物類品隲
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田村藍水が長崎で入手した珍品[1][2]。舶来品のトッケイヤモリとイグアナ[3](またはカロテストカゲ[1])の液浸標本と推定されるが、源内はカイマンやクロコダイルと混同している[3]。

『物類品隲』(ぶつるいひんしつ[5]、異体字: 物類品騭)は、平賀源内の本草学・物産学分野の著作。源内が開催した物産会の出品物を解説した書物。江戸時代中期、1763年(宝暦13年)刊[5]。
内容
本文4巻・図絵1巻・附録1巻の計6巻からなる[5]。
序跋が田村藍水(源内の師)・後藤梨春・久保泰享から寄せられている[1]。南蘋派画家の宋紫石(楠本雪渓)が図絵[6]、中川淳庵らが校閲を担当している[7]。
源内や藍水が江戸で開催した物産会「東都薬品会」の第1回(1757年)から第5回(1762年)までの出品物、約2000点のうち、約360点を精選して載せる[8][9]。出品者は源内と藍水をはじめ、青木昆陽・杉田玄白・吉雄耕牛・細川重賢・渡辺吉賢・中島利兵衛らがいた[10][9]。
出品物は多岐にわたり、ランビキで採れる「薔薇露」(紅毛語ローズワアトル)に始まり[1][11]、源内の油絵『西洋婦人図』にも使われた顔料ベルリンブルー(ベレインブラーウ)[1]や、のちの「源内焼」に繋がる陶土[1]、その他、石鹸[12][1]・古銭[13]・木綿[14]・蝦夷種附子[15]・サフラン[1][15]・サソリ[1]・龍骨[1]・スランガステーン[1]・鼉龍[1]・ジャコウネズミ[1]などが載っている。
出品物を14種類(水部・土部・金部・玉部・石部・草部・穀部・菜部・果部・木部・蟲部・鱗部・介部・獣部)に分類して、異名・形状・効能・用法・産地などを記す[1][12]。「品隲」という題名通り、出品物について「上・中・下」三品の品評も記す[1][16][17]。本草学・物産学だけでなく蘭学[18][1]・農学・園芸学[19]・名物学[19][1]・方言学[19][1]などの要素も含む。
『本草綱目』の分類体系に基づきつつも、『本草綱目』の内容を積極的に批判している[1][4][20]。古今東西の書籍を参照しており[1]、宋応星『天工開物』[21][5]、方以智『物理小識』[21][5]、宮崎安貞『農業全書』[1]、ドドネウス『草木誌』(『紅毛本草』)などを参照している[15][11]。
第5巻は、本文中から珍品36点を選んで図示する[5]。西洋の明暗法(キアロスクーロ)を木版画に用いるという試みもされている[22]。
第6巻は、朝鮮人参と甘蔗(サトウキビ)の栽培法と製糖法を記す[5][23]。これらは当時海外輸入に頼っていたため、国産化が画策されており[1][5]、徳川吉宗の「享保の改革」の殖産興業政策においても重視されていた[1][16]。源内は「国益」に資するため第6巻を記した[1][4]。
出版・受容
須原屋市兵衛(『解体新書』の版元でもある)などが版元となり[24]、江戸だけでなく上方でも出版された[25][24]。
岡元鳳『毛詩品物図攷』(1784年)は『物類品隲』の鼉龍図を襲用している[26]。
現代語訳など
- 松井年行『物類品騭の研究』美巧社、2020年。ISBN 978-4863871175。
- 『日本農書全集 第70巻 学者の農書 2』農山漁村文化協会、1996年。ISBN 9784540960154
- 『覆刻日本古典全集』現代思潮新社、1978年。ISBN 9784329005489。
参考文献
- 上杉和央『江戸知識人と地図』京都大学学術出版会、2010年。 ISBN 978-4876987955。
- 上野益三『日本博物学史 増補版』平凡社、1986年 。NDLJP:12592042
- 文庫版: 講談社〈講談社学術文庫〉、1989年。ISBN 978-4061588592。
- 金山喜昭「物産会から博覧会へ 博物館前史と黎明期を辿る-」『Museum study』第30号、明治大学学芸員養成課程、2019年。 NAID 120006768596 。
- 武田科学振興財団・杏雨書屋 編集『杏雨書屋特別展示会 第79回 近世の薬品会・物産会』武田科学振興財団、2024年。 NCID BD09867501
- 杉本つとむ『江戸の博物学者たち』青土社、1985年 。NDLJP:12592029
- 文庫版: 講談社〈講談社学術文庫〉、2006年。ISBN 978-4061597648。
- 土井康弘『本草学者 平賀源内』講談社〈講談社選書メチエ〉、2008年。 ISBN 978-4062584074。
- 西村三郎『文明のなかの博物学 西欧と日本 上』紀伊國屋書店、1999年。 ISBN 978-4314008501。
- 橋本正明(木人子室)『本草学者という人々 江戸時代の物産会』2020年 。2025年3月1日閲覧。
- 松田泰代「史料から見た『物類品隲』出版経緯に関する一考察」『書物・出版と社会変容』第5号、「書物・出版と社会変容」研究会、2008年。 NAID 120006932558 。
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y 土井 2008, 3章.
- ^ 松井 2020, p. 175.
- ^ a b 西村 1999, p. 142.
- ^ a b c 謝蘇杭 (2024年). “物類品隲 - 古典に親しむ | 国文学研究資料館”. 2025年4月6日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 佐藤昌介『物類品隲』 - コトバンク
- ^ 上杉 2010, p. 286.
- ^ 橋本 2020.
- ^ 西村 1999, p. 140.
- ^ a b 上杉 2010, p. 268f.
- ^ 上杉 2010, p. 246f.
- ^ a b 武田科学振興財団・杏雨書屋 2024, p. 5.
- ^ a b 金山 2019, p. 6.
- ^ 上杉 2010, p. 257.
- ^ 土井 2008, 2章.
- ^ a b c “『物類品隲』 | コレクション | 印刷博物館 Printing Museum, Tokyo”. www.printing-museum.org. 2025年4月6日閲覧。
- ^ a b 杉本 1985, p. 74.
- ^ 上杉 2010, p. 283f.
- ^ 西村 1999, p. 134.
- ^ a b c 杉本 1985, p. 78.
- ^ 杉本 1985, p. 76.
- ^ a b 杉本 1985, p. 83.
- ^ 上野 1986, p. 58.
- ^ 西村 1999, p. 143.
- ^ a b 松田 2008, p. 67.
- ^ 西村 1999, p. 146.
- ^ 原田信「日本『詩経』図譜初探」『教養・外国語教育センター紀要 外国語編』9 (1)、近畿大学全学共通教育機構教養・外国語教育センター、2018年。 NAID 120006545326 。52頁。
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