責任を否定したもの
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 19:08 UTC 版)
下級裁判所においても名目的取締役であることを理由に第三者に対する責任を免れないとして責任を認めた裁判例も多くある。しかし、上記最高裁判所の判例が名目的取締役の影響力によっては監視義務違反に問われないとも考えられることもあって、その後も下級裁判所においては個々の事情に応じて悪意・重過失や相当因果関係を否定するなどして名目的取締役の第三者に対する責任を免責する傾向にあった。上記最高裁判所の判決後に名目的取締役の第三者に対する責任を否定した主な裁判例としては以下がある。 トラック運転手として他社で勤務する名目的取締役(代表取締役の実兄)について、悪意・重過失がないとして責任を否定。(福井地方裁判所1980年(昭和55年)12月25日判決、判例時報1011号116頁)。 個人営業に近いワンマン会社であり、名目的取締役が監視義務を果たし阻止できる状況ではなかったため、重過失がないとして責任を否定。(東京高等裁判所1981年(昭和56年)9月28日判決、判例時報1021号131頁。) 名目的取締役には事実上の影響力がなく、取締役としての職務を果たすことは不可能であったため、重過失がないとして責任を否定。(浦和地方裁判所1983年(昭和58年)6月29日判決、判例時報1087号130頁。) 代表取締役のワンマン会社において、仮に取締役会の開催を要求しても受け入れられたとは考えられないなど名目的取締役が代表取締役の違法行為を阻止することは困難であったため、相当因果関係がないとして責任を否定。(大阪地方裁判所1984年(昭和59年)8月17日判決、判例タイムズ541号242頁。) 仮に名目的取締役が粉飾決算を阻止しようとしても阻止できたとは考えられないため、相当因果関係がないとして責任を否定。(大阪地方裁判所1985年(昭和60年)4月30日判決、判例時報1162号163頁。) 夫の個人営業に近い状態で、妻である名目的取締役に取締役としての職務を遂行することを期待するのは困難であり、悪意・重過失がないとして責任を否定。(仙台高等裁判所1988年(昭和63年)5月26日判決、判例時報1286号143頁。) 全くの名目的取締役であったため第三者への加害は予測できず、悪意・重過失がないとして責任を否定。(東京地方裁判所1991年(平成3年)2月27日判決、判例時報1398号119頁。) 代表取締役のワンマン会社で、取締役として扱われたこともない名目的取締役が第三者に対する加害を予知したり代表取締役の違法な抵当証券商法を辞めさせることは困難であり、悪意・重過失あるいは相当因果関係がないとして責任を否定。(東京地方裁判所1994年(平成6年)7月25日判決、判例時報1509号31頁。) 有限会社で、仮に名目的取締役が是正を勧告していたとしても聞き入れられたとは考えられず、相当因果関係がないとして責任を否定。(東京地方裁判所1996年(平成8年)6月19日判決、判例タイムズ942号227頁。)
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