病原体が病原体として存在し続ける理由
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/11 01:36 UTC 版)
「病原体」の記事における「病原体が病原体として存在し続ける理由」の解説
宿主が元気で生き続けてくれるほうが寄生生物にとっては自分が行き続けるのに必要な環境が温存され、宿主を殺してしまってはその環境が消滅してしまうことになる。このように宿主を病気に陥らせ死に至らしめることは、「生き残り」の上では寄生者にとって不利に働くように見えるにもかかわらず、このような病原性を持つ寄生生物が世代を重ね生き続ける理由には、以下のようなことが考えられる。 宿主の咽頭や鼻腔で繁殖して積極的にそうした部位の病気を引き起こすことで宿主に咳やくしゃみをするようになってもらったほうが空気感染やエアロゾル感染できるので、伝播する上でむしろ有利である。また宿主の大腸などで繁殖し下痢を引き起こすことも、微量の便が尻の周辺や周辺物などにつくなどして周囲の宿主候補と接触する機会が増え(ヒトの場合も下着に付着したり、何段階か経て間接的に手に微量に付着するなどして他のヒトに伝播する機会が増え)、やはり多くの宿主にたどりつく上でむしろ有利である。それに、これは単純な算数の問題である。宿主1個体がどれだけの個体に感染させるかという指標、実効再生産率が1以上であれば寄生生物はとりあえず生存しつづけられるし、実効再生産率がもっと高ければ、ねずみ算(指数級数)的に大増殖してゆく。たとえそれなりの確率で宿主を殺してしまっても、宿主を死に至らせるまでの期間がそれなりに確保できて病気に罹患している期間に同時平行的に新たな宿主をねずみ算的に増やしてゆければ、寄生生物は巨視的にはむしろ大増殖できる。つまりまとめると、ある種の病気を発症させることは寄生生物の伝播力を高める上でかなり有利に働き、そうして伝播力を高めた(実効再生産率が高めた)寄生生物にとっては宿主が生き続けるか死んでしまうかという差異はかなり小さな問題になってしまい、つぎつぎと伝播しては宿主を殺してつまり宿主を「使い捨て」的に使用しても大増殖しつづけられる。 (ただし、宿主を殺してしまってもさほど不利にならないのは、あくまで伝播力が高い場合の話である。コンピュータシミュレーションなどをやってみれば判ることだが、実効再生産率が1より小さいのにあまりに宿主を殺すようだと、その寄生生物(の変異種)は、大局的に言うと、全滅までの期間が短くなる。また、宿主を感染直後あまりに短時間で殺してしまって伝播する機会を自分で減らしてしまうような変異が起きると、不利に働き、減少に加速がかかり、もし変異種間の競争があれば、宿主を原則的には生かすことで高伝播力を得ている変異種との相対的競争に負けて、あっけなく消えてゆく。) 普通は被害を及ぼさないのだが、宿主の健康が良くない場合には被害が出てしまう場合。普通は共生と言っていい関係にありながら、宿主の体力が落ちたなどの場合に病気を引き起こすものは、往々にして日和見感染と呼ばれる。 なお、宿主を殺す寄生者としては昆虫によく見られる捕食寄生という型がある。これは逆に必ず宿主を殺す点に特徴があり、寄生と捕食の中間に位置するとも言われる。これは生活史のある段階を経る際に宿主を殺してしまうが、病原体は宿主を必ずしも殺さなければならない必然性を持っていない点で異なっている。ただし、ハエカビ類やゼンマイカビなどの一部の寄生菌類はこのどちらとも言われることがある。
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