発酵産業と雑菌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/23 22:43 UTC 版)
発酵産業において、雑菌の混入は非常に頭の痛い問題である。酒類の醸造では、酵母よりも繁殖力旺盛な雑菌はいくらでもあり、またこれらはせっかく生産されたアルコール分を分解する酢酸菌や乳酸菌などといった望まれない菌が混入してしまうと、酒は腐ったり、そのまま酢になってしまう。 ワイン製造でも、アルコールの分解で酸っぱくなってしまう事は、古くから問題とされていた。一度仕込んだワインを加熱してしまうと、酵母まで殺してしまいかねない。煮沸するなどして腐る事を予防する事は出来ないため、醸造関係者は細心の注意を払っていたが、それでも雑菌混入により醸造に失敗する事があった。特に原料となる葡萄表面に、何らかの雑菌が付着していた場合には、所定の畑から作られたワインが全滅する事すらあったという。1850 - 1860年代にはフランスで、仕込んだワインが大量に腐る事件が発生、醸造関係者は失業の危機に見舞われた。この時ルイ・パスツールが低温殺菌法を発明し、事態が収拾した。 日本で米を利用して生産される日本酒では、熱く蒸した米を利用し、また経験的に火入れと呼ばれる低温殺菌法を利用するため、原料からの雑菌混入の心配は無いとされるが、納豆菌の混入が致命的な問題となる。納豆菌が酵母よりも旺盛な繁殖力で、蒸した米を養分にしてしまうためである。特に納豆菌だけは、他の菌と違い、熱湯消毒ができない(芽胞を形成するため)。このため杜氏は日本酒を仕込む期間の間、納豆を一切口にしない。なお米が豊作の年には、米の質の関係から、醸造に失敗しやすい事もある。これは豊作の年の米が比較的硬いため、酵母が充分繁殖するのに時間がかかり、その間に雑菌が繁殖してしまうのだという。大正4年(1915年)には、この現象(後に「大正の大腐造」とも呼ばれたという)により日本各地で醸造に失敗、酒造業全体に深刻なダメージを被ったとされている。 ※なお低温殺菌法は現在、様々な飲料に利用されている。フランスワイン大腐造事件を契機に低温殺菌法が生まれて後世の食生活を豊かなものにした一方で、皮肉にもはるか昔より優れた低温殺菌法である「火入れ」技法を持っていた日本において昭和23年(1948年)に再発した大腐造は、第二次大戦後の食糧不足も相まって質の悪いアルコール添加酒や三倍醸造酒の普及の契機となり、熱心な日本酒愛好家を嘆かせている。
※この「発酵産業と雑菌」の解説は、「雑菌」の解説の一部です。
「発酵産業と雑菌」を含む「雑菌」の記事については、「雑菌」の概要を参照ください。
- 発酵産業と雑菌のページへのリンク