真正細菌のレプリコン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:03 UTC 版)
原核細胞のゲノムは単一のレプリコンである。DNA複製は常に唯一の複製起点から、細胞周期の中ただ一度だけ実行される。この仕組みを単コピー型と呼ぶ。ただし、真正細菌の中にはコレラ菌のように複数の環状染色体を持つものや、ボレリア菌のように複数の線状染色体をもつものも存在する。原核細胞にはゲノムDNAだけでなく、自律的に増殖する染色体外DNAたるプラスミドも存在する場合が多い。こちらは染色体同様に単コピー型制御の場合もあれば、それとは異なる多コピー型制御を受ける場合もある。多コピー型の制御下では一回の細胞周期中にプラスミド複製が繰り返され、細胞中に複数のコピー体が存在することになる。 大腸菌と枯草菌の場合、DNA複製を終わらせるter配列に独特で面白い性質がみられる。両方向にほぼ同じ速さで進む2つの複製フォークは複製起点oriC から半周した位置に出会う。この遭遇点から約100kbにわたり、2か所の終了領域がある。大腸菌において一方はterE, D, Aが、他方はterC, A が集まっている領域。枯草菌ではterI とterII およびこのほかの2, 3の部位である。各領域は終了させる複製フォークの方向が特異的に決まっている。独特なのは、複製フォークが対応するter配列まで行くのに、他方に対応している終了領域を通り過ぎることである。この配置は複製フォークの待ち伏せを起こす。すなわち、何らかの理由で一方の複製フォークが遅れ、両フォークが本来の遭遇点で出会えなくても、早く進んできたほうがter領域で止まって到着を待つのだろう。 細胞周期にDNA複製がたった一回しか行われないためには複製起点に点火済みか否かを示す目印が必要となる。細菌の複製起点にはいくつかメチル化された配列が存在し、これらメチル化状態はDNA複製の前後で異なる。この違いが目印である。例えば大腸菌のoriC には11個のGATC-CTAGがあり、これはアデニンのN6位をメチル化するDamメチラーゼ (Dam methylase, Dam methyltransferase, DNA adenine methylase) の標的配列である。複製前は標的配列の両鎖ともメチル化されている。複製により、メチル化のない娘鎖が会合。結果、dsDNAの一方だけメチル化されたヘミメチル化DNA (hemimethylated DNA) となる。ヘミメチル化は複製開始を阻害すると考えられている。なぜなら、全くメチル化されていない複製起点は効率よく機能するため、複製開始に両鎖のメチル化が必要という考えが否定されているためである。ゲノム中のほかの典型的なGATC配列はどこにあろうと複製後1.5分以内にメチル化されるのに対し、複製起点のそれは約13分かかる。このため、複製起点の標的配列は何らかの形で保護されていると思われる。 damメチラーゼをoriCから隔離する機構がseqA遺伝子の研究で明らかにされつつある。
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