置換の積と逆置換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 13:51 UTC 版)
詳細は「対称群」を参照 二つの置換の積は、それらの写像としての合成によって与えられる。つまり、σπ は与えられた集合の各元 x を σ(π(x)) へ写す。ここで注意すべきは、写像の記法に従って書いているため、一番右にある置換が最初に引数に適用されるということである。文献によっては、一番左の因子を最初に作用させる代わりに、置換をその引数の「右側」に書くものもある。例えば、冪記法を用いて、σ が x に作用することを xσ で書けば、積は xσπ = (xσ)π によって定められる。それでも、これらは置換の乗法に関して「異なる」規則を与えるものであるから、本項では写像の記法に従って一番右の因子から適用する流儀に従うものとする。 二つの全単射の合成は再び全単射を与えるから、二つの置換の積は再び置換を与える。写像の合成は結合的であるから、置換の積に関してもそうで、 (σπ)ρ = σ(πρ) が任意の置換に関して成立する。これにより、二つより多くの置換の積において、積の順番を表すグループ化の括弧を書かないのが普通である。また、中黒などの乗法を指し示す記号も、省略するのが通例である。 集合の各元をそれ自身に写す恒等置換は、この置換の積に関する単位元である。二行記法で言えば、この単位元は [ 1 2 3 ⋯ n 1 2 3 ⋯ n ] {\displaystyle {\begin{bmatrix}1&2&3&\cdots &n\\1&2&3&\cdots &n\end{bmatrix}}} である。 全単射は逆写像を持つから、置換もそうで、σ の逆元 σ−1 は再び置換になる。陽に書けば、σ(x) = y なる限り σ−1(y) = x が成り立つ。二行記法で逆置換を得るには、二つの行を入れ替えればよい(必要なら入れ替えた後列を並べ替えて一行目が与えられた順番になるようにする)。例えば、 [ 1 2 3 4 5 2 5 4 3 1 ] − 1 = [ 2 5 4 3 1 1 2 3 4 5 ] = [ 1 2 3 4 5 5 1 4 3 2 ] {\displaystyle {\begin{bmatrix}1&2&3&4&5\\2&5&4&3&1\end{bmatrix}}^{-1}={\begin{bmatrix}2&5&4&3&1\\1&2&3&4&5\end{bmatrix}}={\begin{bmatrix}1&2&3&4&5\\5&1&4&3&2\end{bmatrix}}} である。巡回置換表示で逆置換を得るには、現れる巡回置換において元を逆順に並べなおせば、それがそのまま逆置換の巡回置換表示になる。 積が結合的で、単位元を持ち、任意の元が逆元を持つということから、S 上の置換全体の成す集合は群となり、S の対称群と呼ばれる。 有限集合上の任意の置換は互換の積に表すことができる。与えられた置換に対してそのような表示は無数に存在するけれども、それらの表示の中に現れる互換の数の偶奇は表示によらない。これにより、任意の置換は偶置換または奇置換に分類することができる。 置換の乗法を置換の巡回置換表現のもとで書くための平易なパターンというものは存在せず、積の巡回置換表示に現れる巡回置換は、積を取る個々の置換に現れる巡回置換とは全く異なるものになってしまう。しかし、置換 σ に対して別の置換 π による共軛変換を取る、つまり積 πσπ−1 を作る特別の場合においては、巡回置換構造が保たれる。共軛変換で得られた置換の巡回置換表示は、σ の巡回置換表示に現れる各成分に π を施したものとして与えられる。 集合 {1, 2, …, n} 上の置換を n 次正方行列として表すこともできる。これを行うのに自然な方法は二種類あるが、行列の積が置換の積に同じ順番で対応するのはそのうちの一方だけである。このとき、置換 σ には i = σ(j) のとき mi j = 1 でそれ以外のとき mi j = 0 となるような行列 M = [mi j ] が対応し、σ に対応する置換行列と呼ばれる。
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