溶媒としての炭化水素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/23 14:44 UTC 版)
「タイタンの生命」の記事における「溶媒としての炭化水素」の解説
地球のあらゆる生命(メタン菌も含む)は溶媒として液体の水を使用している。同様にタイタンの生命を考える場合、水の代わりにメタンやエタンといった液体の炭化水素を溶媒として使うことが想像できる。 水は炭化水素よりも様々なものを溶解させる能力が高い溶媒であるという利点を持つ。一方で水は化学反応性も高く、不安定な有機分子は加水分解などによって破壊されてしまうこともあるという危険な一面持っている。炭化水素を溶媒として使う生命は、生体分子をこうして破壊されてしまうリスクから逃れることができる。 タイタンの地表には液体エタンまたはメタンの湖が存在しており、また川や海もあり、いくつかの科学モデルは仮説上の水によらない生命の存在を示唆する。 タイタン地表の川や湖を形成する液体メタンとエタンの中に存在する生物は、地球の水の中の生物のような存在だと推測できる。仮説上のこうした生物は、酸素の代わりに水素を取りこみ、グルコースの代わりにアセチレンと反応させ、二酸化炭素の代わりにメタンを吐き出すと予想される。一方で、地球のメタン菌は水素と二酸化炭素の反応でエネルギーを獲得し、メタンと水を生み出している。 2005年、宇宙生物学者のクリストファー・マッケイ(英語版)とHeather Smithは、もしメタン生成生物が大気中の水素をある程度消費していれば、タイタンの対流圏の混合比に測定可能なレベルで影響を与えているはずであるという予測を行った。影響があるとすれば、水素とアセチレンの濃度が通常想定される量よりも有意義に減少しているとされた。 これらの予測の証拠は、2010年6月にタイタン上層/下層大気の水素濃度のデータを分析していたジョンズ・ホプキンス大学のDarrell Strobelにより報告された。Strobelは大気上層の水素濃度が地表付近の濃度より高く、拡散により下方に毎秒1025mol程度の割合で流れていることを発見した。地表付近ではこの現象は一見したところ確認できなかった。 他の研究では、同年同月にタイタン地表での極めて低いアセチレン濃度が報告されている。 クリストファー・マッケイはStrobelの報告を、2005年の自説が示した通り生命の存在で説明できるとしている。しかし、他にもありそうな説明として、単純なヒューマンエラーや、隕石に起因するもの、または水素とアセチレンの化学反応を促す何かしらの触媒の効果とする説もある。 だがマッケイは触媒説に対して、−178°C (95K) の環境でこのような効果を発揮する触媒は未だ知られておらず、そんなものがあればそれ自体発見であるとして、地球外生命より可能性は低いと述べている。 2010年6月の発見は多くのメディアの関心を呼び、イギリスの新聞デイリー・テレグラフは、これを「原始的なエイリアン」の存在の手がかりと報じた。
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