法と正義 政策

法と正義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 23:47 UTC 版)

政策

理念

国民保守主義ナショナリズムを標榜し、キリスト教民主主義のうちでもより保守的な傾向がある明確なカトリック右派政党である。社会的・経済的にとりわけレデンプショニズムの色彩が強く、政敵と徹底的に対決し勝利することによって理想を実現させようとする傾向にある。また、党創設者でもあるヤロスワフ・カチンスキ党首の意向は絶対である。教育程度や所得の低い層や高齢者から高い人気を得ている。典型的な保守政党であり、ノーラン・チャートでは左下の大衆主義にあたる。

南部の街オポーレドイツ系ポーランド市民が長年享受している政治的・社会的な「民族特権」のこれ以上の維持については明確に反対の立場を採り、こういった特権を廃し一般のポーランド人としての通常の権利を賦与すべきだと主張しているが、ドイツ国営国際放送ドイッチェ・ヴェレはこれをもってこの政党が排外主義的で反ドイツ的な「国粋主義レトリック」を用いる政党と解釈をした報道の仕方をしている[8]

大統領制への移行 

政治制度を現在の議院内閣制から、大統領が自由に法案を提出し、議会が反対しても大統領の一存で法律を成立させられる大統領制へ移行することを主張している。同党の最大のライバル政党である市民プラットフォームはこれに強く反対している。

脱共産化による民主主義

脱共産化による民主主義を主張しており、共産党時代1945年1989年)の遺産の除去や、国外の政治勢力と連携した共産主義への取り締まりに積極的である。

共産党時代に内務省人民部などと通じていたものを、社会から全て追放するための政策を多く打ち出している。そのため、与党時代(2005年2007年)には数多くの政府組織を立ち上げた。下野した後も、2009年には「共産主義の標章を禁止する法案」を提出し、これが可決された[9]

伝統的な価値観にもとづいた社会政策

清廉

「法と正義」が最も力を入れている項目は社会政策である。汚職の追放を最優先課題としている。政治資金などといったいわゆる金銭問題にはクリーンな傾向を持っている。

伝統的な生命観と家族観

国民保健制度は、公立病院の医療費が原則無料である従来の制度を堅持。同性愛安楽死には断固反対で、一切の妥協を許さない。男女は人間として平等であっても、家庭や仕事において性の違いによる役割の区別はあるべきだ、という伝統的な家族観の堅持とその道徳的普及に努め、暴力の表現に関してはマスメディアの統制も辞さない構えである。

少子化対策に積極的で、子ども手当、若い夫婦向けの低価格の住宅の提供、結婚している女性の産休期間の長期化と所得保障、日曜祝日における小売店の休業の強制化(従事者が家族と過ごすことができるため)などを打ち出している。男女の機会平等や女性の社会的進出を推し進めることよりも、女性の健康や現在の社会的立場を保護する立場を採る。

多民族共存

外国人出稼ぎ労働者の受け入れには積極的で、ウクライナベラルーシ、そしてロシアカリーニングラードなどといった欧州連合(EU)外の近隣国からの出稼ぎの制限を緩和している。

イスラム教及びムスリムに対しては厳しい姿勢を貫く。2015年に欧州へと大量に流入しているシリア難民に対してカチンスキ党首は、難民たちが「ギリシャの島々にコレラを、ウィーン(Vienna)に赤痢を、そしてさまざまな種類の寄生虫を持ち込んでいる」などと反難民姿勢を打ち出して支持の獲得に努め、総選挙を圧勝に導き8年ぶりに与党へ返り咲いた[10]

政府主導の経済

一定の市場経済化を進めるものの、政府主導による所得再分配を条件し、国民の最低所得の引き上げに積極的である。所得税の減税によって経済を活性化させようとする一方、累進課税を強化して高所得者の税負担を強化、積極財政で低所得者への給付の増額を行おうとする。財政支出については公共投資よりも社会保障、そしてそのうち公共投資もインフラ整備や職業教育よりも公営企業小中学校への補助金、という考えである。政府は積極的に中央銀行の金融政策に関わるべきだとし、2005-2007年に政権を担当していた時には金融ハト派の人物でカチンスキ党首子飼いの人物であるスワヴォミル・スクシペク(2010年4月10日、ポーランド空軍Tu-154墜落事故にて死去)をポーランド国立銀行総裁に据えた。財政支出拡大派かつ金融ハト派であるため、財政規律の厳格化と明確なインフレ対策を条件とする欧州連合(EU)の共通通貨ユーロの導入には消極的。

外交政策

非民主的な諸国に対してはタカ派外交を展開する。欧州連合(EU)の統合には懐疑的で、アメリカ合衆国北大西洋条約機構(NATO)との連携に積極的である。米国が行っている対テロ戦争を支持し、アフガニスタンイラクポーランド軍を派兵した。イスラエルとの関係強化にも積極的である。欧州議会においては、かつてイギリス保守党も参加していた欧州保守改革グループという会派に所属している。

2015年のポーランド総選挙で与党になると、EUやドイツとの関係を政治的駆け引きの道具として利用し、また第二次世界大戦の戦後賠償に関する論争も再開させた[11]


  1. ^ 市民プラットフォーム及び小政党の連立
  2. ^ 2005年の選挙では共産主義体制後の第3共和制が、格差と貧困を招いたことを批判。国家の強化と腐敗の根絶及び社会浄化促進による社会の秩序回復を主張し、旧共産党系(SLD)だけではなく、自由主義系のPOや民主党(PD)に対しても対立軸を示している。
  3. ^ 在ポーランド日本大使館編「ポーランド政治・社会情勢(2011年11月3日~9日)」 (PDF)
  4. ^ ポーランド政治・経済・社会情勢(2013年6月27日~7月3日)”. 在ポーランド日本大使館 (2013年7月5日). 2013年8月26日閲覧。
  5. ^ ポーランド政治・経済・社会情勢(2014年5月22日~5月28日)” (PDF). 外務省 (2014年5月30日). 2014年9月8日閲覧。
  6. ^ ポーランド政治・経済・社会情勢(2014年7月17日~7月23日)” (PDF). 外務省 (2014年7月25日). 2014年9月8日閲覧。
  7. ^ 楢橋広基 (2019年10月17日). “議会総選挙で与党「法と正義(PiS)」が上下院とも勝利(ポーランド)”. 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ). 2020年3月14日閲覧。
  8. ^ http://www.dw.de/stoking-anti-german-sentiment-in-poland/a-16456568
  9. ^ Fox News 2009年11月27日 ポーランドが共産主義の標章を禁止
  10. ^ ポーランド総選挙、EU懐疑派の保守野党が圧勝”. AFP通信 (2013年7月5日). 2015年10月26日閲覧。
  11. ^ ポーランド侵攻から80年、復活するドイツへの戦後賠償要求の動き”. AFP (2019年9月2日). 2019年9月23日閲覧。






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