マニュアルトランスミッション
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 06:52 UTC 版)
整備
MTはオイルで潤滑されていて、定期的に交換しなければならない自動車もある一方、交換を不要とする車種もある。マニュアルトランスミッションの潤滑に用いられるオイルはギアオイルと呼ばれ、歯面の滑りや歯面にかかる圧力で油膜が切れるのを防ぐため、硫黄やリン、亜鉛などからなる極圧添加剤と呼ばれる化合物が添加されており、特有の匂いがある。ただしギヤの種類の関係からディファレンシャル系統などに比べ過酷度は一般的には厳しくなく、また極圧剤がシンクロメッシュへの攻撃性を持つ場合があるため、ディファレンシャル系統よりも極圧性の低いオイルが指定される事が多い。しかしディファレンシャルと一体化したトランスアクスルにおいては一定の極圧性が求められるためシンクロ攻撃性とのバランスが求められる。一部の製造業者ではギアオイルにこれらの添加物を使わず、近年までは通常のエンジンオイルを指定していたが、現在では自社ブランドのギアオイルを指定している。4サイクルエンジンを搭載したオートバイのMTはエンジンのクランクケースと一体化したギアハウジングを採用している車種がほとんどで、エンジンオイルによってトランスミッションも同時に潤滑する。
クロースレシオトランスミッション
各変速段の間の歯車比の差が比較的小さいトランスミッションはクロースレシオトランスミッションと呼ばれる。クロース(Close)は「近い」の意で、歯車比の差を小さく(近く)することで、変速前後のエンジン回転速度の変化を小さくできる。
MT車特有の運転操作
AT搭載車やセミオートマチックトランスミッション搭載車とは異なり、MT搭載車ではクラッチの操作を運転者が行う。車両を停止させる場合やシフトチェンジを行う際にはクラッチを切ってトランスミッションへ伝達される動力を遮断する。自動車ではペダルによって、オートバイではハンドルの左側に付いたレバーで操作するのが一般的で、単純な動力の断接だけでなく、クラッチを滑らせながら部分的に動力伝達させる半クラッチと呼ばれる操作もMT搭載車を運転する上で不可欠な運転操作である。
登坂路で発進する際はクラッチを切ったままブレーキペダルから足を放すと車両が後退してしまうため、これを防ぐためにパーキングブレーキを利用し、クラッチ接続と同時に徐々にブレーキを解放する運転操作もある。「坂道発進」と呼ばれ、日本の自動車教習所ではMT車を運転する実技の必須項目となっている。
左足でクラッチを操作するのと同時に、右足でブレーキとアクセルを同時に操作する場合もあり、ヒール・アンド・トウと呼ばれる。3つのペダルで運転操作を行うMT搭載車特有の操作方法である。また、モータースポーツなどで行われる特殊な操作方法として、走行中にアクセルを開いたままクラッチを切り、エンジンの回転速度が上がったところで急激にクラッチを接続する操作もある。故意に駆動輪を空転させて、エンジンの回転速度を出力が高い領域、すなわちトルクバンドに保って走行するための運転技術である。駆動輪が空転するため車体の挙動が不安定になるが、これをドリフト走行のきっかけに利用する場合もある。
クラッチスタートシステム
トランスミッションをニュートラルにしないまま、クラッチを踏まずにエンジンを始動させると車両が走り出して事故に繋がる恐れがあることから、日本国内では、1999年7月以降より新車で販売されているMT車には、クラッチを踏まないとエンジンがかからない、クラッチスタートシステムの採用が義務付けられている。
他の変速機との比較
乗用車の場合、一般的な自動変速機と比較すると次のような特徴がある。
- 構造が単純で、許容トルクに比して小型、軽量である。
- 歯車による伝達のため、CVTよりも伝達効率が高い。
- 定常運転時は滑りのない摩擦クラッチと組み合わされるため、ロックアップ機構を持たないトルクコンバータ式ATより伝達効率が高い。
- 押しがけや引きがけ[注釈 1]によるエンジンの始動が可能である(クラッチスタートシステム装着車でも可能である)。
- AT車に比べて複雑な運転操作を要するが、逆にいえば単にブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えただけでは意図せぬ発進をせず、意図せぬ急加速も抑えられることでもある。
- 複雑な運転操作により運転に対する集中力が保たれるとする主張や、複雑な運転操作に楽しみを見出す趣向もある。
注釈
出典
- ^ コトバンクにてデジタル大辞泉ならびに大辞林第三版の引用
- ^ Ferrari click-clack manual transmissions, RIP CAR MAGAZINE 2011年11月11日
- ^ 池田直渡「週刊モータージャーナル」:一周して最先端、オートマにはないMT車の“超”可能性(2/4) IT Mediaビジネス 2016年3月7日
- ^ a b c d 大車林-自動車情報辞典. 三栄書房. (2003). ISBN 4879046787
- ^ 変速機単体の重量では、依然としてシングルクラッチのMTが最も軽量である。
- ^ 絶滅危惧種か!? 大ブーム到来か!? 「MT」の行方はどっちだベストカーweb 2018年8月27日
- ^ 警察庁2014年運転免許統計 https://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/index.htm
- ^ 若者のバイク離れに反攻、バカ売れ“Ninja250”に見るカワサキの「掴(つか)む力」!
- ^ トヨタ カローラ スポーツ 燃費・走行性能トヨタ自動車公式サイト
- ^ [3]
- ^ “アーカイブされたコピー”. 2011年8月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月6日閲覧。
- ^ 2010年新車販売台数MT比率(ベストカープラス6月18日増刊号の記事)
- ^ [4]
- ^ 「イタ車&フラ車はMTだ」なんて古い?WEBCG
マニュアルトランスミッションと同じ種類の言葉
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