マニュアルトランスミッション マニュアルモード付きAT

マニュアルトランスミッション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 06:52 UTC 版)

マニュアルモード付きAT

AT車のカタログに「マニュアルモード付き」などのように記載されていれる場合、通常のモードでは自動で行われる変速を、ドライバーの任意で選択できるスイッチを設けたATを示している。CVTの場合は、自動制御では変速比を無段階で連続的に変化させているが、マニュアルモードではCVTの変速範囲の中で段階的に設定された変速比をスイッチで選択できるように制御する。いずれも変速比を任意で選べるだけであり、MTのようなクラッチ操作は不可能かつ不要である。英語圏では、マニュアルモード付きのトルクコンバータ式ATは「manumatic」と呼ばれる。

現在のF1NASCARインディカーSUPER GTDTMWRCル・マンなどのプロ向けビッグレースでは軒並みセミATが採用されており、変速の速さで劣るMTは完全に絶滅している。一方86/BRZレーススーパー耐久(ST-2〜ST-5クラス)のようなアマチュア色の強いレースや、ドリフトのような特殊な操作を必要とする競技は依然としてMTが主流である。

小型バイクなどに使われる自動遠心クラッチ等を利用した手動変速機も、セミオートマチックトランスミッションも、マニュアルモード付きATも共に、日本の運転免許制度上では、クラッチ操作ペダル・クラッチ操作レバーがなければオートマチック限定免許で運転が許される。

日本の普及状況

MTは比較的製造コストが低く、動力の伝達が効率的であったため、かつてはMTが主流で、ATは一種の贅沢品としてオプション設定とされることが多かった。特に排気量の小さい小型車については、初期のATはトルクコンバーターの損失が大きく、走行性能・燃費性能共に低かったため、エンジンの動力を効率的に使えるMTが適していた。

しかし、近年の車種では無段変速機(CVT)やATの方が燃費でも走行性能面でも優位に立っており[5]、性能的アドバンテージを失ったMTは大きく数を減らした。日本では1980年代後半まで、MTは四輪自動車の変速機構の主流であったが、今はモデルチェンジや改良によりMTを廃止し、ATもしくはCVTのみに縮小されることが多い。また三菱自動車(日本国内における。輸出仕様には現在もMT車が存在する)のように自社生産車からMTを全廃する意向のメーカーも現れた。モデル別に見ても、ミニバンでは、1999年平成11年)の日産・セレナのモデルチェンジ、トヨタエスティマエミーナ及びエスティマルシーダのモデル廃止をもってラインナップから姿を消した。2017年(平成29年)の国内MT比率は2.6 %であった。

このようにMTは完全に時代遅れの感が強いが、2019年(平成31/令和元年)現在でもスバル・WRX STIトヨタ・マークX GRMN(限定生産)のようなMT専用モデルが販売されているほか、スズキ・ジムニーホンダ・S660トヨタ・86/スバル・BRZマツダ・ロードスターのような安価かつ趣味性の強い車種ではMTがATより売れているものもある[6]スズキは、ブランクを経て復活した8代目アルトワークスで、MTを操ることの楽しさを前面に押し出した宣伝を行っていた。これら以外にも、トヨタマツダ、スズキは実用車種にも積極的にMTをラインナップしている。また、変速操作に合わせてエンジン回転数の制御を行う日産の「シンクロレブコントロール」や、それに加えて微速時や坂道発進時にスロットルを多めに開いてエンストを防ぐトヨタのiMTのような、新たな付加価値を持つMT車も増えており、運転操作の難しさを払拭し、MT車の良さを伸ばす努力がなされている。

営業用自動車

トラックバスなどの商業用大型車では、流体クラッチの伝達ロスから必然的に生じる数 %の燃費の差を克服できず、商用車で厳しく要求される燃料コストや整備性、積載時の走行性能の問題からMT車が主流であった。しかし、2000年代半ば以降、MTをベースとしたセミオートマチックトランスミッションが実用レベルに達し、MT車と遜色ない燃費・走行性能が実現したことで、トラックでもAT・オートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)への移行が進んでいる。

大型・中型バスも2000年代まではMT車が主流であったが、交通バリアフリー法によるノンステップバス化、ハイブリッド車の普及やエンジンの小排気量化に伴ってAT・AMTへの移行が進んだ結果、2021年(令和3年)時点では、大型路線バスの新車ラインナップからは消滅し、大型観光バス日野・セレガいすゞ・ガーラの一部仕様のみと、小型トラックとパワートレインを共用するマイクロバスに残る程度となっている。

日本のタクシーも同様で、1990年代まではMTが主流であったが、2014年(平成26年)の第二種普通運転免許取得者の15,701人中、55 %の8,649人がAT限定で取得している[7]。タクシー用の車種構成も、2008年(平成20年)から2009年(平成21年)にかけてトヨタ・クラウンコンフォートトヨタ・クラウンセダン日産・セドリック営業車がATのみになった。クラウンコンフォート・クラウンセダンの後継タクシー専用車であるトヨタ・ジャパンタクシーも、トヨタ・ハイブリッド・システムと称する電力・機械併用式CVT専用車である。

オートバイ

オートバイでは50 ccスクーターを除き、ほとんどがクラッチレバーを持つMTであったが、いわゆるビッグスクーターブームで、一時的に250 ccクラスは販売台数の大半がATとなった。それに伴い、2005年(平成17年)には普通二輪免許(小型限定も含む)と大型二輪免許にAT限定が新設された。現在はビッグスクーターブームの衰退と、カワサキ・Ninja 250Rなどのスポーツバイクのヒットで、250 ccクラスにおけるMTの販売比率が戻りつつある[8]。なお、オートバイの場合はMTといっても、現代の自動車と違ってほぼ全てがノンシンクロトランスミッションである。

軍用車

大型トラックや特殊車両などの場合、MTでは操作に習熟した者でないと発進すら困難な場合があるが、ATでは自動車の運転ができる者ならある程度運転することは可能であり、小型車両においても片手片脚を負傷した状態でも運転可能となる。戦車のような装甲戦闘車両でもかつてはMTが用いられたが、現在では大出力化に伴いMT変速が困難となったため、基本的にATが用いられている。

MT普及率の低下による影響

東アジア、北米、中東、東南アジア、豪州などはAT車が主流となり、次のような状態が発生している。

  • MTが設定されている車種が減少し、多くの車種・クラスでMT車を選びたくても選べないほどにまでなっている。2019年(平成31年/令和元年)現在、AT専用車が多数を占めており、そのため、クラス・グレードを問わず、既にAT車・CVT車しかないのが現状である。よく似た境遇でガラケーフィーチャーフォン)とスマホスマートフォン)の関係が正にこれと当てはまり、ガラケーがMT車、スマホがAT車・CVT車と揶揄されることも少なくない。
    •  近年では乗用車のAT化の進行の影響を受ける形で、それとプラットフォームを共用するステーションワゴンライトバンにおいてもMTが廃止されている。例えばトヨタ・ヴィッツがベースであるプロボックス/サクシードが、2014(平成26)年夏に衝突安全性の見直しで大幅改良を受けた際に全車CVTとなり、商用バンからMT仕様が消滅した(ヴィッツのMT車は一時期設定がなかった時期があるが、現在も設定が存在する)。
  • かつては同一車種の同一グレードで比較した場合、AT車はMT車よりも高額であったが、AT車の普及によって価格差が小さくなり、ほとんど価格差がないことが多くなった。さらに、量産効果で逆転することもあり、ダイハツ・コペンの場合、2010年(平成22年)のマイナーチェンジでMT車のほうがAT車よりわずかながら高くなった。また、フィットRSの場合、トランスミッション以外の装備の差も含めて、MT車のほうがCVT車より20万円以上高く設定されていた時期がある[注釈 2]。一方、近年のトヨタ車(カローラやヤリス)はMT仕様の方が価格が安く設定されている。
  • 自動変速技術の向上、自動変速に連動させたエンジン回転数、燃料噴射などの制御技術など変速機以外の技術向上によって、総合面での効率上のMTの優位は小さくなり、近年ではほぼ逆転している。2019年時点ではほとんどの車種においてAT、またはCVTの方が燃費が良い。
  • かつてはスポーツカーはMTを搭載することが一般的であったが、高速域でクラッチを切り変速することは危険を伴うため、日産・GT-Rホンダ・NSXトヨタ・スープラなど大排気量スポーツカーはモデルチェンジの末にATまたはDCTのみとなっている。フェラーリランボルギーニもMTを廃止している[10]。また、F1カーをはじめとしたプロ向けレーシングカーでも、MTのクラッチ操作を自動化したセミATが主流になっている。一方で、スバル・WRX VAポルシェ・ケイマンマツダ・ロードスターのようにMTを残すスポーツカーも存在する。

日本国外の普及状況

1980年代以降、一般的な乗用車はATへの移行が進み、アメリカのMT車の普及率は4.4%[11]、日本の場合は1.7%[12]である。アメリカと日本のメーカーの各国内向けに販売される車種は、ほとんどがATを搭載した仕様で、現在もMTが主流な欧州車も、日本や北米へ輸出されるものにはMTが設定されていない車種が多い。その他東南アジア、中国、中東、豪州などでもATが標準的である。

ヨーロッパではMT車の販売台数が多く、日本のメーカーで日本国内仕様にはMTを設定しない車種でも輸出用にはMTを設定している車種がある。ヨーロッパでMT車が多いことについてプジョーは、ヨーロッパの人間はATについて知識不足であり、ネガティブなイメージを持っていること、販売価格がMTより高く普及しにくいとしている[13]

しかし、近年はイタリア車フランス車ではATの技術が大幅に進歩してきており、ラインアップにも多数採用されてきていることからATのイメージも改善。片手が自由になるメリットも認知されるようになり、車種によっては過半数から90%がAT車が選ばれるなど、徐々にATが主流となりつつある[14]


注釈

  1. ^ 押しがけは、車を押すか下り坂でニュートラルで転がすなどして、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチを繋ぐ。引きがけは他の車に牽引してもらい、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチをつなぐことによってセルモーターを使わずにエンジンを始動する。
  2. ^ 2代目の2007年10月-2009年11月モデル[1]。2009年11月の一部改良によりCVT車とMT車は同一価格になった[2]

出典



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