積分の絶対収束
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 07:17 UTC 版)
実数値または複素数値関数の、A ⊂ R (or C) における定積分 ∫ A f ( x ) d x {\textstyle \int _{A}f(x)\,dx} は、 ∫ A | f ( x ) | d x < ∞ {\textstyle \int _{A}\left|f(x)\right|\,dx<\infty } となるとき「絶対収束する」と言う。またこのとき f は絶対可積分と言う。 A = [ a , b ] {\textstyle A=[a,b]} を有界閉区間とすると、A 上のすべての連続関数は可積分であり、f が連続ならば|f|も連続だから、有界閉区間上のすべての連続関数は絶対可積分である。 しかし、 [ a , b ] {\textstyle [a,b]} 上の絶対可積分関数は可積分である、ということは一般にはいえない。それは次のような例を考えればわかる: S ⊂ [ a , b ] {\textstyle S\subset [a,b]} はルベーグの意味で非可測な部分集合とし、 χ S {\textstyle \chi _{S}} を S の定義関数とする。 f := χ S − 1 2 {\textstyle f:=\chi _{S}-{\frac {1}{2}}} はルベーグ可測ではないが、|f|は定数関数であり、したがって可測関数であり可積分。 標準的な結果としては、f がリーマン可積分(またはルベーグ可積分)なら |f| も同様である、といえる。 一方で、関数fがヘンストック・カーツヴァイル積分 (Henstock–Kurzweil integra)またはゲージ積分可能であったとしても、|f|がそうであるとは限らない。これは広義リーマン可積分関数の例を含んでいる。同じ様に A が長さ無限の区間であるとき、絶対可積分でないような広義リーマン可積分関数が存在することはよく知られている。 実際のところ、任意の級数 ∑ n = 0 ∞ a n {\textstyle \sum _{n=0}^{\infty }a_{n}} が与えられたとき、 f a ( [ n , n + 1 ) ) = a n {\textstyle f_{a}([n,n+1))=a_{n}} で定義される階段関数 f a : [ 0 , ∞ ) → R {\textstyle f_{a}\colon [0,\infty )\rightarrow \mathbb {R} } を考えることが出来る。このとき、 ∫ 0 ∞ f a d x {\textstyle \int _{0}^{\infty }f_{a}dx} は、対応する ∑ n = 0 ∞ a n {\textstyle \sum _{n=0}^{\infty }a_{n}} の収束性に応じて絶対収束、条件収束、あるいは発散する。 他にも、収束するが絶対収束しない広義リーマン積分の例として、 ∫ R sin x x d x {\textstyle \int _{\mathbb {R} }{\frac {\sin x}{x}}dx} がある。 任意の可測空間 A において、実数値関数のルベーグ積分は正部分、負部分によって定義される。そこで、次の事実 f が可積分なら |f| も可積分。 f が可測なら |f| の可積分性から f の可積分性が導かれる。 は本質的にルベーグ積分の定義に組み込まれている。特にルベーグ積分論を集合 S 上の可算測度に応用することで、ムーア (E. H. Moore) とスミス (Herman L. Smith) によりネットを使って構成された級数の非順序和の概念を再構築できる。 S = N {\textstyle S=\mathbb {N} } が自然数の集合のとき、ルベーグ可積分性と級数の非順序和可能性(無条件収束性)と絶対収束性は同値な概念になる。数え上げ測度も参照のこと。 最後に、これらのすべてはバナッハ空間に値を持つ積分に対しても成り立つ。バナッハ空間に値を持つリーマン積分の定義は普通の積分の自然な拡張である。ルベーグ積分の拡張は、ダニエル (Percy John Daniell) の関数解析的方法にともなう正値部分と負値部分への分解を回避するために絶対収束性が必要であり、ボホナー積分になる。
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