軌道と等方部分群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/22 20:14 UTC 版)
群 G が集合 X に作用しているとき、X の点 x の軌道 (orbit) とは、G の各元を x に作用させた要素の集合である。x の軌道を Gx で表せば、 G x = { g x ∣ g ∈ G } {\displaystyle Gx=\left\{gx\mid g\in G\right\}} と書くことができる。群の性質から、X における(各点の)G の作用に関する軌道全体の成す集合が X の類別を与えることが保証される。この類別に対応する同値関係 ∼ は「x ∼ y となる必要十分条件は gx = y となる g ∈ G が存在すること」として得られる。軌道はこの同値関係に関する同値類であり、二つの元 x, y が同値であることは、それらが属する軌道が一致 (Gx = Gy) することとして述べることもできる。 G の作用に関する X の軌道全体の成す集合は X/G(あるいは多少稀だが G ⧵X)で表され、G の作用による X の商 (quotient) とも呼ばれる。幾何学的な設定では軌道空間 (orbit space) とも、代数的な設定では余不変式 (coinvariant) の空間とも呼ばれ、XG で表される(これに対して不変式(不動点)の全体は XG で表される。余不変式の全体が「商」なのに対し、不変式の全体は「部分集合」となる)。余不変式の概念と記法は特に群コホモロジーと群ホモロジー(これも同様の添字の上付き・下付きで区別する慣習がある)で用いられる。 X の部分集合 Y に対し、 G Y := { g y ∣ y ∈ Y , g ∈ G } {\displaystyle GY:=\{gy\mid y\in Y,\,g\in G\}} とする。部分集合 Y が G の作用に関して安定あるいは不変 (invariant) であるとは、GY = Y(これは GY ⊆ Y としても同じ)が成り立つことを言う。このとき、G は Y にも作用している。また、部分集合 Y が G の作用で固定される (fixed) あるいは G が自明に作用するとは、G の各元 g と Y の各元 y に対して gy = y が成立することを言う。G の作用で固定される任意の部分群は G-不変だが、逆は正しくない。 任意の軌道は、G が推移的に作用する X の G-不変部分集合である。G の X への作用が推移的であるための必要十分条件は、全ての元が同値、すなわち軌道がただ一つであることである。 X の各元 x に対して、x の安定化部分群あるいは固定部分群 (stabilizer subgroup)、等方部分群 (isotropy group) もしくは小群 (little group) などと呼ばれる G の部分群を、x を固定する G の元全体の成す集合 G x = { g ∈ G ∣ g x = x } {\displaystyle G_{x}=\{g\in G\mid gx=x\}} によって定める。これは G の部分群だが、大抵は正規部分群でない。G の X への作用が自由であるための必要十分条件は、任意の固定部分群が自明であることである。群準同型 G → Sym(X) の核 N は、X の全ての元 x に関する固定部分群 Gx の交わりによって与えられる。 軌道と固定部分群は近い関係にある。X の元 x を一つ固定して、写像 G → X ; g ↦ g x {\displaystyle G\to X;\quad g\mapsto gx} を考える。この写像の像は x の属する軌道であり、余像は Gx の左剰余類全体の成す集合である。集合論における標準商定理により、 G /Gx と Gx との間には自然な全単射が存在する。具体的にはこの全単射は hGx と hx との対応によって与えられる。このことは、軌道・固定群定理 (orbit-stabilizer theorem) として知られる。 G と X が共に有限ならば、軌道・固定群定理とラグランジュの定理から | G x | = [ G : G x ] = | G | / | G x | {\displaystyle |Gx|=[G:G_{x}]=|G|/|G_{x}|} が得られる。この結果はそれぞれの対象を数えることができるという点で特に有用である。 二つの元 x および y が同じ軌道に属すならば、それらの固定部分群 Gx および Gy は互いに共軛であり、特に同型であることに注意。より詳しく、 Ggx = gGxg−1 が成立する。このように、互いに共軛な固定部分群を持つ点は、同じ軌道型 (orbit-type) を持つという。 軌道・固定群定理に近い関係のある結果にバーンサイドの補題 | X / G | = 1 | G | ∑ g ∈ G | X g | {\displaystyle \left|X/G\right|={\frac {1}{\left|G\right|}}\sum _{g\in G}\left|X^{g}\right|} がある。ここで Xg は g によって固定される X の元全体の成す集合である。この結果は主に G と X が有限であるときに用いられ、軌道の総数は群の元ごとの不動点の数の平均に等しいことを示すものと解釈される。 有限 G-集合の形式差 (formal difference) 全体の成す集合は、非交和を加法、直積を乗法として、バーンサイド環と呼ばれる環を成す。 X の G-不変元 (invariant element) とは、G の全ての元に対して常に gx = x となるような X の元 x のことをいう。X の G-不変元の全体を XG で表して、X の G-不変部分集合と呼ぶ。X が G-加群であるときは、XG は G の X に係数を持つ 0-次群コホモロジー群であり、高次のコホモロジー群は G-不変部分集合をとる函手の導来函手となる。
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