有界作用素
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有界作用素
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ヒルベルト空間 H1 から別のヒルベルト空間 H2 への連続線型作用素 A: H1 → H2 は有界集合を有界集合へ写すという意味で「有界」である。逆に、有界な線型作用素は連続になる。二つの有界線型作用素の和および合成は、ふたたび有界かつ線型であり、このような有界線型作用素全体の成す空間には、作用素ノルムと呼ばれるノルム ‖ A ‖ = sup { ‖ A x ‖ : ‖ x ‖ ≤ 1 } {\displaystyle \lVert A\rVert =\sup\{\,\lVert Ax\rVert :\lVert x\rVert \leq 1\}} が定義される。また、H2 の元 y に対して、x ∈ H1 を ⟨Ax, y⟩ へ写す写像は線型かつ連続である。リースの表現定理によれば、有界線型作用素は必ず H1 の適当なベクトル A∗y に対する ⟨ x , A ∗ y ⟩ = ⟨ A x , y ⟩ {\displaystyle \langle x,A^{*}y\rangle =\langle Ax,y\rangle } の形で表現可能である。この定義から、もう一つの有界線型作用素(A の随伴作用素)A∗: H2 → H1 が定まる。このとき、A∗∗ = A であることが確かめられる。 H 上の有界線型作用素全体の成す集合 B(H) に、作用素の加法と合成および作用素ノルムと随伴作用素を考えたものは、作用素環の一種である C∗-環を成す。 B(H) の元 A は A∗ = A を満たすとき自己随伴作用素もしくはエルミート作用素と呼ばれる。エルミート作用素 A が ⟨Ax, x⟩ ≥ 0 を任意の x で満たすとき、A は非負であるといい、A ≥ 0; で表す。さらに等号成立が x = 0 のときに限るならば A は正であるという。また、 A − B ≥ 0 ならば A ≥ B なるものと定義すれば、自己随伴作用素全体の成す集合に半順序 ≥ が導入できる。作用素 A が適当な B に対して A = B∗B なる形に書けるならば、A は非負であり、さらに B が可逆のとき A は正になる。また、非負作用素 A に対して A = B 2 = B ∗ B {\displaystyle A=B^{2}=B^{*}B} を満たす非負平方根 B が一意に定まるという意味で逆が成り立つ。これは、スペクトル論によって精緻化することができ、自己随伴作用素を「実」作用素と看做すことが有効であると分かる。B(H) の元 A が A∗A = A A∗ を満たすとき、A は正規であるという。正規作用素は、自己随伴作用素と自己随伴作用素の虚数倍の和 A = A + A ∗ 2 + i ( A − A ∗ ) 2 i {\displaystyle A={\frac {A+A^{*}}{2}}+i{\frac {(A-A^{*})}{2i}}} に分解され、各項は互いに可換になる。正規作用素をその実部と虚部とに分けて考えることも有用である。 B(H) の元 U が可逆かつその逆作用素が U∗ で与えられるとき、U はユニタリであるという。この条件は「U が全射かつ H の各元 x, y に対して ⟨Ux, Uy⟩ = ⟨x, y⟩ を満たすこと」とも言い換えられる。H 上のユニタリ作用素の全体は、合成に関して H の等距変換群と呼ばれる群を成す。 B(H) の元がコンパクトであるとは、それが有界集合を相対コンパクト集合へ写すときに言う。同じことだが、有界作用素 T について、任意の有界列 {xk} に対して列 {Txk} が収束部分列を持つとき T はコンパクトである。多くの積分作用素はコンパクトであり、事実ヒルベルト=シュミット作用素として知られるコンパクト作用素のクラスが積分方程式論において特に重要な働きをする。フレドホルム作用素は恒等変換の定数倍の分だけコンパクト作用素とは違うけれども、核と余核が有限であるような作用素としても特徴付けられる。フレドホルム作用素の指数 (index) は index T = dim ker T − dim coker T . {\displaystyle \operatorname {index} \,T=\dim \ker T-\dim \operatorname {coker} \,T.} で定義される。この指数はホモトピー不変量であり、アティヤ・シンガーの指数定理を通じて微分幾何学で深い役割を果たす。
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