馬蝗絆とは? わかりやすく解説

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馬蝗絆

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/07 16:25 UTC 版)

鎹継ぎによる修復

馬蝗絆(ばこうはん、中国語: 锔瓷)とは、金属製の(かすがい)によって割れた陶器をつなぎ留めた茶碗である[1]

名前

修復に使う鉄釘が「馬蝗」に似ていることから、日本では「馬蝗絆」と呼ばれた[2]。なお「馬蝗」の意味については諸説があり、「馬蝗絆」(青磁茶碗、重要文化財)を所蔵する東京国立博物館は「蝗(いなご)」とみるのに対し、台湾の国立故宮博物院は「馬蝗は(俗称)水蛭/ヒル」であるという(同院所蔵の国宝「古木流泉」の解説)[3]

修復技術

中国では、锔瓷以外にも「钉钉」[4]あるいは「骨路」[5]など様々な呼び名がある。

中国の明時代には確立されていたとされる[6]が、同様の技術は古代ギリシアの修復技術英語版にも見られる。

日本においても、鎹継ぎ[7][8]、鎹止め[9][10]、鎹直し[11][12]などの多くの名称が見られる。

歴史

江戸時代の儒学者である伊藤東涯の『馬蝗絆茶甌記』によると、足利義政がひび割れてしまった茶器に代わるものがないか中国で探させたが、代わるものがなく、ひび割れた茶器をによって修復して返却されたとある[2][1]

その後に発展する金継ぎとも縁が深い技術である[13]

なお東京国立博物館は現在、「馬蝗」を蝗(いなご)と解釈しているが[1]、これは誤訳の可能性が高く、再考の余地がある。

「馬蝗」は、「馬蝗描」・「馬蝗弩」のような熟語を形成し、ヒルに似た形状の比喩によく使われている語である。台湾の国立故宮博物院は、「馬蝗」は水蛭の別名(俗名)で、宋時代の馬和之の「古木流泉」(同院所蔵、国宝)はその描線がヒルに似ていることから「馬蝗描」と呼ばれたという[3]。また元時代の『酷寒亭』では、「ぴったりくっついて離れない」という比喩として使われている[14]

水蛭は大昔から薬として広く使われており、馬蝗より螞蟥と記されることの方が多いため、これを理解している近年の学術論文では、東涯の『馬蝗絆茶甌記』を紹介する時に、「螞蟥のようなので、日本人は“馬蝗絆”とよんだ」と説明するものがある[15]。東涯が鉄釘をみて思い浮かべたのは、ヒルであろう[16][17]

出典

  1. ^ a b c 東京国立博物館 -トーハク-. “東京国立博物館”. www.tnm.jp. 2025年2月5日閲覧。
  2. ^ a b 青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆 文化遺産オンライン”. bunka.nii.ac.jp. 2025年2月5日閲覧。
  3. ^ a b 宋 馬和之 古木流泉”. 国立故宮博物院. 2025年2月5日閲覧。
  4. ^ 太平御览·杂物部二》:「楊龍驤《洛陽記》曰:石牛一頭,在城西北九重里。耆舊傳說:往者石虎當襄國,石牛夜喚,聲三十里。事奏虎,虎遣人打落牛兩耳及尾,以鐵釘釘四腳,今現存。」
  5. ^ 老學庵續筆記》:「市井中有補治故銅鐵器者,謂之『骨路』,莫曉何義。《春秋正義》曰:『《說文》云:「錮,塞也。」鐵器穿穴者,鑄鐵以塞之,使不漏。禁人使不得仕宦,其事亦似之,謂之禁錮。』余案:『骨路』正是『錮』字反語。」
  6. ^ 神戸新聞NEXT|連載・特集|骨董漫遊|【38】鎹(かすがい) その一 「馬蝗絆(ばこうはん)」の修理法に迫る”. www.kobe-np.co.jp. 2023年8月30日閲覧。
  7. ^ 矢部良明『角川日本陶磁大辞典』 出版社:角川書店 発行年:2002年 p.284
  8. ^ 加藤唐九郎『原色陶器大辞典』 出版社:淡交社 発行年:1990年 p.185
  9. ^ 『古今東西陶磁器の修理うけおいます』甲斐 美都里/著 中央公論新社 2002年 p.30
  10. ^ 学芸の小部屋 -戸栗美術館-”. www.toguri-museum.or.jp. 2025年1月26日閲覧。
  11. ^ 【39】鎹(かすがい) その二 愛着の器を直して使う文化” (Japanese). 神戸新聞NEXT (2021年6月7日). 2025年1月26日閲覧。
  12. ^ 【38】鎹(かすがい) その一 「馬蝗絆(ばこうはん)」の修理法に迫る” (Japanese). 神戸新聞NEXT (2021年5月31日). 2025年1月26日閲覧。
  13. ^ 中国で注目の修復工芸「金継ぎ」”. www.peoplechina.com.cn. 2023年8月30日閲覧。
  14. ^ 『酷寒亭』(鄭孔目風雪酷寒亭) 
  15. ^ 程忻怡 (2023年5月). “金缮工艺在当代首饰艺术中的应用研究”. 北京工業大学 碩士学位論文 (北京工業大学): p10. 
  16. ^ 岩田澄子「青磁茶碗・馬蝗絆の語義について」”. 茶の湯文化学会会報75号  (2012年12月18日). 2025年2月5日閲覧。
  17. ^ 岩田澄子『天目茶碗と日中茶文化研究』宮帯出版社、2016年、350-359頁。 

関連項目

  • 金継ぎ
  • 古代ギリシャ陶器の保存と修復英語版 - 古代においては、銅、鉛、青銅などの金属の鎹や膠などの接着剤による修復が行われていた。別の器から修理用の破片を流用することもあった。
  • セラミック製品の保存と修復英語版



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