自動巻腕時計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 04:41 UTC 版)
自動巻腕時計(Automatic watch)とは、時計内部に半円形の錘(ローター)が組み込まれており、装着者が腕を振ることにより錘が回転し動力のぜんまいを巻き上げるものである。錘を仕込んだ自動巻機構自体は懐中時計用としてスイスのアブラアン=ルイ・ペルレ(英語版)により1770年ごろに発案されていたが、ポケットに収まった安定状態で持ち運ばれる懐中時計よりも、手首で振られて慣性の働きやすい腕時計によりなじむ技術であった。それに対してブレゲは振り子による自動巻き「ペルペチュエル」を開発したが、構造が複雑だったため一般には普及せず、19世紀の懐中時計のほとんどは鍵巻きおよび、パテック・フィリップの創始者の一人であるアドリアン・フィリップ(英語版)が1842年に発明した竜頭による手巻きであった。 最初の実用的な自動巻腕時計となったのはイギリスのジョン・ハーウッド(英語版)が開発した半回転ローター式(ローターの片方向回転時のみでぜんまいを巻き上げる)で、1926年にスイスのフォルティスから発売された。続いてより効率に優れる全回転式ローター自動巻(ローターの回転方向を問わず歯車機構の組み合わせで一定方向の回転力を取り出し、ぜんまいを巻き上げられる)がスイスのロレックスで1931年に開発され、同社は「パーペチュアル」の名で市販、オイスターケースと呼ばれる防水機構とともにロレックスの名を広めた。 初期のロレックス自動巻に代表される手法の弱点は、ローターの存在する分、手巻式ムーブメントに比して厚手でかさばってしまうことで、主要な時計メーカーは自動巻ムーブメントの改良過程で、薄型化と簡略化、効率良い動力の取り出し方を試行錯誤した。片方向回転式や、オメガの一部機種のようにローターの回転幅を制限した過渡的なモデルなども見られたが、1950年代以降は大幅に薄型化された両方向全回転式ローターの自動巻が本命となって普及、現在の自動巻腕時計では全回転ローター式が一般化している。また、ローターの形状もペルレの時代の半円状から、外周部に金などの重金属を使用したり中抜きした形状にするなどして回転効率を向上させている。 自動巻腕時計の多くは竜頭を用いてぜんまいを手巻きすることもできるが、構造を簡素化する目的で自動巻専用としたものもある。自動巻は装着されている間ぜんまいの力が適度な程度に蓄えられ、手巻き式に比べて精度が高くなる傾向がある。身に付けていない場合にはワインディングマシーンにセットしておくことでぜんまいを巻き上げておけるため、機械式腕時計の収集家がその種の装置を用いる例が見られる。
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