硫酸銀(I)とは? わかりやすく解説

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硫酸銀(I)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/26 09:03 UTC 版)

硫酸銀(I)
物質名
識別情報
ECHA InfoCard 100.030.581
CompTox Dashboard (EPA)
性質
Ag2SO4
モル質量 311.79 g·mol−1
外観 無色の固体
匂い 無臭
密度 5.45 g/cm3 (25 °C)
4.84 g/cm3 (660 °C)[1]
融点 652.2–660 °C (1,206.0–1,220.0 °F; 925.4–933.1 K)[1][5]
沸点 1,085 °C (1,985 °F; 1,358 K)[3][5] 分解
0.57 g/100 mL (0 °C)
0.69 g/100 mL (10 °C)
0.83 g/100 mL (25 °C)
0.96 g/100 mL (40 °C)
1.33 g/100 mL (100 °C)[2]
溶解度平衡 Ksp 1.2·10−5[1]
溶解度 酸水溶液、アルコール類、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エステル、アミド類に溶ける。[2]
エタノールに溶けない。[3]
硫酸への溶解度 8.4498 g/L (0.1 molH2SO4/LH2O)[2]
25.44 g/100 g (13 °C)
31.56 g/100 g (24.5 °C)
127.01 g/100 g (96 °C)[3]
エタノールへの溶解度 7.109 g/L (0.5 nEtOH/H2O)[2]
酢酸への溶解度 7.857 g/L (0.5 nAcOH/H2O)[2]
磁化率 −9.29·10−5 cm3/mol[1]
屈折率 (nD) nα = 1.756
nβ = 1.775
nγ = 1.782[4]
構造
正方晶系, oF56[4]
Fddd, No. 70[4]
2/m 2/m 2/m[4]
a = 10.2699(5) Å, b = 12.7069(7) Å, c = 5.8181(3) Å[4]
α = 90°, β = 90°, γ = 90°
熱化学
標準定圧モル比熱, Cp 131.4 J/mol·K[1]
標準モルエントロピー S 200.4 J/mol·K [1]
標準生成熱 fH298)
−715.9 kJ/mol[1]
−618.4 kJ/mol [1]
危険性
GHS表示:
[6]
Danger
H318, H410[6]
P273, P280, P305+P351+P338, P501[6]
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
[5]
Health 2: Intense or continued but not chronic exposure could cause temporary incapacitation or possible residual injury. E.g. chloroformFlammability 0: Will not burn. E.g. waterInstability 1: Normally stable, but can become unstable at elevated temperatures and pressures. E.g. calciumSpecial hazards (white): no code
2
0
1
関連する物質
関連物質 硝酸銀(I)
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。

硫酸銀(I)(りゅうさんぎん いち、: silver(I) sulfate)は、化学式が Ag2SO4 と表される1価の硫酸塩である。斜方晶の無色結晶であり、面心立方格子構造を取る[7][4]や空気にさらされることにより黒ずむ[8]が、普通に取り扱う範囲では安定な物質である[9]にはわずか (0.796 g/100 ml) に溶ける[9]

製法

銀を酸化作用のある熱濃硫酸に溶解し、溶液を水で希釈すると結晶が沈殿する[10]

硝酸銀(I)水溶液に、希硫酸または硫酸塩水溶液を加えると、細かい結晶が沈殿する[11]。硫酸銀(I)は商業的にもこの方法で硝酸銀(I)を原料に製造されており、水性沈殿法と呼ばれる[12]

また、硫化銀(I)を空気中、1085度以下で焼成することによっても得ることができる[13]

性質

無色の細かい結晶であり、純度の低いものは光により黒化しやすい。水に対する溶解度は小さいが温水への溶解度は高く、硫酸あるいは硝酸では硫酸水素塩を生じ、アンモニア水にはアンミン錯体を形成して溶解する。この硫酸水素銀は、加水分解によって容易に硫酸銀に戻る[8][14]

水に対する溶解度積は以下の通りである[15]

 

用途

硫酸銀(I)は溶解度が中程度の銀供給源として合成試薬や触媒、写真、抗菌材料など様々な用途に用いられる[12]。例えば、ポリスチレンスルホン化する際の反応触媒や[16]、銀の抗菌性を利用した創傷被覆材[17][18]、硫酸銀が光に晒されると黒変することを利用した白髪染め[19]などに用いられている。

銀精錬の古典的な手法として、粗銀中に不純物として含まれるから銀を分離抽出するために硫酸銀(I)の硫酸への溶解性が利用されていた。すなわち、金などの貴金属は硫酸と反応しないため濃硫酸には溶解せず、銅は硫酸と反応して硫酸銅(II)になるものの硫酸銅(II)の硫酸への溶解度が極めて低いため、銀のみが硫酸銀となって濃硫酸に溶解することで分離抽出される[20]

化学分析においては、化学的酸素要求量(COD)を分析する際に妨害元素となる塩素マスキングするためのイオン源として用いられる。これは、硫酸銀(I)中の銀イオンが塩素と反応して不溶性の塩化銀(I)となることを利用したものである。また、塩素の除去に使用されずに残存した過剰の銀イオンは、COD成分の分解に対して触媒的な作用を示しCOD成分の酸化を促進することが知られている[21][22]

銀メッキには通常、シアン化銀が利用されるが、毒性の強いシアンを使わない銀メッキ浴として、硫酸銀を利用した銀メッキ法が研究されている。しかしながら、硫酸銀ではまだシアン化銀浴ほどの質の高いメッキ層を形成できていない[23]

毒性および規制

硫酸銀(I)に対する有害性はデータがほとんどないが、硫酸塩であることに起因して皮膚気道に対する刺激性があるのではないかと疑われている。また、硫酸銀(I)そのものに対する報告ではないものの、銀化合物に共通する有害性として、長期間の暴露によって銀皮症が引き起こされることが報告されている。水生生物に対しては非常に強い毒性を示す[9][24]

水生生物に対する毒性からGHSにおいて水生環境有害性(急性および慢性)の区分1に分類されており、環境への放出を避けることが勧告されている[24]。また、日本の法令では毒物及び劇物取締法により無機銀塩類として劇物に指定されている[9]

出典

  1. ^ a b c d e f g h Lide, David R., ed (2009). CRC Handbook of Chemistry and Physics (90th ed.). Boca Raton, Florida: CRC Press. ISBN 978-1-4200-9084-0 
  2. ^ a b c d e Seidell, Atherton; Linke, William F. (1919). Solubilities of Inorganic and Organic Compounds (2nd ed.). New York: D. Van Nostrand Company. pp. 622–623. https://archive.org/details/solubilitiesino01seidgoog 
  3. ^ a b c Anatolievich, Kiper Ruslan. “silver sulfate”. 2014年7月19日閲覧。
  4. ^ a b c d e f Morris, Marlene C.; McMurdie, Howard F.; Evans, Eloise H.; Paretzkin, Boris; Groot, Johan H. de; Hubbard, Camden R.; Carmel, Simon J. (June 1976). “13”. Standard X-ray Diffraction Powder Patterns. 25. Washington: Institute for Materials Research National Bureau of Standards 
  5. ^ a b c MSDS of Silver sulfate”. Fisher Scientific, Inc. 2014年7月19日閲覧。
  6. ^ a b c Sigma-Aldrich Co., Silver sulfate. Retrieved on 2014-07-19.
  7. ^ 千谷 (1959) 171頁。
  8. ^ a b 化学大辞典編集委員会(編) 編『化学大辞典』 9巻(縮刷版第26版)、共立、1981年10月、701頁頁。 
  9. ^ a b c d 安全データシート 硫酸銀”. 職場のあんぜんサイト. 厚生労働省. 2016年4月3日閲覧。
  10. ^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
  11. ^ 日本化学会編 『新実験化学講座 無機化合物の合成II』 丸善、1977年
  12. ^ a b WO 2009126214 
  13. ^ 中原勝儼 (1997). 無機化合物・錯体辞典. 講談社. p. p. 1001. ISBN 4061533657 
  14. ^ 千谷 (1959) 163頁。
  15. ^ 新良宏一、庄野利之 益田勲 共訳 『基礎分析化学』 三共出版、1982年
  16. ^ 石田信博、荻野一善、中川 鶴太郎 (1965). “ポリスチレンスルホン酸水溶液の粘度に対する添加塩の影響”. 日本化學雜誌 86 (1): p.1029-1030. doi:10.1246/nikkashi1948.86.1029. https://doi.org/10.1246/nikkashi1948.86.1029 . 
  17. ^ 平成27年度 研究成果発表会要旨集”. 市販の銀含有創傷被覆材の抗菌性と細胞毒性の in vitro 評価 (p. 108). 独立行政法人東京都立産業技術研究センター. 2016年4月7日閲覧。
  18. ^ 創傷被覆・保護材一覧”. 日本褥瘡学会. 2016年4月8日閲覧。
  19. ^ 銀塩”. 日本ヘアカラー工業会. 2016年4月4日閲覧。
  20. ^ 千谷 (1959) 160頁。
  21. ^ 堀田健太郎、熊谷哲 (2015). “化学的酸素要求量(CODMn)における銀の添加量の評価”. 環境技術 44 (8): p. 468. doi:10.5956/jriet.44.468. https://doi.org/10.5956/jriet.44.468. 
  22. ^ 日本工業規格 JIS K 0102 工業排水試験方法
  23. ^ 稽永康、沖猛雄、高光沢非シアン化銀めっきに及ぼす添加剤の影響 表面技術 1994年 45巻 4号 p. 416-421, doi:10.4139/sfj.45.416
  24. ^ a b GHS Classification Result: disilver(1+) sulphate”. 独立行政法人製品評価技術基盤機構. 2016年4月7日閲覧。

参考文献

  • 千谷利三『新版 無機化学(上巻)』産業図書、1959年。 



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