消極的平和と積極的平和
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「消極的平和(しょうきょくてきへいわ)」・「積極的平和(せっきょくてきへいわ)」というフレーズは、1942年にアメリカの法学者クインシー・ライトが唱えたのが最初とされる。その後、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングが、既存の肉体的暴力、精神的暴力、性的暴力などといった「直接的暴力」(direct violence)と、暴力が貧困や差別、格差など社会的構造に根ざしている場合の「構造的暴力」(structural violence)を提起したことにより、従来の平和学における「平和=単に戦争のない状態」と捉える「消極的平和」に加え、戦争の原因となる構造的暴力がない状態であるとする「積極的平和」(positive peace)という概念が確立し、平和学の理解に取り込まれ、一般的な解釈となった。日本でも20世紀から同様に解釈されており、『構造的暴力と平和』(1991年中央大学出版部発行)などが出版されている。 その結果、現行の平和学の対象領域は広がり、貧困、飢餓、抑圧や開発、ジェンダー、コミュニティ、ノーマライゼーション、異文化教育といった日常生活に関わるテーマも含むようになった。 なお、安倍晋三首相が第2次安倍内閣で国家安全保障戦略の基本として掲げ、第3次安倍内閣でも継続されている理念の「積極的平和主義」は、上記の解釈とは隔たりがあるとする指摘がある。ガルトゥングは2015年(平成27年)8月22日、沖縄県浦添市へ招かれて講演した際、「安倍首相は『積極的平和』という言葉を盗用し、私が意図した本来の意味とは正反対のことをしようとしている」とこれを否定した。また「私は、日本がこう主張するのを夢見てやまない。『軍隊は持たず、外国の攻撃に備えることもない』と」とも語っている。 ただ英訳ではガルトゥングの積極的平和は「Positive Peace」なのに対し、安倍首相の積極的平和主義は「Proactive Contribution to Peace」で異なり、日本語でも「主義」がつくか否かの違いがあるが、2015年(平成27年)9月4日の参議院特別委員会では、岸田文雄外務大臣は、安倍政権の積極的平和主義について「貧困や搾取に対処すべきであるという観点では、ガルトゥング博士の積極的平和と重なる部分は多い」と主張している。 詳細は「積極的平和主義」を参照
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