私人所有権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/05 22:03 UTC 版)
「中華人民共和国物権法」の記事における「私人所有権」の解説
本法が定める第三の所有権は「私人所有権」である。この「私人所有権」の「私人」とは誰を指すのかにつき、法は定義を行っていない。複数存在した草案においては、「公民所有権」、「個人財産」「個人財産所有権」等の文言が登場し、これらの草案においては、まさに市民の個人財産に対する所有権を認めることは明白である。本法が採用した「私人」という用語が、国家および集団との対比で使われていることも明白である。だとすれば国家と集団以外の主体が「私人」ということになるのか、が問題となる。市場経済が広がる以前の中国企業はほとんどが国有か集団所有であった。この時代にはこれらの企業財産は、国有、集団所有と考えられ、これらがまさに公有制を構成していた。今日、国が出資して設立した国有企業ないし国が支配株をもつ株式会社も、国庫とは区分された独立した法人とみなされている。しかし、個々の企業を構成する不動産、動産や知的財産などの諸財産は、法人自身に帰属するはずである。第68条が「企業法人はその不動産及び動産に対して、法律、行政法規及び定款に従い占有、使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定するとおりである。問題は、この「権利」と「私人所有権」との関係であり、それが所有権なのかどうかである。この点は逐条解説書や教科書類をみてもはっきりとした答えが見いだせず、敢えて明言を避けているかのようである。問題は、公有制を国有と集団所有からなると説明することと、経済の実態がすでに国庫とは区分された法人としての会社を主体とするものになっていることとの矛盾に起因するからと説明される。国が出資者であっても、それと独立した法人格をもつ会社を組織した以上、市場という「場」において、それはもはや「公」ではありえず、「私」に他ならない。しかし、中国の政治体制はこの市場の道理を正面から承認することができないのであり、社会主義と市場経済のカップリングを論理的に整合させることの困難の象徴である。
※この「私人所有権」の解説は、「中華人民共和国物権法」の解説の一部です。
「私人所有権」を含む「中華人民共和国物権法」の記事については、「中華人民共和国物権法」の概要を参照ください。
- 私人所有権のページへのリンク