真正細菌のホロ酵素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 22:22 UTC 版)
「RNAポリメラーゼ」の記事における「真正細菌のホロ酵素」の解説
2002年のダーストらのX線結晶構造解析から3つの結論が出された。(1) σ因子(σA)とβおよびβ’サブユニットとの間には広い範囲の相互作用がある。(2) σ因子のN末端にある91個のアミノ酸 (ドメイン1.1) が欠損しているホロ酵素にはDNAを通す割れ目があったが、それにしては小さい。このことから、91個のアミノ酸は割れ目をこじ開けてDNAを結合させると推測されている。(3) σ因子中のドメインのうちの2つ (ドメイン3と4) をつなぐ、明確な三次構造のないループはRNAポリメラーゼホロ酵素の活性部位に近く、また転写産物の出口に存在している。 2番目で欠損している部位を解釈しているのは、ダーストらは完全なホロ酵素を結晶化することができず、ドメイン1.1を欠損したσのそれを撮影に用いたからである。よって、完全な構造は明らかでないが、その予測はできる。例えば、回折像によると切断されたN末端がαサブユニットの端に位置し、活性部位にまっすぐ向く。また、ドメイン1.1は中性pHで約3分の1の残基が負電荷となるほど酸性アミノ酸が非常に多い。塩基性アミノ酸が並ぶ活性部位にいかにも強く結合できそうである。ダーストらはこれを、ドメイン1.1は小さすぎる入口をこじ開けてDNAを内部に結合させるためと考えた。そして、内部でDNAは融解し、ホロ酵素は閉鎖型複合体になるのと考えられる。その際にドメイン1.1は解離し、内部のDNA周辺で活性部位は閉じると考えられる。この解離は、閉鎖型複合体に保護されていたのが、開放型複合体への移行でドメイン1.1がヒドロキシルラジカルにさらされるためのようである。リチャード・エブライトは閉鎖型複合体のドメイン1.1が開放型複合体では消えていることを蛍光共鳴エネルギー移動実験で証明した。 3番目の見解には2つの解釈がある。第一に、σ因子は活性部位に近づくことでリン酸ジエステル結合の形成に携わる。第二に、ループの連結鎖は転写産物の出口を塞ぐことで、アボーティブ転写産物の形成を行う。アボーティブ転写産物形成については、連結鎖と開始段階で合成されるRNAは出口を占有するための競合をするという仮説がある。連結鎖が勝つとRNAの伸長は中断され、短いアボーティブ転写産物として放出される。アボーティブ転写産物は完成した転写産物より過剰に合成される (大腸菌では11倍過剰) ので、この過程はおそらく何度も繰り返される。約12nt以上にうまく成長できたときにRNAはようやく競合に勝つ。連結鎖はRNAにどかされ、結果、コア酵素とσ因子との結合は弱くなる。もしくはコア酵素から解離して伸長への移行に備える。ダーストらは、連結鎖を欠損したσ因子でアボーティブ転写産物は多量に生産されないことを確認した。アボーティブ転写産物はσ因子が活性部位に存在するための副産物であると推測される。伸長の礎となる短いDNAを結合させるためσ因子が活性部位に接近することで、必然的に連結鎖は出口を塞いでいると考えられる。
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