polonium-210とは? わかりやすく解説

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ポロニウム210

別名:Po-210
英語:polonium-210

ポロニウム放射性同位体半減期は約138日。天然にごく微量存在する。強い毒性を持つことでも知られる

ポロニウム210は主にアルファ線放出するアルファ線皮膚透過しないため、外部被曝危険性少ないとされる体内取り込まれ場合には少量でも深刻な内部被曝もたらす

ポロニウム210が放出する放射線量天然ウランの約100億倍に上るとされる緊急被ばく医療研究センターによれば、ポロニウム210が数百ナノグラム体内取り込まれただけでも死亡する可能性があるという。

2012年7月3日中東衛星テレビアルジャジーラは、2004年11月死去したアラファト・パレスチナ自治政府初代大統領突然死原因がポロニウム210による毒殺である可能性があることを報道した

ポロニウム210は、2006年に元ロシア連邦保安局FSB職員であったアレクサンドル・リトビネンコAlexander Litvinenko)がロンドンホテル何者かにより毒殺され事件においても使用されたことが知られている。

関連サイト
Arafat's widow calls to exhume his body - Al-Jazeera
Yassar Arafat poisoned by polonium, Al-Jazeera report says - the Telegraph
ポロニウム210に関する情報 - 緊急被ばく医療研究センター
ポロニウム210に関する情報 - 放射線安全研究センター

ポロニウム210

(polonium-210 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/17 04:39 UTC 版)

ポロニウム210
概要
名称、記号 ポロニウム210,210Po
中性子 126
陽子 84
核種情報
天然存在比 極微量
半減期 138.376 ± 0.002 日
親核種 210mPo (IT)
210Bi (β-)
214Rn (α)
210At (β+)
崩壊生成物 206Pb
同位体質量 209.9828737 u
スピン角運動量 0+
余剰エネルギー −15953.1± 1.2 keV
結合エネルギー 7834.345 keV
α 5.40746 MeV

ポロニウム210 (Polonium-210・210Po) とは、ポロニウムの同位体の1つ。

天然での存在

210Poはウラン系列の中に存在する核種の1つである。

210Poは、天然に存在するほぼ唯一のポロニウム同位体である[1][2]半減期は138.376日という寿命の短い放射性同位体であるが[3]、天然に豊富に存在する238Uから始まる崩壊系列であるウラン系列の中に存在する核種であるため、常に極微量ながら補充される核種だからである。その量は極めてわずかであり、天然ウラン1トンに対してわずか74μgしかなく、ウランの約135億分の1であり、地殻に含まれる割合は約178ppt程度である[注釈 1]。しかし、その量における放射能は約120億Bqに達する[注釈 2][4]。天然ウラン1トンの放射能は約254億Bqであるため[注釈 3]、天然ウランに含まれる210Poの比放射能は天然ウランの約半分に達する。わずかな量でも強い放射能を有する性質が、後述するポロニウムの発見につながった[1]238Uから210Poに至るまで、7回のアルファ崩壊と6回のベータ崩壊を経由する。また、大気1m3には0.2mBqから1.5mBqの210Poが含まれている[4]

厳密に述べれば、ウラン系列では214Po218Po、他の崩壊系列では211Po、212Po215Po、216Poが天然に存在する。しかし、半減期が最も長い218Poでも3.10分、その他の核種は1秒未満しかないため、全くのゼロというわけではないが、実質的に存在しないと見なすことが出来る。また、210Poより寿命の長い核種に209Poの102年、および208Poの2.898年があるが、これらの親核種はいずれも天然には存在し得ない極めて短命な核種しか存在しないため、これらは天然には全く存在しない[3]

崩壊

210Poが206Pbに崩壊する壊変図式206m2Pbに分岐してガンマ線を放出することはあるが、それは極めてわずかである。

210Poは、その100%が約5.4MeVアルファ粒子を放出し、安定同位体である206Pbに変化する[3]。稀に核異性体である206m2Pbに分岐し、核異性体転移での崩壊に伴うガンマ線を放出することがある。ガンマ線のエネルギーは約4.6MeVであるが、分岐はわずか0.00124%という非常に低確率である。同じようにアルファ崩壊をする核種である239Pu241Amなどと異なり、エネルギーピークは1つであることを特徴とする[5]。また、アルファ線の作用により、210Poの周辺の空気は励起光を発する[2]

210Poの親核種としては、210Biが最も著名である。210Biは先述したウラン系列において210Poの前に相当する核種であり、半減期5.013日をもって99.99987%がベータ崩壊によって210Poに変化する。そのほか、214Rnのアルファ崩壊、210Atの陽電子放出がある[3]

また、210Poには、核異性体である210mPoがある。210mPoはわずか98.9ナノ秒で核異性体転移をして210Poに壊変する[3]

歴史

ピッチブレンド210Poを含む。

210Poは、初めて発見されたポロニウムの同位体である。210Poは1898年ピエール・キュリーマリ・キュリー夫妻によって発見された。発見のきっかけは、ウラントリウムを含むピッチブレンド放射線量を測定した結果、ウランやトリウムから推定される数値の約4倍という、はるかに多くの放射線を測定したことである。キュリー夫妻はこれを未知の元素によるものと推定し、高価なピッチブレンドの代わりに、ヨアヒムスタール鉱山で産出したウラン鉱石の残渣数トンから数ヶ月の時間を使って成分の抽出・分離を行った結果である。なお、1902年には別の化学者が同じくピッチブレンドから放射性のテルルを発見し一時論争となったが、後に同じ物質である事が確認された。ポロニウムの名はマリ・キュリーの故郷であり、当時ロシア帝国の占領下にあったポーランドに因んでいる。マリは当時ポーランドを独立・解放する運動に強い関心を寄せていた。その後12月にキュリー夫妻によって発見されたラジウムに因み、名称が決定するまでは暫定的に「ラジウムF (Radium F) 」と呼ばれた。なお、発見されたポロニウムの原子量は、ドミトリ・メンデレーエフ1891年に発表した周期表で予測した原子量である212に近い数値であった。周期表の発表時は未発見であったため、暫定的に「エカテルル (ekatellurium) 」と呼ばれた。エカテルルすなわちポロニウムの化学的性質は、周期表で予測されたとおりテルルと類似していた。1911年にマリに贈られたノーベル化学賞は、ポロニウムおよびラジウムの発見の功績に対して贈られた[1][2][6]

生成・用途

先述したとおり、210Poはウラン鉱石中にわずかしか含まれていないため、鉱石からの抽出は現実的ではない。人工的に210Poを得るには、209Bi中性子線を照射し、中性子捕獲210Biになったものが210Poにベータ崩壊して生じたものを使用する。1kgの209Biを原子炉で1ヶ月間照射して得られる210Poは3000億Bqであり、質量で約1.7mgである。厚さ0.1mmの209Bi板に加速した10MeVの重陽子を10日間照射して得られる210Poは400億Bqであり、質量で約0.2mgである[4]

210Poはタバコの葉に含まれており、喫煙により体内に吸引される。その実効線量や健康に対するリスクには様々な説がある。

一般人が210Poを体内に摂取する経路は、主に水中に含まれる酸化物、水酸化物、硝酸塩を経口摂取するものであるが[4]、特に健康上の問題を考えるほど大量の場合を想定する場合には、主にタバコに由来する。ウラン濃度の高いリン鉱石から作られた肥料には226Raが含まれており、肥料を使用すると、226Raが崩壊して生成される222Rnが大気中から放出される。そして222Rnから崩壊した210Pbがタバコの葉の毛状突起に付着する。そして210Pbが210Biを経由して210Poへと変化する。210Poは煙と共に体内に吸引される。喫煙に起因する肺癌の少なくとも2%は210Poによるものとする推定もある[15]210Poのアルファ線は水中で0.04mmという極めてわずかな距離しか進まず、外部被曝は皮膚表面にとどまるため、健康上の問題があるのは内部被曝によるものである[4][8]。UNSCEARの報告では、タバコに付着した210Poや210Pbによる放射線で10μSv/年の実効線量を推定している。しかし、別の推定は、これよりはるかに強く、例えばウルビーノ大学英語版は1日20本の喫煙で210Po由来の被曝が124.8μSv/年[16]放射線医学総合研究所は200μSv/年の被曝を推定している[17]

体内にある210Poの総量は約40Bq (240fg) で、1日あたり0.1Bqを摂取している。肝臓腎臓脾臓に多く蓄積し、およそ100日で体外へと排出される[4]ヒヒを用いたポロニウムのクエン酸塩の投与実験では、肝臓に29%、腎臓に7%、脾臓に0.6%が蓄積し、生物学的半減期は50日から150日と個体差が大きいという[1]。試験は0.1mg以下のレベルで行われており、その化学的挙動は複雑で予測がしにくい[4]

210Poは自然放射性核種として魚介類に多く含まれるが、日本人は魚介類の消費量が多いこととその内臓を食する食習慣のため210Po の摂取量が220Bq/年と他国より多く、40Kよりも年間実効線量に対する寄与は大きい[18][19]UNSCEARの2000年報告書では食品摂取による210Poの預託実効線量の世界平均は年間摂取量30Bqについて0.021mSVと評価されているが、日本分析センターの2005年の評価では、日本人一人当たりの食品摂取による210Poの預託実効線量は年間摂取量85Bqについて0.058mSVである[20]

先述したとおり、210Poは崩壊時にほぼ純粋なアルファ線を放出し、ガンマ線はわずかしか伴わない[5]210Poの検出には210Poを純粋分離した試料からアルファ線を測定するのが普通であるが、床に付着したものは、アルファ線が空気中をほとんど進まないため、2cm以内に検出器を置かないと検出が出来ない[4]。これらの性質は、暗殺目的に210Poを投与させるには極めて都合が良い。なぜなら、210Poを含ませた食品等を容器に入れると、アルファ線は紙1枚でも容易に遮断されるほど透過性が低いため外部に漏れず、透過性の強いガンマ線は微量過ぎてガンマ線測定器による検出は不可能であるため、検査を容易にすり抜ける事が可能であるためである。また、同様の理由で運搬者は被曝しないことも都合が良い。2004年に死亡したパレスチナ自治政府大統領のヤーセル・アラファート(ヤセル・アラファト)、2006年に死亡した元ロシア連邦保安庁職員のアレクサンドル・リトビネンコは、210Poが暗殺目的で使用されたものと疑われているケースである。両者はどちらも内臓系の障害が原因で死亡しており、体内や遺品から210Poが検出されている[8][21][22][23]。なお、先述したとおり210Poは静電気除去装置に使われるが、これの分解によって210Poを取り出すのは、特殊な装置が必要なことと、量が微量すぎるので現実的ではないとされる。210Poの投与による急性中毒で死亡させるには一般人には入手不可能なほどの大量の210Poが必要であり、したがって暗殺目的で210Poを使用する人は、原子力発電所で生成した多量の210Poを入手できる環境に関われる、例えば国家機関に従事している人物に限られる事になる[8][4]。なお、体内に摂取された210Poの推定には、排泄物からのバイオアッセイが唯一の方法である[4]。また、わずかな量で致死量に達し、自己の熱で容易に揮発し、しかも検出が困難である性質は、テロリストが汚い爆弾として利用するには都合が良いため、セキュリティの強化が検討されている[14]

その他

漸近巨星分枝星の内部で発生する元素合成であるs過程において、210Poは出現する最も重い元素である。実質的な安定同位体である209Biが中性子捕獲をすることで210Biに変化し、それがベータ崩壊することによって210Poが生成されるが、s過程における中性子捕獲は速度が遅いため、210Poが更なる中性子捕獲によってより重い元素を生み出す前に、210Poがアルファ崩壊してしまう。ウランやトリウムのようなより重い元素を生み出すのは、超新星爆発で発生するr過程においてである[24]

脚注

注釈

  1. ^ ウランの地殻濃度は約2.4ppm
  2. ^ 210Poの原子量と半減期が既知のため、任意の質量あたりの放射能の値は計算が可能である。具体的には、1gの210Poは166兆Bqの放射能を持つ。詳しい計算はベクレルの項目を参照。
  3. ^ 天然ウランに含まれる234U235U238Uの1トンあたりの放射能はそれぞれ約230兆Bq、約800億Bq、約124億Bqであり、それらに同位体比をかければ合計の放射能が求まる。
  4. ^ ポロニウムの融点は254℃、沸点は962℃である。
  5. ^ いわゆる青酸カリ。

出典

  1. ^ a b c d 桜井弘『元素111の新知識 第2版』講談社、2009年、ISBN 978-4-06-257627-7
  2. ^ a b c d e f セオドア・グレイ『世界で一番美しい元素図鑑』創元社、2010年、 ISBN 978-4422420042
  3. ^ a b c d e The NUBASE evaluation of nuclear and decay properties National Nuclear Data Center Archived 2008年9月23日, at the Wayback Machine.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m 14.ポロニウム-210(210Po) 原子力資料情報室
  5. ^ a b Po Laboratoire National Henri Becquerel
  6. ^ a b c d John Emsley『元素の百科事典』丸善株式会社、2003年、 ISBN 4-621-07262-5
  7. ^ アルファ線イオナイザー IDEMA Japan
  8. ^ a b c d e Fact Sheet on Polonium-210 United States Nuclear Regulatory Commission
  9. ^ Radioisotope Power: A Key Technology for Deep Space Exploration cdn.intechopen.com
  10. ^ The Design of Gadget, Fat Man, and "Joe 1" (RDS-1) Cartage.org
  11. ^ Marie and Pierre Curie and the Discovery of Polonium and Radium Nobelprize.org
  12. ^ 12.セシウム-137(137Cs) 原子力資料情報室
  13. ^ 10.ヨウ素-131(131I) 原子力資料情報室
  14. ^ a b Regulators Study Tighter Controls on Polonium 210、2006年12月10日、New York Times
  15. ^ Radioactive Smoke Brianna Rego
  16. ^ 210Po and 210Pb inhalation by cigarette smoking in Italy. National Center for Biotechnology Information
  17. ^ 岩岡和輝, 米原英典、喫煙者の実効線量評価-タバコに含まれる自然起源放射性核種- 『RADIOISOTOPES』 2010年 59巻 12号 p.733-739, doi:10.3769/radioisotopes.59.733
  18. ^ 細井義夫. “ポロニウム210による内部被ばく(日本人の自然放射線による年間実効線が変更された主な理由について)” (PDF). 2014年8月26日閲覧。
  19. ^ SUGIYAMA Hideo (2009-08). “Internal exposure to 210Po and 40K from ingestion of cooked daily foodstuffs for adults in Japanese cities”. Journal of toxicological sciences (日本毒性学会) 34 (4): 417-425. NAID 110007359657. 
  20. ^ 森本隆夫、長岡和則、真田哲也、太田智子、佐藤兼章 (2005-12). “日本人一人あたりの年実効線量に係る新たな知見―放射能濃度の分析結果等から線量を計算―”. 第47回環境放射能調査研究成果論文抄録集(平成16年度) (文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課防災環境対策室): 99-103. http://www.kankyo-hoshano.go.jp/08/ers_lib/ers_abs47.pdf. 
  21. ^ 故アラファト議長「毒殺」で使用? ポロニウムとは、AFP BB News、2012年7月6日
  22. ^ 毒殺疑惑で捜査、アラファト氏遺体からサンプル採取、AFP BB News、2012年11月27日
  23. ^ アラファト氏毒殺説で遺体掘り出し 死因鑑定へ、CNN.co.jp、2012年11月27日
  24. ^ S-process nucleosynthesis Max-Planck-Institut

関連項目


軽量
209Po
ポロニウム210は
ポロニウム同位体である
重量
211Po
210mPo (IT)
210Bi (β-)
214Rn (α)
210At (β+)

崩壊生成物
ポロニウム210
崩壊系列
206Pb (α)
206m2Pb (α)

崩壊


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