マニュアルトランスミッション マニュアルモード付きAT

マニュアルトランスミッション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/26 09:48 UTC 版)

マニュアルモード付きAT

AT車のカタログに「マニュアルモード付き」などのように記載されていれる場合、通常のモードでは自動で行われる変速を、ドライバーの任意で選択できるスイッチを設けたATを示している。CVTの場合は、自動制御では変速比を無段階で連続的に変化させているが、マニュアルモードではCVTの変速範囲の中で段階的に設定された変速比をスイッチで選択できるように制御する。いずれも変速比を任意で選べるだけであり、MTのようなクラッチ操作は不可能かつ不要である。英語圏では、マニュアルモード付きのトルクコンバータ式ATは「manumatic」と呼ばれる。

現在のF1NASCARインディカーSUPER GTDTMWRCル・マンなどのプロ向けビッグレースでは軒並みセミATが採用されており、変速の速さで劣るMTは完全に絶滅している。一方86/BRZレーススーパー耐久(ST-2〜ST-5クラス)のようなアマチュア色の強いレースや、ドリフトのような特殊な操作を必要とする競技は依然としてMTが主流である。

小型バイクなどに使われる自動遠心クラッチ等を利用した手動変速機も、セミオートマチックトランスミッションも、マニュアルモード付きATも共に、日本の運転免許制度上では、クラッチ操作ペダル・クラッチ操作レバーがなければオートマチック限定免許で運転が許される。

日本の普及状況

MTは比較的製造コストが低く、動力の伝達が効率的であったため、かつてはMTが主流でATはオプション設定であることが多かった。特にエンジンの小さい小型車については、初期のATはトルクコンバーターの損失が大きく走行性能・燃費性能が悪かったため、エンジンの動力を効率的に使えるMTの方が適していた。

しかし、近年の車種では無段変速機(CVT)やATの方が燃費でも走行性能面でも優位に立っており、性能的アドバンテージを失ったMTは大きく数を減らした。日本では1980年代後半まで、MTは四輪自動車の変速機構の主流であったが、今はモデルチェンジや改良によりMTを廃止しATもしくはCVTのみに縮小されることが多い。また三菱自動車(日本国内における。輸出仕様には現在もMT車が存在する)のように自社生産車からMTを全廃する意向のメーカーも現れた。モデル別に見ても、多人数乗りミニバンでは1999年日産・セレナのモデルチェンジ、トヨタ・エスティマエミーナ及びルシーダのモデル廃止をもってラインナップから姿を消した。2017年の国内MT比率は2.6%であった。

このようにMTは完全に時代遅れのイメージが強いが、2019年現在でもスバル・WRX STIトヨタ・マークX GRMN(限定生産)のようなMT専用モデルが販売されているほか、スズキ・ジムニーホンダ・S660トヨタ・86/スバル・BRZマツダ・ロードスターのような安価かつ趣味性の強い四輪車種ではMTがATより売れているものもある[6]。またマツダトヨタは趣味性のそれほど高くない車種にも積極的にMTをラインナップしている。スズキ現行アルトワークスでMTを操ることを前面に押し出して宣伝している。またトヨタのiMTのような、ギアチェンジに合わせてエンジン回転数を調節する機能を持ったMTも増えており、MTのハードルを下げる努力がなされている。

営業用自動車

トラックバスなどの商業用大型車では、流体クラッチの伝達ロスから必然的に生じる数%の燃費の差を克服できず、商業用途で厳しく要求される燃料コストや整備性、積載時の走行性能の問題からMT車が主流であった。しかし2000年代半ば以降、MTをベースとしたセミオートマチックトランスミッションが実用レベルに達しMT車と遜色ない燃費・走行性能が実現したことで、トラックでもAT・オートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)への移行が進んでいる。

大型・中型バスも2000年代まではMT車が主流であったが、交通バリアフリー法によるノンステップバス化、ハイブリッド車の普及やエンジンの小排気量化に伴ってAT・AMTへの移行が進んだ結果、2021年時点では、大型観光バスは日野・セレガいすゞ・ガーラの一部仕様のみ、大型路線バスの新車ラインナップからは消滅、小型トラックとパワートレインを共用するマイクロバスには残る程度となっている。

日本のタクシーも同様、1990年代まではMTが主流であったが、2014年の第二種普通運転免許取得者の15,701人中、55%の8,649人がAT限定で取得している[7]。タクシー用の車種構成も、2008年から2009年にかけてトヨタ・クラウンコンフォートトヨタ・クラウンセダン日産・セドリック営業車がATのみになった。クラウンコンフォート・クラウンセダンの後継タクシー専用車であるトヨタ・ジャパンタクシーも、トヨタ・ハイブリッド・システムと称する電力・機械併用式CVT専用車である。

オートバイ

オートバイでは50ccスクーターを除き、ほとんどがクラッチレバーを持つMTであったが、いわゆるビッグスクーターブームで、一時的に250ccクラスは販売台数の大半がATとなった。それに伴い、2005年には普通二輪免許(小型限定も含む)と大型二輪免許にAT限定が新設された。現在はビッグスクーターブームの衰退と、カワサキ・Ninja250Rなどのスポーツバイクのヒットで、250ccクラスにおけるMTの販売比率が戻りつつある[8]。なお、オートバイの場合はMTといっても、現代の自動車と違ってほぼ全てがノンシンクロトランスミッションである。

軍用車

大型トラックや特殊車両などの場合、MTでは操作に習熟した者でないと発進すら困難な場合があるが、ATでは自動車の運転ができる者ならある程度運転することは可能であり、小型車両においても片手片脚を負傷した状態でも運転可能となる。戦車のような装甲車両でもかつてはMTが用いられたが、現在では大馬力化に伴いMT変速が困難となったため基本的にATが用いられている。

MT普及率の低下による影響

東アジア、北米、中東、東南アジア、豪州などはAT車が主流となり、次のような状態が発生している。

  • MTが用意されている車種が減少し、多くの車種・クラスでMT車を選びたくても選べないほどにまでなっている。2019年現在、車種の時点でAT専用車が多数を占めており、そのためクラス・グレード云々問わず既にAT車・CVT車しかないのが現状である。よく似た境遇でガラケーフィーチャーフォン)とスマホスマートフォン)の関係が正にこれと当てはまり、ガラケーがMT車、スマホがAT車・CVT車と揶揄されることも少なくない。
    • 近年では乗用車のAT化の進行の影響を受ける形で、それとプラットフォームを共用するステーションワゴンライトバンにおいてもMTが廃止されている。例えばヴィッツがベースであるプロボックス/サクシードが2014年夏にビッグマイナーチェンジを受けた際に全車CVTとなり、商用バンからMT仕様が消滅した(ヴィッツのMT車は一時期設定がなかった時期があるが、現在も設定が存在する)。
  • かつては同一車種の同一グレードで比較した場合、AT車はMT車よりも高額であったが、AT車の普及により価格差が少なくなり、MT車とAT車の価格差がない場合が多い。逆に量産効果でATの方が安くなる場合もあり、たとえば、ダイハツ・コペンの場合、2010年のマイナーチェンジでMT車のほうがAT車よりわずかながら高くなった。またフィットRSの場合、トランスミッション以外の装備の差も含めて、MT車のほうがCVT車より20万円以上高く設定された時期があった[9]。一方近年のトヨタ車(カローラやヤリス)はMT仕様の方が価格が安く設定されている。
  • 自動変速技術の向上、自動変速に連動させたエンジン回転数、燃料噴射などの制御技術など変速機以外の技術向上によって、総合面での効率上のMTの優位は小さくなり、近年ではほぼ逆転している。2019年時点ではほとんどの車種においてAT、またはCVTの方が燃費が良い。
  • かつてはスポーツカーはMTを搭載するのが一般的であったが、高速域でクラッチを切り変速することは危険を伴うため、日産・GT-Rホンダ・NSXトヨタ・スープラなど大排気量スポーツカーはモデルチェンジの末にATまたはDCTのみとなっている。フェラーリランボルギーニもMTを廃止している[11]。またF1をはじめとしたプロ向けレーシングカーでも、MTのクラッチ操作を自動化したセミATが主流になっている。一方で、スバル・WRX VAポルシェ・ケイマンマツダ・ロードスターのようにMTを残すスポーツカーも存在する。

日本国外の普及状況

1980年代以降、一般的な乗用車はATへの移行が進み、アメリカのMT車の普及率は4.4%[12]、日本の場合は1.7%[13]である。アメリカと日本のメーカーの各国内向けに販売される車種は、ほとんどがATを搭載した仕様で、現在もMTが主流な欧州車も、日本や北米へ輸出されるものにはMTが設定されていない車種が多い。その他東南アジア、中国、中東、豪州などでもATが標準的である。

ヨーロッパではMT車の販売台数が多く、日本のメーカーで日本国内仕様にはMTを設定しない車種でも輸出用にはMTを設定している車種がある。ヨーロッパでMT車が多いことについてプジョーは、ヨーロッパの人間はATについて知識不足であり、ネガティブなイメージを持っていること、販売価格がMTより高く普及しにくいとしている[14]

しかし、近年はイタリア車フランス車ではATの技術が大幅に進歩してきており、ラインアップにも多数採用されてきていることからATのイメージも改善。片手が自由になるメリットも認知されるようになり、車種によっては過半数から90%がAT車が選ばれるなど、徐々にATが主流となりつつある[15]


  1. ^ コトバンクにてデジタル大辞泉ならびに大辞林第三版の引用
  2. ^ Ferrari click-clack manual transmissions, RIP CAR MAGAZINE 2011年11月11日
  3. ^ 池田直渡「週刊モータージャーナル」:一周して最先端、オートマにはないMT車の“超”可能性(2/4) IT Mediaビジネス 2016年3月7日
  4. ^ a b c d 大車林-自動車情報辞典. 三栄書房. (2003). ISBN 4879046787 
  5. ^ 押しがけは、車を押すか下り坂でニュートラルで転がすなどして、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチを繋ぐ。引きがけは他の車に牽引してもらい、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチをつなぐことによってセルモーターを使わずにエンジンを始動する。
  6. ^ 絶滅危惧種か!? 大ブーム到来か!? 「MT」の行方はどっちだベストカーweb 2018年8月27日
  7. ^ 警察庁2014年運転免許統計 https://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/index.htm
  8. ^ 若者のバイク離れに反攻、バカ売れ“Ninja250”に見るカワサキの「掴(つか)む力」!
  9. ^ 2代目の2007年10月-2009年11月モデル[1]。2009年11月の一部改良によりCVT車とMT車は同一価格になった[2]
  10. ^ トヨタ カローラ スポーツ 燃費・走行性能トヨタ自動車公式サイト
  11. ^ [3]
  12. ^ アーカイブされたコピー”. 2011年8月2日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年10月6日閲覧。
  13. ^ 2010年新車販売台数MT比率(ベストカープラス6月18日増刊号の記事)
  14. ^ [4]
  15. ^ 「イタ車&フラ車はMTだ」なんて古い?WEBCG


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