日韓トンネル 日韓トンネルの概要

日韓トンネル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/01 00:28 UTC 版)

構想ルート(黄緑が至釜山、緑が至巨済島)

概要

日本列島と朝鮮半島南部をトンネルで結ぶ構想は、第二次世界大戦前から戦時中にかけて大日本帝国が立案したことがあった。戦後は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体の「日韓トンネル研究会」や「国際ハイウェイ財団」、日韓海底トンネル推進議員連盟が同トンネル構想を推進している。そのほか日本の建設会社の大林組が「ユーラシア・ドライブウェイ構想」の一環として1980年代当時に実現可能であった技術で構想していた。具体的な実現性については、建設にかかる費用とそこから生み出される利便について様々な意見があり、また日韓間の費用負担比をどうするかの議論があった。

2011年1月、韓国国土海洋部は「韓日海底トンネルは経済性がない」との調査結果とともに、推進中断を明らかにしたが[1]、その後も韓国側の政治家により建設に向けたアピールが行われることがある[2]

霊感商法被害救済担当弁護士連絡会事務局長の渡辺博によると、世界平和統一家庭連合による「日韓トンネル」プロジェクトは、「『日韓トンネルを造るため』という名目で多大な献金を集めるための『信者に向けたアドバルーン』」とのことで、定期的にプロジェクトを再燃させることで1981年以降に何億円単位の被害者を何人も生み出している一方で、プロジェクト実現の見込みはないとの考えを示した[3]

戦前の大東亜縦貫鉄道構想

九州と朝鮮半島を結ぶトンネルを掘る構想の原点は、1930年代に立てられた「大東亜縦貫鉄道構想」であった。これは当時日本領であった朝鮮半島の南端の釜山府(現・釜山)を起点とし、京城府(現・ソウル)を経て安東(現・丹東)から当時の満洲国領内へ入り、奉天(現・瀋陽)を経由して中華民国領内に入り、北京南京桂林を経て、ハノイ、サイゴン(現・ホーチミン)、プノンペンバンコクマレー半島を通りシンガポールに至る約10,000 kmの路線を建設する構想であった。

さらに1940年代東京 - 下関間を結ぶ弾丸列車計画(新幹線計画の前身)が立てられた後、1942年には「東亜交通学会」が設立され、日本本土(内地)から壱岐対馬を経て釜山へ至る海底トンネルを建設し、上記の大東亜縦貫鉄道と結んで東京 - 昭南(シンガポール)間を弾丸列車で結ぶ構想が立てられた。

日本本土側の起点は下関、博多呼子(現・唐津市)などが考えられていた。なお、1942年4月に満鉄東京支社調査室が作成した報告書「大東亜縦貫鉄道ニ就テ」では、日本側の起点を下関としている。

実現に向けて対馬や壱岐でボーリング調査などが実施されたが、これらの計画は第二次世界大戦終戦によりすべて頓挫した[4]

統一教会主導の戦後の構想

1980年代ごろから、韓国側で日韓トンネルを開削しようという声が一部の団体から上がった。

1981年11月、韓国のソウルで、統一教会の教祖・文鮮明が、自ら主催する第10回「科学の統一に関する国際会議」において、人類一家族実現の基盤にするために全世界を高速道路で結び、経済や文化交流を促進するとした「国際ハイウェイプロジェクト」なるものを提唱した。そして、その「国際ハイウェイ」の最初の起点となるものとして、「日韓トンネル」の建設を提案した[5]。同会議に参加した西堀栄三郎は文鮮明の話に感銘を受け、帰国するとすぐに「日本でも日韓トンネルのプロジェクトを始めるべきだ」と主張[6]。1982年2月9日、世界平和教授アカデミーは日韓トンネル計画に関する委員会を組織し、研究を開始した[7]

1982年4月、日韓トンネルの推進団体として「国際ハイウェイ建設事業団」が設立された。会長には久保木修己、理事長には梶栗玄太郎が就任した[8]

1983年5月24日、「日韓トンネル研究会」が東京で設立された。1993年発行の書籍には麻生太郎古賀誠久間章生など多数の九州の自民党有力議員が顧問として参加したとされた。これら保守政治家と反共という面でつながりのある統一教会ではこのプロジェクトのため信者に献金が奨励され、借金までして多額の献金をする者が多く出ていると、ジャーナリストの有田芳生は述べている[9]

1986年10月1日、佐賀県東松浦郡鎮西町(現・唐津市)名護屋で「日韓トンネル名護屋調査斜坑」の起工式が行われた。事業主体は国際ハイウェイ建設事業団[10][11]。斜坑は470 mまで掘られた[5]。調査斜坑の坑口の位置は、北緯33度31分01.62秒 東経129度52分13.06秒 / 北緯33.5171167度 東経129.8702944度 / 33.5171167; 129.8702944である。掘削に使われた機械は2010年初頭時点でも入り口周囲に置かれたままになっている。

ルートは概ね戦前の弾丸列車計画時のものと同じで、佐賀県の東松浦半島から壱岐、対馬を経て釜山または巨済島へ至る構想であり、全長は約220 km。道路(自動車道)と鉄道磁気浮上式鉄道新幹線)の併設を前提にしているようである。工法については海底を掘削するのではなく、コンクリート製のケーソンを一定の深度に並べて構成する沈埋トンネル方式が提案されている。

2004年2月、日韓トンネル研究会はNPO法人となった。

2009年1月8日、「国際ハイウェイ建設事業団」の事業を継承し、「一般財団法人国際ハイウェイ財団」が新たに設立された。会長には徳野英治、理事長には梶栗玄太郎が就任した[8]

2017年11月28日、「日韓トンネル推進全国会議」の結成大会が東京都千代田区の海運クラブで開催[12][13]。会長には元衆議院議員の宇野治が就任した[14][15]

統一教会の内部では「日韓トンネル」を「日韓ハイウェイ」とも称し、「1ミリ運動」という名で、信者へ一口5万円の献金を促している[16]


  1. ^ 韓国が日中韓の海底トンネル推進を中断、「経済性ないと分かった」 サーチナ 2011年1月5日
  2. ^ 韓国野党幹部が言及した韓日海底トンネル…「飛行機に乗ったほうがいい」「日本は無関心」”. 中央日報 (2021年2月8日). 2021年2月9日閲覧。
  3. ^ 統一教会がカネ集めに使った「日韓トンネル」 騙されて3億7000万円出した人も(抜粋) デイリー新潮
  4. ^ a b 日韓トンネル6月調査結果 韓国 「釜山―唐津に鉄道・道路」分析 初の具体的見解西日本新聞 九州ねっと、2003年5月8日
  5. ^ a b 世界日報』 2007年5月8日(韓国語の記事
  6. ^ 梶栗玄太郎. “日韓トンネル構想と世界平和実現へのビジョン”. 世界平和教授アカデミー. 2016年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月10日閲覧。
  7. ^ 松下正寿 (1983年). “日韓トンネル構想の意義 文鮮明師が提唱 国際ハイウェイの一環”. 日韓トンネル研究会. 2022年10月10日閲覧。
  8. ^ a b 国際ハイウェイ第一号巻頭言”. 日韓トンネルプロジェクトを推進する国際ハイウェイ財団. 2022年10月7日閲覧。
  9. ^ 有田芳生 『「神の国」の崩壊―統一教会報道全記録』(教育史料出版会1997年9月)
  10. ^ 沿革”. 日韓トンネルプロジェクトを推進する国際ハイウェイ財団. 2022年10月7日閲覧。
  11. ^ 『世界日報』1986年10月2日、1面”. 日韓トンネル研究会. 2022年10月10日閲覧。
  12. ^ 日韓トンネル推進全国会議結成大会”. 日韓トンネル推進全国会議 (2017年11月28日). 2022年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月10日閲覧。
  13. ^ 日韓の絆強めるトンネル建設を国家プロジェクトに”. 平和大使協議会 (2017年11月29日). 2021年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月26日閲覧。
  14. ^ 団体概要”. 日韓トンネル推進全国会議. 2021年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月12日閲覧。
  15. ^ 平和統一聯合 (2020年1月17日). “世界潮流「日韓トンネルについて」佐藤博文理事長との対談”. YouTube. 2022年10月10日閲覧。
  16. ^ 2010年8月22日 統一教会系FPU兵庫5周年パンフレット
  17. ^ ガリレオが導くユーラシアの歩き方萬晩報、2004年1月10日
  18. ^ 『釜山日報』2000年7月1日付
  19. ^ NPO法人 日韓トンネル研究会 日韓トンネルに関する質問と答え 政治・経済
  20. ^ 「デイリー自民」平成15年6月16日付
  21. ^ 「日韓トンネル研究会」も建設費を10兆円から15兆円と見積もっている。
  22. ^ 韓日海底トンネル? 水面下の超大型プロジェクト中央日報2004年8月16日
  23. ^ 「韓国が日韓トンネルの妥当性検討 九州と結ぶ構想」共同通信、2009年12月2日
  24. ^ 外務省: 日韓新時代共同研究プロジェクトの報告書発表”. www.mofa.go.jp. 2022年8月17日閲覧。
  25. ^ a b c 韓日・韓中海底トンネル、「経済性はなし」 聯合ニュース 2011年1月5日
  26. ^ 国際ハイウェイ財団 ニュースレター2014年9月号 国際ハイウェイ 現場便り - 国際ハイウェイ財団(PDF)
  27. ^ 「日韓トンネル」物流利益は年間2253億円 対馬・壱岐経由 利用・収支を予測 日帰り圏拡大 新たな観光需要長崎新聞2018年7月5日
  28. ^ 韓国の明日を占う釜山市長選挙 勝手に争点にされた「日韓海底トンネル構想」のトンデモ”. デイリー新潮 (2021年3月25日). 2021年5月3日閲覧。
  29. ^ 旧統一教会友好団体、九州北部に広大な土地取得 毎日新聞 2023年1月10日
  30. ^ 朝鮮半島平和実現の鍵握る日韓トンネル”. 平和大使協議会. 2022年8月8日閲覧。
  31. ^ 「地理と歴史変える」日韓トンネル 米投資家 ジム・ロジャーズ氏 | 世界日報”. 2022年8月8日閲覧。






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「日韓トンネル」の関連用語

日韓トンネルのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



日韓トンネルのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの日韓トンネル (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS