超冪による構成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 06:18 UTC 版)
実数列から超実数体が構成できることを見てゆこう。次のようにして、実数列の加法と乗法を定義する: ( a 0 , a 1 , a 2 , … ) + ( b 0 , b 1 , b 2 , … ) = ( a 0 + b 0 , a 1 + b 1 , a 2 + b 2 , … ) {\displaystyle (a_{0},a_{1},a_{2},\ldots )+(b_{0},b_{1},b_{2},\ldots )=(a_{0}+b_{0},a_{1}+b_{1},a_{2}+b_{2},\ldots )} ( a 0 , a 1 , a 2 , … ) ( b 0 , b 1 , b 2 , … ) = ( a 0 b 0 , a 1 b 1 , a 2 b 2 , … ) {\displaystyle (a_{0},a_{1},a_{2},\ldots )(b_{0},b_{1},b_{2},\ldots )=(a_{0}b_{0},a_{1}b_{1},a_{2}b_{2},\ldots )} これにより、実数列全体の成す集合は可換環(実際には実多元環)A を成す。実数 r と数列 (r, r, r, ...) を同一視することによって、R の A への自然な埋め込みが存在する。この同一視は実数の代数的演算を保存する。直感的な動機は、例えば、ゼロに収束するような数列を用いて無限小超実数を表したいということである。そのような数列の逆元が無限大超実数を表すことになるだろう。以下で見るように、幾ばくかの恣意性が避けられないものの、self-consistent であり、well defined でなければならない点において数列の比較の規則を定義する必要性から困難が生ずる。例えば、はじめの n 項のみが違い、残りはすべて同一な 2 つの数列は等しい、つまり、それらの数列は明らかに同一の超実数であると考えられるべきなのである。同様に、ε はある無限小超実数として 7 + ε を考えるように、永遠にランダムに振動するような多くの数列についても、これを解釈する方法を見つけなければならない。 実数列の比較を定義するのはデリケートな問題である。例えば、加法や乗法と同じように次のように定義したとしても、すぐに問題が生じる。 ( a 0 , a 1 , a 2 , … ) ≤ ( b 0 , b 1 , b 2 , … ) ⟺ a 0 ≤ b 0 ∧ a 1 ≤ b 1 ∧ a 2 ≤ b 2 … {\displaystyle (a_{0},a_{1},a_{2},\ldots )\leq (b_{0},b_{1},b_{2},\ldots )\iff a_{0}\leq b_{0}\wedge a_{1}\leq b_{1}\wedge a_{2}\leq b_{2}\ldots } それは、前者の数列のいくつかの項が、後者の数列の対応する項より大きく、それ以外のの項が小さいということがありうるからだ。従って、この方法によって定義される関係は、半順序である。これを回避するには、位置の問題を明示しなければならない。数列には無限の項(添字)が存在するから、有限個の項についてそれを問題にしたくない。問題となる添字集合の一貫した選択は、自然数上の任意の自由超フィルター U によって与えられる。自由超フィルターとは有限集合を含まない超フィルターのことである(それの良い点は、ツォルンの補題よりそのような多くの U が存在することである。悪い点は、それが明示的に構成されえないということである)。「問題」となる添字集合を一つ選び出すような、U を考えよう。つまり、 ( a 0 , a 1 , a 2 , . . . ) ≤ ( b 0 , b 1 , b 2 , . . . ) ⇔ { n ∣ a n ≤ b n } ∈ U {\displaystyle (a_{0},a_{1},a_{2},...)\leq (b_{0},b_{1},b_{2},...)\Leftrightarrow \{n\mid a_{n}\leq b_{n}\}\in U} と定義しよう。 これは、total preoder であり、2 つの数列 a, b に対し、a ≤ b かつ b ≤ a であるとき、a と b を区別しないことを認めれば、これは全順序になる。この同一視により、超実数順序体 *R が構成される。代数的観点からみると、U によって対応する可換環 A の極大イデアル I(すなわち、U の元の幾つかが消えた数列の集合)を定義し、A/I を *R と定義できる。極大イデアルによる可換環の商として、*R は体である。それを自由超フィルター U を使って A/U と書くこともあり、それらは等しい。その I の極大性から、与えられた数列 a からその非ゼロ元の逆数をとって、ゼロ元はそのままにしてできた数列 b を作ることができる可能性が従う。それらの積 ab は、この場合は数 1 と同定され、1 を含む如何なるイデアルは A でなければならない。その結果の体において、a と b は互いに逆元である。 体 A/U は R の超冪である。この体は R を含むから、最低でも連続体濃度以上の濃度を持つ。A は ( 2 ℵ 0 ) ℵ 0 = 2 ℵ 0 2 = 2 ℵ 0 , {\displaystyle (2^{\aleph _{0}})^{\aleph _{0}}=2^{\aleph _{0}^{2}}=2^{\aleph _{0}},\,} という濃度以下でもあるから、A/U の濃度は連続体濃度に等しい。 ここで一つの疑問が出てくる。それは U とは違う自由超フィルター V を選んだら、その商 A/V は A/U に同型かどうかということだ。この疑問は、連続体仮説と同等であるということがわかっている。ZFC と連続体仮説を仮定したうえで、これらの体は順序同型で一意的であるということが証明できる。ZFC と連続体仮説の否定を仮定したうえで、それぞれ可算に添字付けられた実数の超冪で、順序非同型な体のペアが存在することを証明できる。 構成の詳細な説明は超積を参照せよ。
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