マニュアルトランスミッション 内部構造

マニュアルトランスミッション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/05 14:09 UTC 版)

内部構造

上図の構成は一例であり、上図でアウトプットシャフトに保持されている歯車がインプットシャフトに保持される場合もある。また、前輪駆動車のようにディファレンシャルギアを内蔵してトランスアクスルとなる場合もある。

自動車用のMTでは3段程度から10段を超える物まで、用途や時代に応じて異なる段数の前進ギアを備え、後進ギアは1段の場合がほとんどである。上図のようにインプットシャフトとアウトプットシャフトが同軸となるMTでは、最高段の「トップギア」で歯車を介さず両シャフトを直結して伝達する構造をとり、減速比を1:1とするものが多かった。この方式を初めて採用したのは1898年にルイ・ルノーがド・ディオン=ブートン(De Dion-Bouton)車の改造で開発した「ヴォワチュレット」(Voiturette)で、通常多用されるトップギアでMT内部の摩擦を減らし、効率よく駆動させる狙いがあった。以後、世界各国の自動車メーカーが追随する方式となっている。エンジン回転数より出力軸の回転数が高くなる(1:1以上)のギアは「オーバートップ」や「オーバードライブ」と呼ばれ、エンジン回転数を低く抑えて静粛性・経済性を高める効果があったが、その普及は道路交通の高速化が進展した第二次世界大戦以降である。MTとは別体のオーバードライブユニットが組み込まれた物もあり、代表例としてイギリスMG・MGBではシフトノブに組み込まれたボタンによって作動させた。

シャフト

MTを構成する歯車やシンクロメッシュのシャフトは複数あるが、車両の駆動方式によって、入力軸と出力軸の配置や数が異なる。例えばフロントエンジン・リヤドライブ車のように、一方から入力を受けて反対側へ出力する場合、上図のようにインプットシャフト、カウンターシャフトおよびアウトプットシャフトの3本がある。インプットシャフトとアウトプットシャフトは同軸上にあるため、一方の端が中空でもう一方の端がその中に挿入される場合もあり、この場合は両方を合わせてメインドライブシャフトと呼ばれる。一方、前輪駆動車に多い、入力軸に向かって出力する形式の場合は、インプットシャフトとカウンターシャフトの2本のみ存在する。

歯車

4速MTの機構模式アニメーション

トランスミッションに組み込まれる歯車は、選択された段位の歯車だけが噛み合う選択摺動式と、各段の歯車が常時噛合いつつ、噛合いクラッチで歯車とシャフトを1段だけ接続する常時噛合い(コンスタントメッシュ、: constant mesh)式がある。

選択摺動式では、歯車はシャフト上をスライドできるように保持されている[4]。歯車の歯面を滑らせながら噛み合いと分離が行われるため平歯車が用いられる。黎明期の自動車では一般的だったが、滑らかな変速には高度な技量を要するため、現代の自動車用途では後退ギアを除いて常時噛合い式に取って代わられている[4]

常時噛合い式では、歯車はシャフトとは独立して回転し、各段の歯車は常に噛合っている[4]。歯車の側面とシャフトには噛合いクラッチ用の歯が設けられ、変速操作時は対応するクラッチスリーブがスライドして、歯車とシャフトの歯を嵌合(かんごう)させて動力を伝達する[4]

シンクロナイザー

自動車用のMTにはシンクロナイザー(: synchronizer)と呼ばれる機構が組み込まれることが一般的で、これを備える変速機構はシンクロメッシュ(: synchromesh)と呼ばれる。これは常時噛合い式変速機のクラッチスリーブと歯車が噛合う際に、滑らかに互いの回転速度を同調(シンクロナイズ)させる機構である。

クラッチスリーブと歯車は互いに異なる回転速度で回転している場合がほとんどで、その速度差が大きい場合は噛合い歯の衝突による騒音が発生したり、機構を傷めることもある。シンクロナイザーはクラッチスリーブと歯車の間の同軸上に介在し、変速操作によって滑らかな面で荷重を受けながら歯車へ押しつけられ、摩擦力でクラッチスリーブから歯車へと回転を伝達する方式が広く普及している。シンクロメッシュが普及したことで、自動車の運転がより容易となった。

古くは自動車用MTもシンクロナイザーを備えていないのが一般的で、シンクロメッシュが普及したのちには対比的にノンシンクロトランスミッションと呼ばれるようになった。耐久性や整備性の観点から、ノンシンクロトランスミッションは現在でも大型の自動車、建設機械、オートバイあるいは競技用の自動車などで利用される例がある。

後進ギア

一般的な自動車用のMTでは、前進ギアが2つの歯車で一組であるのに対し、後進ギアはリバースアイドラー(: reverse idler gear)と呼ばれる歯車を加えた3つの歯車が1組で構成される。前進ギアよりも歯車を1つ多く介して伝達されるため回転方向が逆になる(後退とも言う)。

前進ギアに常時噛み合い式が採用されることが一般的になってからも、後進ギアには選択摺動式が採用されることが多かったが、後進ギアにも常時噛み合い式が採用され、同時にシンクロナイザーが組み合わされるようになった。選択摺動式の場合、カウンターシャフトとアウトプットシャフトに固定された歯車は互いに噛み合っておらず、後進が選択されるとがこれらの歯車の間にリバースアイドラーが挿入されて動力を伝達する。そのためリバース時には独特のうなり音が発生する。また、選択摺動式の場合は平歯車であるため、はす歯歯車を利用したほかの段位に比べると走行時の騒音が大きくなる。


注釈

  1. ^ 押しがけは、車を押すか下り坂でニュートラルで転がすなどして、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチを繋ぐ。引きがけは他の車に牽引してもらい、速度が上がったら適当なギアに入れてクラッチをつなぐことによってセルモーターを使わずにエンジンを始動する。
  2. ^ 2代目の2007年10月-2009年11月モデル[1]。2009年11月の一部改良によりCVT車とMT車は同一価格になった[2]

出典







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