で約6万人の死者を出しているウイルス感染症であり、一度発症すると99.99%以上の確率で死亡する。後述の通り生存例もきわめてまれにあるが、後遺症が残る。狂犬病による死者の95%以上はアフリカとアジアで発生している[1][3]。感染した動物に噛まれた人の40%は、15歳未満の子供であった[1]。狂犬病はワクチンによって予防できる疾患でもあり、ヒトからヒトへの伝播が殆ど無く、大流行につながる恐れもないことから、感染症対策の優先度は低くなる傾向がある[4]。ただし、ヒトからヒトの感染は、狂犬病に感染した患者がほかの人に噛みついたり、患者から採血し終わったあとの針を誤って医療従事者が刺したりしてしまえばあり得るので、可能性はきわめて低いがゼロではない。
日本では、1956年のヒトとイヌ、1957年のネコを最後に撲滅されている(近年の輸入例については後述)。感染症法に基づく四類感染症に指定されており(感染症法6条5項5号参照)、イヌの狂犬病については狂犬病予防法の適用を受け(狂犬病予防法2条参照)、ウシやウマなどの狂犬病については、家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける(家畜伝染病予防法2条及び家畜伝染病予防法施行令1条参照)。
日本では、咬傷事故を起こした動物は、狂犬病感染の有無を確認するため、捕獲後2週間の係留観察が義務づけられている。係留観察中の動物が発症した場合はただちに殺処分し、感染動物の脳組織から蛍光抗体法で、狂犬病ウイルス抗原の検出を行う[5]。
歴史
前史
狂犬病の正確な起源は不明であるが、古代メソポタミアのエシュヌンナ法典には「犬が市民を咬み、咬まれた市民が狂犬病になり死亡したときにはその犬の飼い主は40シェケルの銀を支払い、奴隷を咬んで奴隷が死んだときは15シェケルの銀を支払うべし。」との記載があり、古代ギリシャのアリストテレスは狂犬病に罹患した犬に噛まれると他の動物も狂犬病にかかると記している。また、古代ローマのアウルス・コルネリウス・ケルススは罹患した動物の唾液を介してこの病気が広まることを既に理解していた。
症状(ヒト)
潜伏期間は、咬傷の部位によって大きく異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳神経組織に到達して発病するが、その感染の速さは、日に数mmから数十mmと言われている。したがって顔を噛まれるよりも、足先を噛まれる方が、咬傷後の処置の日数が稼げることとなる。脳組織に近い傷ほど潜伏期間は短く、2週間程度。遠位部では数か月以上、2年という記録もある[6]。
前駆期には風邪に似た症状のほか、咬傷部位皮膚の咬傷部は治癒しているのに「痒み」や「チカチカ」などの違和感[7]、熱感などがみられる。急性期には不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応して避けるような仕草を示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れるが、脳細胞は破壊されていないため意識は明瞭とされている[8]。腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられる。その2日から7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。
典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もある。その場合、ウイルス性脳炎やギラン・バレー症候群などの神経疾患との鑑別に苦慮するなど診断が困難を極める[9]。恐水症状は、喉が渇いていても水に恐怖を感じてしまうため、苦しむ動物や人間は多い。
- ^ a b c “Media centre - Rabies”. 世界保健機関. 2015年8月1日閲覧。
- ^ a b 狂犬病 2006年現在 国立感染症研究所:病原微生物検出情報(IASR)The Topic of This Month Vol.28 No.3(No.325)p 61-62:2007年3月号/2021年1月16日閲覧
- ^ 世界保健機関:HUMAN AND ANIMAL RABIES
- ^ a b 狂犬病 2006年現在 The Topic of This Month Vol.28 No.3(No.325)/IASR 28-3 ヒト狂犬病輸入例, 狂犬病対策 国立感染症研究所
- ^ 源宣之(岐阜大学農学部 獣医公衆衛生学講座「狂犬病」
- ^ 厚生労働省:狂犬病に関するQ&A
- ^ (西園晃)狂犬病患者はいつ出てもおかしくない 日経メディカルオンライン 記事:2006年12月21日
- ^ a b 1年目の研修医が診た狂犬病 日経メディカルオンライン 記事:2008年6月24日
- ^ 栄研化学株式会社:『モダンメディア』2005年51巻7号「狂犬病について」 (PDF)
- ^ 西園晃「狂犬病 -最新の知見も含めて」 (PDF) 『モダンメディア』2018年6月号(第64巻6号)
- ^ 臓器移植による狂犬病感染の調査、2004年 - 米国、国立感染症研究所 感染症情報センター、IASR(病原微生物検出情報月報)Vol.25 No.11 (No.297) 2004年11月号
- ^ Neighbor‐Joining 法によるリッサウイルスの系統樹、国立感染症研究所 感染症情報センター
- ^ 『リッサウイルス感染症検査マニュアル』国立感染症研究所
- ^ 狂犬病を発病後回復した1例、2004年-米国・ウィスコンシン州、国立感染症研究所 感染症情報センター
- ^ Girl survives rabies without jab、BBC NEWS、2004年11月25日
- ^ R.E.ウィルビー「狂犬病からの生還」『日経サイエンス』2007年7月号
- ^ 「14歳少年、狂犬病から生還=世界で極めてまれ-ブラジル」時事ドットコム(2018年1月11日)
- ^ Guinness World Records. “Highest mortality rate (non-inherited disease)”. 2022年4月19日閲覧。
- ^ “How can you prevent rabies in people?”. CDC. 2022年11月19日閲覧。
- ^ “How can you prevent rabies in animals?”. CDC. 2022年11月19日閲覧。
- ^ 秋田大学バイオサイエンス教育・研究センター:動物とヒトとのかかわり -特に医学において動物実験が果たした役割-(2)
- ^ a b c Epidemiology and burden of disease WHO
- ^ 指定地域(農林水産大臣が指定する狂犬病の清浄国・地域) 2013年7月更新 農林水産省
- ^ 狂犬病の発生状況 2016年6月28日更新 厚生労働省
- ^ Infectious Diseases Related To Travel
- ^ 外務省
- ^ [1]Rabies in India WHO
- ^ 小澤義博「世界の野生動物狂犬病の現状と日本の対応策」『獣医疫学雑誌』第17巻第2号、獣医疫学会、2013年、132-137頁、doi:10.2743/jve.17.132、ISSN 1343-2583、NAID 130004836756、2020年8月17日閲覧。
- ^ “韓国における狂犬病発生情報”. 社団法人日本獣医師会. 2020年8月16日閲覧。
- ^ “台湾:狂犬病52年ぶり確認 イタチアナグマが感染” (2013年7月18日). 2013年8月1日閲覧。
- ^ “南投でも狂犬病のイタチアナグマ発見、台湾全土で12例め” (2013年7月29日). 2013年8月1日閲覧。
- ^ 「犬の登録と予防接種で狂犬病対策、未登録の犬は1億5000万匹も 中国」AFPBB News(2008年7月9日)
- ^ 在中国日本国大使館:狂犬病について 〜ペット・野生動物に咬まれたら、症状が無くても直ちに医療機関へ〜(2006年11月27日)
- ^ 中国で最も危険な伝染病は「狂犬病」日経ビジネスオンライン(2007年1月26日)
- ^ 四川大地震:被災地で下痢患者増加、狂犬病の恐れも サーチナ(2008年5月19日)
- ^ <四川大地震>野良犬化した犬をすべて処分-青川県レコードチャイナ(2008年5月19日)
- ^ 日本獣医師会:狂犬病対策について 2012年6月29日閲覧
- ^ 「ノルウェー人女性が狂犬病で死亡、旅先のフィリピンで助けた子犬にかまれる」フランス通信社 2019年5月11日閲覧
- ^ “Cost of Rabies Prevention”. 米国CDC. 2015年8月1日閲覧。
- ^ 外務省海外安全ホームページ 安全対策基礎データ アメリカ合衆国 2014年9月10日閲覧。
- ^ Stray Kitten Tests Positive for Rabies in Huguenot Area of Staten Island : Press Release : NYC DOHMH
- ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年9月27日、73,77頁。ISBN 9784816922749。
- ^ 狂犬病発症2例目!! 厚生労働省検疫所(2006年11月16日)
- ^ 実際に起こった「狂犬病」による死亡事例 わんちゃんホンポ、2017年12月15日更新
- ^ 36年ぶり「狂犬病」の詳細が明らかに 日経メディカルオンライン 記事:2007年4月12日
- ^ 日本国内で2020年に発生した狂犬病患者の報告 国立感染症研究所 IASR Vol.42 p81-82: 2021年4月号
- ^ “国内14年ぶり狂犬病発症 来日者、フィリピンで感染か―愛知・豊橋”. 時事ドットコム. 2020年5月22日閲覧。
- ^ “愛知県で国内では14年ぶりの狂犬病患者を確認 「漫画でしか知らなかった」豊橋市長は驚きも冷静な対応呼びかけ”. ABEMA TIMES. 2020年5月22日閲覧。
- ^ 共同通信 (2020年6月15日). “狂犬病発症の男性死亡 フィリピンで感染、愛知”. 共同通信. 2020年6月15日閲覧。
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- ^ 狂犬病の予防接種は必要? 日本で発生する危険性は... The Huffington Post Japan, Ltd. 記事:2015年05月20日
- ^ 国際貨物コンテナ迷入動物により狂犬病が日本に持ち込まれるリスクは36万年に1度
- ^ 世界における狂犬病の発生状況および狂犬病侵入のリスク
- ^ 厚生労働省:動物の輸入届出制度について
- ^ 「狂犬病注射をしない」ということの意味 にほんまつ動物病院
- ^ 国際感染症学会 ProMED-mail:RABIES, HAMSTER - BOLIVIA EX PERU: ALERT (PDF) 、2003年1月6日
- ^ 厚生労働省:健康:結核・感染症に関する情報 - 動物等取扱業者のための野兎病Q&A
- ^ 不法上陸犬の対応について (PDF) 、厚生労働省検疫所、狂犬病予防等技術研修会(平成14年度)
- ^ 狂犬病とは 国立感染研究所
- ^ 狂犬病とは 感染症・予防接種ナビ
- ^ 万年和明「ラブドウイルス : 50年近くもわが国で発生のない狂犬病の再上陸はあるのか」『ウイルス』第52巻第1号、日本ウイルス学会、2002年、21-25頁、doi:10.2222/jsv.52.21、ISSN 0042-6857、NAID 130003854761。、
- ^ “ウクライナ避難犬めぐり…日本が65年前に撲滅した狂犬病とは?”. NHK. (2022年4月22日)
- ^ “ウクライナから避難のペット犬検疫で特例 農水省が発表”. 産経新聞. (2022年4月18日)
- ^ “日本の狂犬病の歴史”. 大阪府獣医師会. 2021年5月26日閲覧。
- ^ わが国における犬の狂犬病の流行と防疫の歴史 2
- ^ a b c わが国における犬の狂犬病の流行と防疫の歴史 4
- ^ a b c わが国における犬の狂犬病の流行と防疫の歴史 5
- ^ 日本獣医師会:狂犬病対策について (PDF)
- ^ 厚生労働省:都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等
- ^ ペットフード工業会:2008年ペットフード工業会ニュース 第14回犬猫飼育率全国調査
- ^ 「狂犬病に光当てたコロナ/年1回接種 過剰の指摘」『日経産業新聞』2021年1月13日(先端技術・環境・エネルギー・素材面)
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