霊長類研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/10 08:35 UTC 版)
「サラ・ブラファー・ハーディ」の記事における「霊長類研究」の解説
ハーディは1968年に人類学者アーヴェン・デュボアのもとで霊長類行動を学んでいるときに、ハヌマンラングールに興味を抱いた。ここで群れと子殺しの関係についてのデュボアの示唆は彼女の人生を大きく変えることになった。卒業後、ラングールの子殺しの研究を行うために大学院生としてハーバードに戻り、デュボアと進化生物学者ロバート・トリヴァースの元で働いた。彼らはハーディを1970年代のハーバードで結実しつつあった社会性の研究に関する新たな展望、いわゆる社会生物学の世界へ導いた。 ハーディは博士論文で群れの過密が子殺しの原因であるという仮説を検証した。彼女はインドのアブ山へ行き、ハヌマンラングールを研究し、群れの密度と子殺しは無関係という結論に達し、もしかすると進化的な戦略かも知れないと考えた。 外部からやってきたオスが群れのリーダーとなるとき、通常は全ての幼児を殺す。子殺しの習慣を持つオスは進化的に非常に有利であると解釈することができる。さらにハーディはメスのラングールを研究して、メスが保護を得るために対抗戦略を進化させたという証拠を発見した。リーダーの交代は平均して27ヶ月ごとに起こる。群れを引き継ぐオスは、自分の遺伝子を残す機会を持っているがそれは短い期間だけである。メスがすでに子を持っていれば、授乳中のメスは排卵しない。子を殺せば再びメスを交配可能な状態にすることができる。 メスは排卵と、子殺しをしたオスとの配偶の圧力のもとにおかれ、メスの選択は抑圧される。このような状態の時、メス側の対抗戦略の進化が予測される。ハーディは、オスは自身の血をひいている可能性がわずかでもある子は殺さないだろう(そのような行動は進化的に不利であろう)と考えた。そして可能な限り多くのオス、特にコロニー内に居住していない外部のオスと頻繁に配偶する母親は、彼らの子どもたちを守ることに成功するだろうと予測した。 トリヴァースが表現したように、それはオスたちに「父性の幻想」を与える事になる。雄ラングールの目標は(彼らはそれを意識していないだろうが)自分の子の数を最大化することである。ハーディによれば、自分の子を攻撃するオスは急速に淘汰されるだろう。霊長類では外見的には子殺しが見られるが、ハーディはヒトにおいては子殺しの遺伝的必然性の証拠を見つけていない。 1975年に、ラングールの調査によって博士号を取得した。この研究は1977年に『アブ山のラングール:オスとメスの繁殖戦略』として刊行された。彼女が人類学に巻き起こした論争は驚くに当たらない。霊長類が「群れの利益」のために働くという古典的な信念はうち捨てられ、社会生物学は多くの研究の支持を受けた。霊長類は「子殺しの遺伝子」を持っていると示唆した、と多くの人が誤解した仮定を行った。今日ではハーディの見解は広く受け入れられている。トリヴァースのように、この主張は不合理だとして一度は退けた人でさえ、彼女のメスの繁殖戦略の理論は「(多くの批判に)よく持ちこたえた」と認めている。
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