飼育文化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 00:22 UTC 版)
キリギリスは古くから日本人によって観賞用に飼育されてきた歴史を持つ。古典『虫愛づる姫君』にも登場する(今日のコオロギとしてではなく、「バッタ」によく似た緑色の虫として)。 いわゆる「虫売り」という行商ビジネスは江戸時代中期に確立するが、キリギリスはスズムシ、マツムシと並ぶ彼ら「虫売り」の代表的商品の一つであった。当時、コオロギ科以外で唯一商品価値を持つ「鳴く虫」であったキリギリスは竹製のカゴ「ギスかご」に入れて販売されており、そのカゴが縁側や店先につるされてキリギリスが鳴き声を響かせるのは、江戸の夏の風物詩であった。時代は移り、カゴも竹製ではなくポリエステル製が多くなりはしたが、デパートや夜店でキリギリスが販売されるのは、1980年代初頭までよく見られた光景である。大きな河川敷や野原では、小銭稼ぎの「ギッチョ採りのおじさん」が21世紀に入った今でも時折見られる。 これらは江戸時代の文化というより江戸文化であり、現在でも昆虫マニア的動機付けではなく伝統的娯楽としてキリギリスを飼う風習が伝播継承されている地域は関東一円がおもであるという。従って、「ギスかご」に入れられ飼われてきたキリギリスは、ヒガシキリギリスということになる。 ただ、狭い「ギスかご」に入れてキュウリやナスだけ与えるという伝統的飼育手法は拙劣というべきで、それらの野菜に含まれる最低限の水分により短期間生存させておくに過ぎなかった。長期飼育技術において古くからより進歩していたのはむしろ中国であり、穀類や小昆虫といったタンパク源を与えて晩秋までコンスタントに生存させることができていた。 現在の日本では飼育技術も大幅に進歩し、プラスチック水槽を飼育ケースとし、野菜よりも穀類、イネ科草本の穂、観賞魚用のペレット、ドッグフード等を豊富に与え、飲み水も別途用意することで、長期間キリギリスを健康に生存させることが可能になっている。とりわけメスは延命効果が顕著で、飼育環境が良好であれば、正月を迎えることすらある。
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